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珈琲と喫茶店。大人になった僕に、笑顔とバストは未だに物語る。

行きつけの喫茶店が欲しい。齢40の僕は、大人としての嗜みとしてそう考える。それは、誰しも願うし憧れるであろう。

僕が訪れるその店は行きつけとはほど遠く、駅近くにある雑踏の中の一軒だ。

未だに喫茶店で1人で何をしたらいいか分からず、ソワソワソワソワする。

起こるドラマがあるならば、文学誌などを片手に取り、在りし日の永井荷風や谷崎潤一郎。耽美派などに思いを耽けながら読書をしながらがいい。

ページを捲りながら重い瞼を開き隣に目を向けると、そこにいる2人は共有した時間を示すように、男女にしか出せない独特の空気を互いの沈黙の中に出していた。

僕は、男女が織り成す耽美な世界が見れそうだと思いつつ、コーヒーをゆっくり口にする。

というような。イメージだ。

現実には、まだ僕にはそういう店が見つからない。

駅近のお店で本日のオススメの珈琲をいただき一口含む。

Recommended coffee そう書かれたメニュー表を見ながら、ネイティブっぽくイメージする。

「エチオピア産ね」

と、書いてある情報をただ発するだけで、ほんとにそうなのかもわからない。

「僕にコーヒーを教えてよ」

あの時もそんな事を話していたと思い出す。

こんな僕にも、青春をかけて好きになった女性がいる。彼女とは、三年ほどお付き合いした。
お付き合いに至るまで合計5回くらい告白している。

我ながら、引く。

そこ迄して好きだった彼女に、三年後別の男の人が好きになったと言われ、

「君が幸せになるならその方がいい」

と、自分の口から出たデマカセ史上No.1の、思ってもいないセリフを出してしまい喜んでお別れされた21歳の春終。

僕が上京を決意するには、充分な理由だった。

そんな笑顔が似合う、バストが大きめな彼女は、僕の気持ちを弄ぶかのように、たまに連絡を寄越して来ていた。

僕の気持ちを知っていて連絡してくる彼女だが
僕は、それすらどこか嬉しかった。

我ながら、引く。

「今、伊勢原じゃなくて、東京にいるの。時間余裕あるから久しぶりに会わない?」

僕は、ニヤニヤしながら嬉しさを隠すトーンで答えた。

「奇遇だね。僕も東京に住んでるんだ」

当たり前の話しに彼女はノーリアクションで、
僕は渋谷の喫茶店へ呼び出された。

渋谷。道玄坂。そうか。
今日は帰らないということだ。

僕は、彼女の気持ちは何でも分かると自負していたので、溢れんばかりの下心満載で喫茶店へ向かった。その下心は、もう僕のどこをつついても、湧水地になるくらいの下心だった。

当時の僕は、今のように何もしなくても醸し出す大人の香りを持ち合わせてはいないので、香水を振り撒いて架空の自信に上塗りをし自身信じた。(韻踏んでます)

それはD&Gでもなく、CKでもなく、
僕に必要な「ウルトラマリン」だった。

僕達は、喫茶店で向かい合い、久しぶりの時間を確かめた。僕は大きめのバストの彼女のどこを見るべきか迷いつつ結局はバストを見ていた。

大きめのバストの彼女は、控え目に話し掛けてきた。

「ラテアートしてみたいんだよね」

彼女は、テーブルの上に置かれたエスプレッソを見ながら大きめのバストで語る。

僕は、大きめのバストしか興味がなかったので、

「僕にコーヒーを教えてよ」

と、半端に答えた。
彼女は、僕の反応を確かめると何も言わずに話題を変えた。

「今何の音楽聞いてるの?」

僕は鳴り響いてる2人の思い出の曲はあえて隠して答えた。

「○○○だよ」

と、成長を誇示するように、彼女と共に歩いてきた時間とは違う大人の時間を過ごした事を装った。

大きめのバストの彼女は大きな目を僕に向けた。
僕の答えに興味があるようにも見えるし、無いようにも見える。結局のところ僕にはわからない。

「へぇ。やっとわかる様になってきたね」

その瞬間、僕はバストから目線を外した。

は?

やっとって何?

冷静を装うというのは、こんなにも難しいのかと思った。ドンだけ~。って。ちょ。ドンだけ上から来るの?えっ?同じ曲聞いてたやん。三年くらい。それどこいったの?って。

ドキドキした。逆ドキドキだ。ドンだけ僕はイケてなかったのだろう。僕はドンだけ彼女の中でダサいセンスだったんだろうか。ダサい三年返却されたらどうしよう。返されても困るし。

萎えそうな下心を必死で立て直して
僕は精一杯微笑んで答えた。

「うん。そうだね。」

大きめのバストの彼女は少ししっとりした眼差しを僕に向けて似合う笑顔で言う。

「じゃそろそろ帰ろうか」

理解する時間が欲しかった。

そんなこと起きるのかい。どんな流れ?
えっ。帰るの?と、いろいろ聞きたい事があったのだが、僕は結局従った。

月夜を見上げながら東京の地面に怒りを込め、
自分が情けなくなり、頭の中はそこだけ切り取ったとんねるずの「情けねぇ」の無限ループに陥った。

沸々とした怒りを押さえ、溢れ出た下心の回収もままならない帰宅の途中にそれは来た。

メールが入りました。当時はメールです。

「泊まってもよかったんだよ」

はぁ情けねぇ。 

そう思いながら、僕は下心を押さえられず結局
、夜の蝶に会いに行き喫茶店より先に行きつけのお店を見つけた。


思い出した記憶に揺さぶられ、もし今現在彼女に呼ばれたら僕はどうするかを考える。

少し迷ったが、下心に勝てる自信はなかった。

なんのはなしですか

私に耽美な精神が訪れるのはまだ先である。

「僕にコーヒー教えてよ」その言葉の答えを探すべく僕は行きつけの喫茶店を探す物語へ出る

木ノ子。コーヒーと喫茶店を考える。



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