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きらきら光る、雨粒を見ていた【6/24オリックス戦●】

振替試合の月曜日。天気は雨。

神宮はガラガラだった。まあ、そりゃあそうだ。なかなかこんな日に、さあ野球を見に行こう、とは思いつかない。

青汁のcmが静かに響く。元広告営業としては、このガラガラデーのスポンサーが「ヤクルトの青汁」でよかったよな、と思わず考える。もし仮に初めてのクライアントだったりなんてしたら、私は後日どんな顔をして担当者に挨拶にしに行けばいいかわからない。考えただけで呼吸が早くなるぞ。

…と、全くする必要のない心配をするくらいには、ほかに考えることがなかった。雨は冷たく、試合はなかなかにしょっぱい。いつものように、あちらには簡単に点が入るのに、こちらにはさっぱり点が入らない。気づけば0-6まで点差は開いていた。

雨は強くなってきたし、寒いし、はちゃめちゃ負けてるし、なんと言ってもまだ月曜日だし、「今日は帰る?」と子どもたちに聞くと、「でも、きょねんのかーぷとのしあいみたいに、さいごにめっちゃたのしくなるかもしれないよ!」と、むすめが言った。

子どもたちは今でも、雨が降るたびにこの試合のことを楽しそうに話す。あの日、これが子どもたちにとって楽しい記憶になるといいな、と、少し祈るような気持ちで思ったのだけれど、こんな日に「雨の中でもまだ帰りたくない」と言うくらいには、本当に楽しい記憶になっているみたいだ。「たしかにあの日めっちゃ楽しかったもんね」と、私は思わず笑う。

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レインコートで寒さをしのぐようにしながら静かに試合を見ていたら、中山くんは悪い流れも空気もさっぱり関係ないという顔をして、ツーベースを放った。そして1アウト3塁から、タイセイくんはタイムリーを放った。ひゃっほー!と言いながら、子どもたちはとても楽しそうに、広いスペースで存分に傘を振った。

雨は少しずつ、弱くなり始めていた。

1-6のまま迎えた8回裏、てっぱちはバックスクリーンに飛び込むでっかいホームランを放った。

そうだった、去年だって、てっぱちは、もうどうしようもなく負けている試合で、大きな1本を放ったりしていた。

それは確かに、勝ちにつながる1本ではなかったかもしれない。ここぞの場面ではなかったかもしれない。でも、てっぱちが負け試合でも打ってくれるその1本は、どんな試合においても大切な「見どころ」だった。例えば神宮に初めて来た小学生や、地方球場で年に一度だけ見るプロ野球を楽しみにしている誰かにとっての、大きな夢になるかもしれない1本だった。スターはきっとそういう仕事も、担うのだ。

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子どもたちは空を見上げて「ほら!でんきがきらきらあたってあめがきれい!」と言う。見上げると、確かに電光に照らされた雨がきらきらと輝いていた。「きれいだねえ」と私は言う。雨は光を帯び、静かに、舞いおりるようにして降っていた。

雨の神宮で、ヤクルトは今日も勝てない。寒さに震える心は、つば九郎うどんだけではなかなかあたたまらない。でも、そこには若手たちがつなぐ1本と、スターが放った1本と、子どもたちがにこにこ歌う東京音頭と、きらきらと光る雨粒がある。そういう希望を今日だって、紡いでいけたらいいなと、ガラガラの神宮で私はまた思う。


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