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妊娠と交通事故。

こんにちは、助産師Suiです。
今回は妊婦さんにとって安全なシートベルト着用に関してお話します。
この記事が少しでも妊産婦さんのお役に立つことができたら幸いです!

交通事故のリアル

実際に妊娠するとお腹も大きくなり,シートベルトをするのが大変だったり,不快感を伴う方も少なくありません。

実際に妊婦さんのシートベルト着用率は,妊娠していない女性に比べて低い傾向があるというデータもあります。

また、自分は交通事故に遭ったことがないから事故の発生もそんなに少ないのでは?と思う方もいらっしゃると思います。

しかし実際に統計として平成30年中の交通事故発生件数は43万601件で,これによる死者数は3,532人,負傷者数は52万5,846人であり,負傷者数のうち,重傷者数は3万4,558人(6.6%),軽傷者数は49万1,288人(93.4%)であったという報告があります。

平成30年中の交通事故発生件数を事故類型別にみると, 追突(14万9,561件, 構成率34.7%)が最も多く,次いで出会い頭衝突(10万6,631件,構成率24.8%)が多くなっており,両者を合わせると全体の59.5%を占めています1)

わが国の人口統計・警察統計ともに妊婦の交通事故死傷者数を明らかにしていないので,実態は不明ですが、2013 年に行われたアンケート調査に協力した妊婦の 2.9%が交通事故に遭遇していたというデータもあります。2)

想像していた以上に交通事故の発生頻度は多く、衝突などの衝撃を受けるものが多い傾向です。

どんなに安全運転をしていても煽り運転に遭ったり、追突されたり‥自分の力や努力では防ぐことが不可能な場合はあります。

あなたとお腹の中の赤ちゃんを守るためにも、改めてシートベルトの着用についてぜひ知って頂けたら幸いです。

妊婦もシートベルト着用したほうがいい?


着用しましょう!(即答)
「妊婦はシートベルト装着義務が免除される」という誤解を抱いてる方は一定数いらっしゃいます。

ですが、現在は乗用車の全ての席が3点固定式シートベルトとなり、シートベルトの装着義務は妊婦さんにもあります

警視庁や日本産婦人科学会も妊婦さんがシートベルトを正しく装着することにより交通事故時の母児の死亡率低下が期待できるため、妊婦さんのシートベルト着用を推進してます。

妊娠すると運転に支障はある?

カナダでは自動車運転中の事故率は妊娠中期にもっとも高く,妊娠前の3年間に比べ,妊娠中期は1.42倍に事故率が増加すると報告しています。3)

その原因として胎盤から分泌されるホルモンにより,眠気,全身倦怠感や睡眠障害,注意力低下が生じることがあげられています。

日本での妊婦の交通事故についての包括的調査はないですが、妊婦の自動車乗車中事故死は10人,胎児死亡は年間800人と推定されています。4)

また、札幌では2.9%の妊婦が自動車事故に遭っているというデータもあります5)

また妊婦さんが運転する場合、お腹が大きくなることでハンドルの腹部までの距離が妊娠24週ごろでは約16cmであったものが,妊娠36週には約12crnまでに短くなります。
そのため,ハンドル操作のしづらさや急プレ一キ時に腹部をハンドルに衝突させてしまうリスクが高いです。6)

シートベルト着用しなかった場合の妊婦・赤ちゃんへのリスク

妊娠によって妊婦さんのお腹は前方に大きく出てくるため,お腹はハンドルやダッシュボードに接触しやすいです。

妊婦さんが運転席に座った場合,ハンドル下端からお腹までの水平距離は妊娠してない女性に比べて約10cm短いため,妊婦さんでは強く腹部打撲,お腹の張りが起こりやすいです。7)

また,シートベルトを着用していない場合にはお腹を打撲する危険性がむしろ高くなります。

全身や腹部の重症度が低い場合でもお腹の赤ちゃんの予後が不良であることもあり,一概に重症度だけからは児の予後を推定できないとしています。8)

妊婦さんのお腹への衝撃は胎盤剥離や子宮破裂のリスクに繋がります。

交通事故による胎児死亡の50~70%は胎盤剥離,20~40%は母体の死亡あるいは重篤な状態にあること,10%以下が子宮破裂といわれています。9)
子宮破裂も常位胎盤早期剝離も非常に怖い病気であり、1分1秒を争う状態です。

子宮破裂や常位胎盤早期剥離は対応が遅れてしまうと最悪の場合、母児共に命を落としてしまう可能性も0ではありません。本当に怖いです。

私たち周産期に携わるスタッフはこの2つの言葉を聞くとアドレナリンが止まりません・・非常に緊迫した空気になります。
どうか妊婦さんも赤ちゃんも無事でありますようにと願いながら緊急手術に向けて準備を整えます。本当に怖い(2回目)

それくらい緊急性が高い病態なのです。

だからこそ,シートベルトで守りましょうママと赤ちゃん2人の命を。
あの数秒の手間をかけるだけで未来が大きく変わるのです。

もしも交通事故にあってしまった場合

必ず病院を受診しましょう!
産院にすぐ電話
をして受診相談をすぐにあおぎましょう!

交通事故に伴う外力によって常位胎盤早期剝離が発症することがあり,外傷直後に顕在化する場合と数時間おいて診断される場合があります。10)

受傷直後は異常を認めなくても,お腹の張り痛み性器出血などの何かしらの自覚症状のある妊婦さんは経過をみようと待機するのではなく、即刻電話をしましょう!

もちろん、何も症状が無かったとしても直ぐにその場で産院へ受診相談をしましょう!

もしも妊婦健診のみのクリニックに通院中の場合は分娩予約している産院に連絡して相談するのもありです。

若しくは「すぐに病院に行った方がよいか」や「救急車を呼ぶべきか」,判断に悩む時は,救急安心センター事業(♯7119)に電話するのも1つの手段です(すべての都道府県で展開していませんが)

妊婦の正しいシートベルト着用方法

シートベルトを着用しているにも関わらず,誤った方法であればシートベルト本来の拘束性が機能せず、シートベルト着用していない状態と同等に危険になります。11)

その為に正しい着用方法を実践しましょう。

1.斜めベルトは両乳房の間を通す
2.腰ベルトは恥骨上に置く
3.いずれのベルトもお腹(妊娠子宮)を横断しない

恥骨上など腰より低い位置に置く必要がありますが,気づくと滑り上がってくることも多い傾向です。

より低い位置で腰ベルトを固定できる妊婦用補助ベルトも市販されているため使用を検討してみてもいいかもしれません。

また腰用クッションなどもうまく使ってみて調節してみましょう。

今回は以上となります。
また次の記事をご覧いただけたら嬉しいです。
それでは、助産師Suiでした!

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ちなみに、過去にはこんな記事も書いてます。
ご興味ありましたらぜひご一読ください。

引用文献・参考文献
1)第1編 陸上交通 第1部 道路交通 第1章 道路交通事故の動向 第2節 平成30年中の道路交通事故の状況よりhttps://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r01kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s1_2.html

2)同上
3) 産婦人科ガイドライン 産科編2020 CQ901 妊娠中のシートベルト着用,および新生児のチャイルドシート着用について尋ねられたら?369-371
4)日本産婦人科学会日本産婦人科医会,産婦人科診療ガイドライン産科編2017.日本産婦人科学会2017:432-43.
5)Morikawa M, Yamada T, Kato-Hirayama E, et al.:Seatbelt use and seat preference among pregnant women in Sapporo, Japan, in 2013, J Obstet Gynaecol Res, 2016; 42: 810-815
6) 花原恭子,女性ドライバ―に対する安全な運転のための保健指導  医学のあゆみVol266 No22, 2018,7,154-158
7)川戸仁,自動車を利用する妊婦・乳幼児に向けて PROGRESS IN MEDICINE 36(4): 2016,519―524,
8)川戸仁, 同上
9) 産婦人科ガイドライン 産科編2020 CQ901 妊娠中のシートベルト着用,および新生児のチャイルドシート着用について尋ねられたら?369-371
10) 同上
11) 花原恭子,立岡弓子,杉正仁,  妊婦のシートベルト着用方法の実態調査 日本交通科学学会誌 第18巻 第2号 2018,13-1

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