棚栽培

ブドウ栽培での灌漑のタイミングと影響

今回が灌漑の準最終回です。

最終回は実験結果が出て、友人の論文を主にしたものになると思います。

灌漑のタイミング


灌漑のタイミングによって色々な効用がある。

タイミングは大きく分けて3パターン。

もちろんその3パターンのうちどのタイミングで水分ストレスがかかっているかといったことはその年の気候によっても違うので、タイミングに関しては前述の記事を参照にしていただけたらと思う。

まずその3パターンの分類は以下となる。
「収穫後から開花期」、「開花期から着色期」そして「着色期から収穫期」である。

「収穫後から開花期」

この段階の主な灌漑の効用は、次年度のための養分の蓄積を増やして、翌年の収量を安定させることである。

また芽が休眠中であっても、この時期の水分ストレスは翌年の収量を低下させるとされている。

いずれもこれは収量の担保のためであると考えていいだろう。

また出芽から開花までは樹冠の成長に重要となるので、水分ストレスを避ける必要がある。

しかし、この時期は冬の降雨による土壌水分の豊富さや、気温が高くなりきらないことなどもあり、植物自身の要求性が低く、あまり水分ストレスが問題になることはない。


「開花期から着色期」

この時期の水分ストレスは実の細胞分裂の抑制、細胞肥大の抑制を引き起こす。
この抑制は着色期以後の水分状態では戻すことができないので、収量に直接影響することになる。

そのため過度のストレスは収量の低下を引き起こすが、一方で過度の水分は細胞分裂も肥大も促進してしまうので「水っぽい」ブドウになってしまう。

「着色期から収穫期」

この時期の水分状態は着色期までに比べると収量にはそこまで影響を与えない。
というのも植物体の水の移動に影響している導管の機能が着色後低下するからである。
そのため水分状態が変わってもあまり影響を与えないのである。

逆に篩管の重要性が増す。
篩管も水を通してその他物質をやり取りしているので、水は供給されるが、水分ストレスによる供給の低下とブドウの果皮からの蒸散や、また過度の水分ストレスによる篩管への水分の逆流はブドウの異常収縮を引き起こす。

ブドウの異常収縮に関しては、未だ完全に解明されているわけではないが、これらも一因となっていることは間違いないとされている。

一方で、有効態水分が多いと、更なる栄養成長を促してしまい糖の蓄積が抑制され、それに伴ってできる葉の陰などによって日照不足による成熟全体が問題となる。
またこの時期の水分動態は他の実の構成物質にも影響を及ぼす。


ここからはその化学物質群についてもう少し詳しく解説する。

水分状態とブドウの実

「酸度」

ブドウが持っている酸は主に酒石酸とリンゴ酸の2種類ある。
このうち水分状態はリンゴ酸に影響があるとされている。
前提として水分が豊富にある状態では酸が高くなり、pHも低くなる傾向にある。
これは水分が栄養成長を促し、熟度を下げることによって引き起こされていると考えられている。
特にリンゴ酸がこの影響によって高レベルで保持されるとされている。

一方で豊富な水分状態によって総酸度自体は下がる可能性もあると示唆されており、こちらの研究では水分吸収と共にKの吸収が促進され、それが結果的に酸度を下げ、pHを上げているのかもしれないとしている(Kは酸と結合し結晶化する)。

これだけだと両方向の意見がありどうしたらいいかという問題が出ると思うので、少し具体的な話も混ぜておく。
去年自分が滞在しているワイナリーで灌漑の栽培試験を行い、そのワインの官能評価を行ったそうだ。

その結果、灌漑は確かに「水っぽさ」という方向にも影響したが、一方で酸の強さの評価は高かったという結果が得られた。
これはブドウの収穫時の分析段階で酸が多かったわけではないので、直接の因果関係はわからないが1つ参考になる試験結果であると言える。
そしてこの部分に関して追試験を今年も行っているので、その部分が最終回の焦点となる。

「アントシアニン」

アントシアニンの濃度の上昇は水分ストレスと共に語られることの多い現象の1つだ。

この濃度上昇に関しては、水分ストレスによって実が小さくなり、その分アントシアニンを含む果皮の割合が増え、ワイン中のアントシアニン濃度が上がるというのが通説だが実はその理由はわかっていない。

ただブドウの実が小さいことによる果皮の割合の増加というのはそもそもあまり見られず、単に果皮中のアントシアニンの濃度が上昇しているだけということは報告されている。

「糖」

糖の蓄積というのは意外と短期間でなされる。
着色期以降に始まり、収穫期に入る前に終わっている。
端的に表せば以下のような図になる。

画像1

要は糖の蓄積自体は一度止まってしまえば、それ以上に上がることはあまり期待できないのである。
ただし糖度という点においては過熟ブドウの収縮で上がることがある。

収穫時期の決定に関しては後日投稿出来たらと思う。

ちなみにこの図の出典の教授は私の研究のアドバイザーでもあるモンペリエの先生だ。

この人は今年の3月に山梨大学に講演にも来ていたので、もし行ったという方がいればそれが記憶に新しいかもしれない。

それはさておきこの糖の蓄積は水とどう関係するのだろうか。
水が多いと栄養成長が促され、光合成産物である糖がそちらに使われてしまう。

一方でストレスが強すぎると、光合成能が落ちるので今度は糖自体が生成できなくなる。
栽培は常にあいまいだ。
これが絶対ということはなく曖昧な中でバランスを見出さなければならない。

「窒素とカリウム」

窒素は酵母の栄養源として重要視される元素だ。
酵母が用いることのできる窒素源をYANという。

そのあたりの詳しい話は酵母の稿を参照してほしい。

この窒素に関しても糖と同様に灌漑によって増加する、減少するという議論があるが、糖と少し違うのは、他の環境要因でも容易に変動しうる点であろう。

糖は20-25°Brixで推移するのに対し、窒素の範囲は100-1200mg/Lとなっており、さらには300mgもあれば発酵には十分だと言われている。

そのため灌漑は窒素に大きな影響を与えることはないと言える。

カリウムに関しては先ほどにも出てきたように灌漑によって吸収が促進されるとされている。
暑さで酸を失い多雨でカリウムが多くなった日本のブドウはどうしたらいいのだろうか。
ここも1つ日本の排水環境を改善しなければならない理由の1つとなり得るだろう。
このあたりの値も弾丸暗渠を導入した区とそうでない区で比べてみてもいいかもしれない。

総括

灌漑の効用を知ることは、水分ストレスへの対応を知ることであり、これは多雨の日本でも必要となる知識です。

一方で日本のワイナリーの多くは資金的な面でここまでする体力がないというのも事実だと思います。

そのため初めは金銭的に負担のかからない指標を用いることで、とりあえず雨量が過多かどうかを調べましょう。

恐らく日本であれば過多となると思いますが、そのうえでどのように管理したらいいのかを考えていかなければなりません。

比較的安価な方法であればカバークロップを用いるのか土寄せでなんとか対処するのか、コストをかけてレインカットを入れるのか、暗渠排水を入れるのか。

そして実は一番安上がりな効果のチェック法はテイスティングの試験をすることです。

テイスティングの客観的な試験法に関してはいずれ取り上げます。

たとえ科学的に解明されない部分、詳細としては出てこない部分でも感性では確かに評価される部分というのがあります。

その中で効果があった方法は継続する、効果がなければ撤退するという具合にうまく調整できればいいと思います。

暗渠排水に関しては導入するにも、それをもう一度なくすのにもかなりの手間とお金がかかると思うので、どういった方法であれ小区画実験です。

そして実験は1年でうまく結論がでることばかりではありませんが、なんとか継続して行わなければなりません。

そしてテイスティングが最強の確認ツールだということも忘れないでください。


これからもワインに関する記事をuploadしていきます! 面白かったよという方はぜひサポートしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。