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公園の墓場

穴を掘っていた。埋めるものはない。スコップごしに芝生がぶつぶつとちぎれる感触。夜、公園の広場には誰もいない、隅でピンク色のボールが照明にてらてらと光っている以外には。ただ掘って、柔らかくした土を戻す。薄着なのに汗が流れる。汗疹ができてしまうだろうがタオルは持っていなかった。遠く国道の方から男たちが通りすぎる陽気な声がする。

翌日、子らがやってくる。がふがふと犬のように走り転げている。
「これ!」
一人が立ち止まる。
「なに」
「山?」
「土だね」
「もぐら塚じゃない?図鑑で見たことある!」
眼鏡の男児が山になった土を蹴る。柔らかな土が飛び散り、いないもぐらが悲鳴をあげる。女はベンチで一部始終を見ている。一番背丈のある子供が気付いて、女のところへやってくる。
「それ、貸してくれませんか」
女はスコップで体を支えたまま静止している。
三秒経つと男児は舌打ちをして
「だめだったよお」
と叫びながら輪に戻っていく。女の影に隠れていたもぐらの幽霊は、ありがとう、また子供に殺されたら、呪ってしまうかもしれなかったと言った。子らはもう土には目もくれず、誰の物でもないピンクのボールを太陽に蹴りあげてゲラゲラと笑っていた。

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