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2022年 読んだ本の振り返り

こんにちは。Miyagawaです。
大晦日の夜、いかがお過ごしでしょうか。
今年も終わりなので、今年読んだ本を総ざらいしつつ、紹介します。

いろんなジャンルの本を読んだので1冊くらいは、皆さんの興味を惹く本があるんじゃないかと予想しています。

それでは読んだ順に振り返っていきます!


星系出雲の兵站シリーズ

著者 林譲治
発行 早川書房 ハヤカワ文庫JA

星系出雲の兵站1〜5、星系出雲の兵站―遠征―1〜4の全9巻のSF小説です。
読み始めたキッカケは、本の帯に書かれたこのキャッチフレーズ。
英雄の誕生とは兵站の失敗に過ぎない
かっこよすぎ……

内容はファーストコンタクトSFというやつで、初めて人類以外の生命体と出会って物語が始まります。
その生命体はガイナスと名付けられ、そこからドンパチ戦争が始まり、主人公が一騎当千の活躍をして……
というわけにはいかない
のが、この作品のおもしろいところ。

ガイナスとは何者か?
ガイナスの目的は?
ガイナスは人類のことをどれだけ知っているのか?
こちらの情報をなるべく出さずに、ガイナスのことを知るにはどうすべきか?

高度な情報戦が展開されます。
むやみに戦うのはむしろ悪手。
人類の技術力や戦闘力がバレてしまいますし、捕虜にされてしまえば人間という生物を知り尽くされてしまいます。

そして次に考えるべきは兵站。
聞き慣れない単語だと思いますが、軍の補給や整備のことを指しています。
戦場で戦う以外のこと全部です。

ニコニコ大百科のページが分かりやすく解説されているので読んでみてください。
戦場にたどり着いて戦い、そして戦いを継続するのがいかに大変かが伝わってきます。

戦いに備えて、補給、整備、武器の生産を充実させなければなりません。
惑星を兵站の拠点としたいわけですが、その惑星には社会あって、産業があって、人が暮らしているので、一筋縄ではいきません。
組織や利権と軋轢を生まないように調整しながら、ときには必要に応じて軍としての力を発動しつつ、兵站環境を整えていきます。

これらを進めていく兵站の責任者、火伏礼二兵站監が、とにかくかっこいいです。
英雄の誕生とは兵站の失敗に過ぎない」は火伏兵站監のセリフです。
セリフの真意がねじ曲がってはいけないので、火伏兵站監のかっこいいセリフを引用しておきます。

英雄などというものは、戦争では不要だ。為すべき手順と準備が万全なら、 英雄が生まれる余地はない。勝つべき戦いで勝つだけだ。 英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん

林譲治(2018)『星系出雲の兵站1』p.239 早川書房

軍隊を組織化する理由。それは暴力装置で凡人を戦力化するためだ 。歴史を見ればわかる。 少数精鋭のエリート部隊では、戦闘では勝てても、戦争という大きな枠組みでは勝てない。
少数精鋭と言うと聞こえはいいが、要するに組織の不備を、少数の有能な人間への負荷で凌いでいるに過ぎない。
勝てる軍隊とは、凡人を戦力化できる組織なんだよ。機構がしっかりしていれば、凡人が粛々と与えられた仕事をするだけで、組織は目的を達成でき、つまり勝利することができる。
兵站とは、凡人による軍隊組織を、正常に機能させるための機構だ。だから軍の組織が健全であり、兵站が機能しているなら、英雄など生まれない

林譲治(2018)『星系出雲の兵站1』pp.361-362 早川書房

戦いの派手さはありませんが、実際に宇宙人と遭遇したら、こんな感じなんだろうなという説得力がある、徹底した現実主義の作品です


しあわせの哲学

著者 西研
発行 NHK出版 学びのきほん

まあ、そんな嫌な顔をしないでください。
少々胡散臭さが漂うタイトルかもしれませんが、カルト的な代物ではないです。

どうすれば幸福感や充実感を感じて生きられるのか。
そんなことを、東京医科大学哲学教室教授の著者が、解説してくれている本です。

なんでこの本を手にとったのか、あまりよく覚えていません。
少し心が疲れていたのかもしれません。

特定の哲学者に焦点を当てたものではなく、複数の哲学者の見解を様々に組み合わせて書かれています。
哲学のことが分からなくても全然大丈夫。
堅苦しい本ではないので、肩の力を抜いて読み物として楽しめます

楽しいとき、嬉しいとき、つらいとき。
これらのときに、どんな事態に直面しているのか。
抽象化して言語化してくれています。

人は「これこそが自分にとって大きな喜びだ・大切なことだ」という「可能性」をいつも大事に抱えています。そしてその「可能性」を失うと絶望し、 たとえ身体が健康であっても、その人の生きる世界は真っ暗になってしまうの です。
逆に、「こうすると面白い!」「こうすればやっていけるぞ!」というふうに、 自分の可能性がはっきりしてくると、世界が明るくなってきます。 

西研(2021)『NHK出版 学びのきほん しあわせの哲学』p.17 NHK出版

人は、「したい=欲望」と「できる=能力」の間をめぐって喜んだり、悩んだりする存在なのです。

西研(2021)『NHK出版 学びのきほん しあわせの哲学』p.23 NHK出版

評価的承認への欲求は極めて強いものです。人は、自分のことを心からほめてくれた人や、自分のことをバカにした人のことをよく覚えています。

西研(2021)『NHK出版 学びのきほん しあわせの哲学』p.70 NHK出版

「承認」は、安心できる居場所をつくったり、誇らしくなったり、気持ちをわかちあえたりする「喜び」の源泉です。 しかしそれは、一方で義務として迫ってくるものでもあります。 他人が自分に期待しているも を満たさないと、相手は自分を見捨ててしまうかもしれない。集団のなかで 自分をストレートに出せば、排除されるかもしれない。承認関係はそんな恐怖を与えてくるものでもあります。

西研(2021)『NHK出版 学びのきほん しあわせの哲学』p.80 NHK出版

共感できたり、心当たりがあったりしないでしょうか。
今まで自分が何となくで抱えていた感情を整理して代弁してくれる
そんな本です。


高等学校 新倫理 新訂版

発行 清水書院

高校の倫理の教科書です。
『しあわせの哲学』を読んだ後、哲学ことをちゃんと理解したいなと思って読みました。

ニーチェ「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
パスカル「人間は考える葦である」
デカルト「我思う故に我あり(Cogito, ergo sum)」

断片的に哲学の知識はあるけど、全体をよく知らない
そんな状態だったので、手に取ったのはこの倫理の教科書。

なんていったって、初学者のために日本の碩学が結集して作られた本です。
おまけに文部科学省のお墨付き。

これから学ぼうってときに、どの本がいいかなんて分かりません。
選書の審美眼が備わってるわけもないので、教科書が間違いないです。

ちなみにこの教科書は、実家の本棚から取り出してきたものではないです。
高校では理系選択で、倫理を勉強する機会はなかったので、買いました。

入手方法はメルカリ。
ほぼ新品で300円。
日本の碩学が結集して著した上に文部科学省が太鼓判を押した本が300円?
コスパ最高ですね。

「社会科の教科書で山川を選ばないなんてナンセンスだ!」って過激派が出てきそうですが、黙っててください。
僕はアテネの学堂が表紙になってるのが気に入ったんです!


自分ごとの政治学

著者 中島岳志
発行 NHK出版 学びのきほん

参議院選挙が近かった時期なので、こういう本も読んでみるか、と思い読んだ本です。

政治って難しいですよね。
政治と無縁ではいられないですが、とにかく仕組みが難しいです。

この本は、細かい制度の建て付けはひとまず置いておいて、政治の根本の考え方を簡潔に解説してくれています。

これ以上あれこれ語って、思想が垣間見えた結果、物議を醸すのも本意ではないので、印象的だった文を引用だけしておきます。

憲法というのは、死者たちが積み重ねた失敗の末に、経験知によって構成した「こういうことはやってはいけない」というルールです。 過去の人々が未来に対し て「いくら過半数がいいといっても、やってはいけないことがあるよ」と信託して いる。これが立憲の考え方なのです。
対して民主主義は、生きている人たちの過半数によって物事を決めるわけですから、主語は当然「生きている人」になります。この主語の違いが、立憲と民主を考える上での重要なポイントになります。

中島岳志(2021)『NHK出版 学びのきほん 自分ごとの政治学』pp.83-85 NHK出版

死者の存在を無視して、生きている人間だけで物事を決定しようとする 。そ れは、 生者の驕りに過ぎません。 民主主義は常に、死者によって制約された民主主義、立憲民主主義でなければならないのです。

中島岳志(2021)『NHK出版 学びのきほん 自分ごとの政治学』p.89 NHK出版


「読む」って、どんなこと?

著者 高橋源一郎
発行 NHK出版 学びのきほん

また出ました。NHK出版 学びのきほん。
いまさらの紹介ですが、専門家の方が自身の専門分野に関連して、小難しいこと抜きに面白く書いてくださっているシリーズです。

読むための気力を必要としない、手軽に読みやすい本としてオススメです。
読書慣れしていない人や、ちょっと興味がある程度の内容を読んで見るのにちょうどいいです。

年の前半に読んでいたのは、SF小説9巻に、高校の教科書。
歯ごたえのある本ばかり読んでいたので、その反動で読みやすい本を求めたのかもしれません。

肝心のこの本についてですが、あまり刺さることがなかったです。

まあ、そういう本もありますよね。
数年後に読んだら一転して刺さるかもしれないので、気が向くときまで本棚で寝かせておきます。


拡張SF

発行 大阪大学SF研究会

大阪大学SF研究会発行の同人誌です。
夏コミに参加したときに買ってきました。

Miyagawaの夏コミ参加についてはこちら

コミケや同人誌といえば、2次創作のマンガやR18本のイメージが強い人が多いかもしれません。

ですが、僕が好きなのは評論と呼ばれるジャンルです。
個人の趣味と専門性が全開になっているディープでニッチな本が多いです。

そんな評論島で見つけたこの本の内容ですが、テーマは「拡張」
拡張に関連した研究をされている大阪大学の先生への取材
拡張の描写や設定が出てくる作品の紹介
などがあります。

中でも印象的だったのは『なぜ毎年のようにVR元年と言われるのか』というタイトルのエッセイです。

言われてみれば、VR元年が何年も続いている気がします。
このエッセイによれば、最初にVR元年になったのは2016年だそうで。
かれこれ、6年も擦り続けられた言葉のようです。

今ではメタバースという言葉に置き換わっていますが、VR世界の普及があまり進まない状況はあまり変わってません

VRの魅力は、体験してみないと分からない
体験するには、専用の高価なガジェットが必要
イマイチ普及しないから、コンテンツが充実しない
魅力的なコンテンツがないので、ガジェットを買う動機にならない
ガジェットの需要が少ないので、高価なまま

というループ状態が、どうやら原因のようです。

VRに興味はあるけど、ガジェットを買うほどでもないな…‥
という気持ちはたしかにあります。

VRの魅力だけでは、一部のテクノロジー好きの興味を惹くだけですし、
VRガジェットを買っても、「VRってすごいんだなぁ…‥」で終わってしまう気がします。

VRでこんなに便利!
VRで生活がこんなに変わる!
みたいな、VR導入の明確なメリットや利便性が打ち出されるほうがいいのかもしれません。


リコリス・リコイル Ordinary days

著者 アサウラ
発行 KADOKAWA 電撃文庫

TVアニメ『リコリス・リコイル』で描ききれなかった部分を補完してくれるラノベです。

『リコリコ』最終話のあと、『リコリコ』ロスを患ってしまい、その治療のために読みました。
治療の効果はテキメンです。

『リコリス・リコイル Ordinary days』の魅力はDNAに素早く届く!
『リコリス・リコイル Ordinary days』はまだガン癌には効かないが、そのうち効くようになる!

『リコリコ』ロスの患者さんは、早く読んでください。
TVアニメを見ていないという人は、早くアニメを見てください。

『リコリコ』の特徴のひとつに土地の描写があると思います。
アニメでは、錦糸町や押上、東京スカイツリー周辺が舞台として描かれ、放送中は話題になっていました。

放送直後に聖地を特定する人。
特定された聖地をまとめる人。
最速で聖地巡礼する人。
ネットを眺めているだけでも熱かったです。

実際の土地を描くことは、キャラクターたちの実在感を増す効果があると思います。
見たことある土地。
実際に行ける土地。
そこでキャラクターたちが過ごしている映像を見ると、「同じ世界にいるのでは?」という気がしてきます。

キャラクターたちの実在感が増す一方で、直面してしまうのは、現実とフィクションの壁
どんなに実在感があっても、実際に会うことはできません。
『リコリコ』は、この壁と上手く折り合いをつけていると思います。

『リコリコ』は、秘密組織DA(Direct Attack)のエージェントであるリコリスとして、犯罪を未然に防いでいるお話です。
秘密裏に活動しているのだから、我々はキャラクターたちとの接点を持てるはずがありません。
いないのではなく、隠されているだけ。

キャラクターたちが本当に実在してそう。
いや、でもやっぱり会えないじゃん!
この2つの間に、秘密組織という設定が入ることで、矛盾が解消され、説得力が出てきます

描写と設定と上手く噛み合って、現実とフィクションの壁を曖昧に溶かしてくれている。
そんな魅力がある作品だと思います。

そして、この魅力は 『Ordinary days』でも健在です。
錦糸町駅周辺の街並みの描写があったり、錦糸町に実在のお寿司屋さんの実在のメニューを食べてるシーンまであります。

本の中でもアニメと同じ雰囲気が感じられて、『リコリコ』患者のための特効薬に仕上がっています。


宇宙の戦士〔新訳版〕

著者 ロバート・A・ハインライン
発行 早川書房 ハヤカワ文庫SF

世界SF界のビッグスリーと言われるうちの1人、ハインラインの小説です。

SFはアニメでも小説でも好きなジャンルなので、SFの名作を履修しておこうという気持ちで読みました。
ちなみに、ハインライン作品は『夏への扉』を読んだことがあります。
こっちの方が有名かもしれません。

内容は、パワードスーツを着て戦う兵士のお話です。
といっても実際に戦場に出るシーンは少なく、一人前の兵士になるまでの訓練過程に焦点が当てられています。

この世界では、軍人としての務めを果たすことで、初めて市民として参政権が得られます。

ちなみに、ガンダムに出てくるモビルスーツは、『宇宙の戦士』のパワードスーツから着想を得た、と言われています。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が絶賛放送中なので、オタクの教養としていかがでしょうか?


京大芸人式 身の丈にあった勉強法

著者 菅広文
発行 幻冬舎よしもと文庫

芸人 ロザンの菅さんが勉強法について語ったエッセイです。

ロザンさんは『ロザンの楽屋』というYouTubeチャンネルをやられています。
動画の内容は、1日1回、10〜15分、1つのトピックについて楽屋で話すだけ。
極めてシンプルなチャンネルです。

シンプルだからといって、侮るなかれ。
時事問題を中心に、鋭く本質的に切り込んで議論を深めていく。
とっても濃いチャンネルです。
シンプルゆえに、エッセンスしかないです。

このチャンネルが大好きで、菅さんの著書を読んでみようと手に取りました。

ところで、ロザンさんといえば、宇治原さんを一番に思い浮かべる人も多いかもしれません。
京大卒の芸人としてクイズ番組で活躍されています。

そんな人にとって、「宇治原さんが勉強について書くなら分かるけど、菅さん…?」となるかもれませんね。
実はですね、ロザンの真の賢者は菅さんなんです。

『ロザンの楽屋』では、菅さんがトピックを提供した動画と、宇治原さんがトピックを提供した動画が交互にアップされます。
さて、どちらの動画が伸びるのか……。
菅さんがトピックを提供した動画のほうが、再生数が伸びるんです。

(そして、そのことに宇治原さんが逆ギレ芸をしつつ、苦言を呈する始末……)

宇治原さんのお話は、政治・経済など難しめのトピックが多く、正統派な正論を展開していきます。
菅さんのお話は、日常的なトピックを意外な切り口で切っていくのが特徴です。
そのあたりの違いが再生数に影響しているんじゃないかと個人的に分析しています。

重要なのは、菅さんが、簡単なとっつきやすい、ありふれたことについて、他とは違う視点でお話されるということ。

その視点はなかった。
言われてみれば、確かにそうかも。

そんな感想を抱くことが多いです。
そしてそれは、勉強法について書かれたこの本も同じ。

もし宇治原さんが書かれていたら
言われなくても分かってはいるんですけどね……
それができたら苦労しませんよ……

みたいな、耳の痛い正論のオンパレードが記された本になったかもしれません。


古代ギリシャのリアル

著者 藤村シシン
発行 実業之日本社

古代ギリシャ研究家の藤村シシンさんが、古代ギリシャを実際のところを解説されている本です。

シシンさんは『ゲームさんぽ』というYouTubeチャンネルで知りました。
Fate Grand Orderに登場するギリシャ神話由来のキャラクターについて解説されています。

シシンさんのコメントが、ギリシャオタクを通り越して、古代ギリシャ人目線なのがおもしろいポイント。
古代ギリシャ人が現代人に向けて話しているように感じられます。

このシリーズが好きで、著書を読んでみようと思いました。

アニメ、マンガ、ゲーム……。
古代ギリシャやギリシャ神話をモチーフにした作品は多いです。

しかし、現代人の我々が接している古代ギリシャと、実際の古代ギリシャとは結構違うようで……。
古代ギリシャの意外な事実が解説されています。

  • ギリシャといえば青い海に白い建物のイメージだが、古代では極彩色だった

  • 古代ギリシャは都市国家ポリスが集まったものなので、神話の内容がポリスごとに違っている

  • 古代ギリシャ市民にとって労働は恥ずかしいことだった

  • 古代ギリシャでは男性同士の恋愛がありふれていて、むしろ異性愛より尊いものとされた

などなど……

『ゲームさんぽ』での、古代ギリシャ人目線の語り口がそのまま本になっているので、『ゲームさんぽ』の延長線で楽しめます
まだ、『ゲームさんぽ』を見たことがない方は、まず動画を何本かどうぞ。


さいごに

以上が今年読んだ本、計18冊でした。
気になった本があったら、年始の暇な時間に読んでみてください。
これ読んだなら、これもオススメ!ってのがあれば、ぜひ紹介してください。
では良い新年を。

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