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【#21】嫌いな食材も、おいしく。

ミスターキッチンを名乗りインスタでごはんをUPし続けているくせして僕はドが付く偏食だ。あれが嫌いこれが嫌い、正直いい歳して恥ずかしいけれど無理なもんは無理だ、そっとしておいてほしい。
とはいえ、ごはんを家族に作る場合に自分の好みに偏らせるわけにはいかない。作ってくれている農家さんには申し訳ないことこの上ないが、嫌い食材を料理として成立させる能力はあると自負していて、よくそれを不思議がられる。

ポイントは、ニーズ。

僕が嫌いな食材だけど、みんなが大好きな食材を使って料理をする時、意識すべきは”ニーズ”。つまり〈みんなはこの食材に何を求めているか〉。
たとえば大根。
僕は大根が苦手だ。噛んだ瞬間ジュワッと滲み出るあの悲しい汁。切ない汁。まるでブルース・リーの映画だ。ブルース・リーは相手がもうコテンパンにやられ反撃できない状態なのにも関わらず倒れた相手の喉元を踏みつけ、切なさ100%の表情でゴキっとトドメを刺す。そこまでしなくてもいーじゃん、である。打って変わってジャッキーチェンはトドメをささない。ベシベシとあっけらかんとやっつけてオシマイ。そんなあっけらかんな、ジャッキーな、鶏唐みたいなのが好きなんだ僕は。
ごはんって、パクっと食べた瞬間、うまい!とか、よし!とか元気になりたいと思うから、あの切ない大根の汁だったり、なんとも中途半端なニュメッとしたナスビがだめなんだ。でも、それを美味しくするには、ニーズ。

大根は抵抗をゼロにする。

でも、みんなが求めていることはなんとなくわかる。それは箸を入れた途端何の抵抗もなくスルリと割れ、噛んだ瞬間かすかな口触りとともに味が滲み出てくるってことだろう。このゴールさえ決まれば、そこへいくための手間は惜しまない。
雪平に少量の洗い米と面取りした大根を並べ、浸かるくらいに水を入れ、煮始める。別の鍋で、ごくごく薄口の出汁を引き始める。注意すべきは、昆布を主体にすべきってことだ。鰹はすぐに雑味と臭みが出る。もし入れるのであれば、煮立つ前にさっと引き上げなけりゃいけない。

熱いままお引越し。

大根を五分通りに茹でたら、白湯を張ったボウルに移し、熱を冷まさない。
空にした雪平に大根を並べ直し、出来上がった出汁を注ぐ。そこから蓋をして、ごくごく弱火で、延々と。蓋をしないと出汁がどんどん蒸発し、味が詰まって濃くなってく。この”詰める”という作業はとっても大事なことだけれど、大根は”詰めない”。
はやる気持ちを抑え、食べるのは明日。箸をいれた瞬間、口にした瞬間、WOWが巻き起こるのは、明日だ。

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