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オーガニックワインの是非

南仏だというのに未だ寒くてなかなか週末の士気があがらないでいるおくむらです。
ちなみに南仏の緯度って北海道と同じぐらいなんですよね、実は。
地中海性気候というイメージと海のイメージが先行して暖かい感じに思うけど、意外と寒かったりもします。


それはそうとオーガニックという単語で皆さんは何を思うでしょうか。

オーガニックという単語と結びつくイメージは色々なものがあると思います。

健康にいい。
安心安全。
栄養価が高い。
サステナビリティ。

それはどこで学んできた知識なのでしょうか。
果たしてそれは本当なのでしょうか。
もしかすると資本主義におけるかつての差別化戦略の一種に踊らされているだけではないでしょうか。

事実私もオーガニック、有機栽培といったものにそこまで見識があるわけではありません。
しかしなんとなくオーガニックという言葉が一人歩きしているような感覚があり、違和感がぬぐえないでいます。

たとえばワインではオーガニックの認証を持っているものの単価は平均で10%以上高くなっていることがわかります。

その結果、利益先行で考える形だけの有機栽培ということが起こり兼ねないのではないかと思うのです。

こういった栽培方法はコンセプトや考え方ありきで実践されなければなりませんし、そうでなかったとしたら本来の目的である生態系や地域に根差した栽培という部分も隠れてしまうでしょう。

ということで今回は体系的にオーガニックというものをまとめてみるとともに、その本質の部分を見ていきたいと思います。

まずオーガニックの定義はなんなのでしょうか。

FAOによると、

"Organic agriculture is a holistic production management system which promotes and enhances agro-ecosystem health, including biodiversity, biological cycles, and soil biological activity. It emphasizes the use of management practices in preference to the use of off-farm inputs, taking into account that regional conditions require locally adapted systems. This is accomplished by using, where possible, agronomic, biological, and mechanical methods, as opposed to using synthetic materials, to fulfil any specific function within the system."

とされており、これをだいたいで訳すと、

「有機農業とは生態系や生物多様性及び土壌環境などを重んじた総合的な生産管理方法である。その土地に適したシステムを農学的、生物学的に考え、また機械化などによって管理することによって、化学合成されたモノの投入を減らしていく農業システムである。」

といったニュアンスだと思います。

きちんとFAOの英語を訳すとかなり仰々しい感じになるので、ニュアンスで伝えました。

こうやって定義を見てみるとかなりIPM(Integrated Pest Management)なんかと相性がよさそうな考え方のように思います。

そして現在ではしっかりと有機認証というのがあり、定められた手法や規則に従っていないと、有機栽培だと言えないというような状態になっています。

ではその定められた規則というのはなんなのでしょうか。

今回は日本の認証とブドウ、ワインにおける有機農業というのを見ていきたいと思います。

日本の認証は有機JAS認証というのがあります。

これはコーデックスガイドラインというのを元にしており、基本的には有機認証に基準は世界であまり差がないように作られているようです。

そしてそこでの生産方法の基準というのが、


※有機農産物
・堆肥などで土作りを行っている
・水耕栽培やロックウール栽培ではなく、土壌を用いた農業生産を基本とする
・環境への負荷をできる限り低減した生産方法
・種まき、または植え付けの前2年(多年生の場合は3年)以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない
・遺伝子組換え技術を使用しない

※有機加工食品
・物理的または生物の機能を利用した加工方法を用いる
・化学的に合成された食品添加物および薬剤の使用を避ける
・原材料は、水と食塩を除いて、95%以上が有機農産物・有機畜産物・有機加工食品であること
・遺伝子組換え技術を使用しない

となっています。

堆肥での土づくりや土壌を用いた栽培の部分を気にされる方はあまりいないと思います。

また植え付け前の規則は、土壌中の残存の農薬がないことということをベースにして2年及び3年に設定されており、これはヨーロッパのブドウ栽培でも同様です。

そしてここで気になるのは遺伝子組み換えの部分と、「環境負荷をできる限り低減した」の「できる限り」の部分。

ここからはこれら2つに関して見ていきます。


まず遺伝子組み換えの方から考えてみます。

遺伝子組み換えとはなにかというのを説明できる人は案外少ないのではないかと思います。

遺伝子組み換えは遺伝的になんらかの操作を加えたものを言います。

なんらかの操作なので、ほんの些細な変化でも人為的に操作していれば、遺伝子組み換えになってしまいます。

一番小さなレベルの遺伝子組み換えだと、ブドウの色素を発現する遺伝子を欠損させることなどが挙げられます。

こういった組み換えであれば、自然発生でできたピノ・ブランを人為的に作るというレベルのことなので、そこまで危険視されることはないと思います。

また例えば、ブドウの遺伝子に他の植物または他のブドウ種の遺伝子を組み入れることで耐病性を持たせたとしましょう。
そして農薬散布の量が減ったとします。

こういったケースを「遺伝子組み換えだから有機農業として認めない」としてしまうのはどうなのでしょうか。

遺伝子組み換えのすべてを認めないという姿勢に個人的には少し疑問を抱きます。

一方で、植物に動物の遺伝子を組み入れたりすることによる将来的なリスクが見えないために危険視することもあります。

しかし危険がないということを証明することはほぼ不可能だといって良いでしょう。無の証明に近いものだと思います。

そのためどのタイミングで遺伝子組み換えを安全とするのかというのは大きな問題となります。

ただ現状、有機認証という点においては、除草剤耐性を組み込んだ作物が遺伝子組み換えの主流であり、それによって除草剤の散布が助長されているという背景があるので、有機のコンセプトとは相いれないものになっています。

しかし今後遺伝子組み換えの技術が環境保全と同方向で使われるようになった際には、ぜひこの規制も見直してほしいところです。


次に「できる限り」という文言についてです。

こちらは恐らく、資材の使用禁止や非化学処理が原則ですが、その例外があるということを指しているのだと思います。

ではその使用禁止から外れている資材や化学処理とはどういったものなのでしょうか。

資材に関しては一般的な天然由来のNPK肥料や、堆肥、Ca,Mg及び必須微量元素の肥料などが含まれており、土壌改良資材であるベントナイトやパーライトなど土壌の物理性改善の資材も含まれています。

こちらは天然由来のものであるということを除けば一般的な資材のリストとあまり変わらないと思います。

では今度は農薬に関してです。

何種類ぐらいの農薬が例外として認められているでしょうか。

農林水産省の書類には約40種類が挙げられています。

40種類です。

これはかなり意外な数字ではないでしょうか。

たまに見る議論の中に無農薬栽培は無農薬であること以外は何をしてもいいので、加工時に化学物質を入れることや、環境に負荷をかけても問題ないといったものがあります。

一方で、有機農法は有機農法で40種類の農薬が認められているという事実があるということがわかりました。

これらの農薬は基本的にはそこまで環境負荷の高くないものであるとおもいます。

ただ少し見過ごせないポイントがあります。

ここからは少しブドウに特化した話になるのですが、土壌中の銅含量に関しての問題提起になります。

ブドウにはべと病という病気があります。

その病気を防除するためにはボルドー液というのを撒くのですが、これは先の40のリストに入っている硫酸銅と消石灰を混合させたものなので、有機農業で認められていることになります。

このボルドー液にはそのべと病というのを防ぐ効果のほかに、殺菌、害虫駆除などの効果があるとされています。

そして実は有機栽培には明確な使用上限というのがありません(少なくとも私は見つけられませんでした)。

つまり有機認証をする組織や農家に生物的、物理的で病気や病害虫が防除できないと判断されれば簡単に使われてしまうという危険性をはらんでいます。

そのときに人体に無害であると言われるこれらの農薬は何も人には危害は加えないでしょう。

しかし土壌や他の植物にはどうでしょうか。

ここで1つ示唆に富んだ画像があるので見てほしいと思います。


この画像は土壌の銅含量を表したものです。そして赤い部分が銅含量の高いところです。

べと病などの病気は比較的温暖なところでよく発生するということ、ブドウの病害であるということを理解したうえで見ると、フランスであればボルドー、ラングドック、ローヌといったワイン産地で銅含量が著しく高いことがわかります。

つまり農薬散布による生態系バランスの崩れはすでに始まっているにも関わらず、有機農法の基準ではこの流れを断ち切ることはできないのです。

むしろ生産者の中には、他の農薬が使えない分、銅を散布することで対処する農家もあるということを言う人もいます。


これは有機農法が万能ではないということの一例にしかなりませんが、こういった問題はブドウ以外にも起こっているかもしれません。

そう考えた時にオーガニックを妄信的にサステナブルだとしていいのでしょうか。

確かに人体により安全で健康にいいかもしれません。
しかしこれでは持続的な生産活動というのは達成できないのではないでしょうか。

実際にべと病を防除するのにボルドー液は欠かせないということから有機栽培でも認められているという背景はありますが、こういった情報が出てこないということにはかなりマーケティング的な意図を感じます。

オーガニック自体のコンセプトや、そういった認証があることはもちろん否定しませんし、いいことだと思いますが、それが過度にマーケティングな側面で扱われると、有機であることの本質を見失います。


そのためマーケティング主導ではなく、消費者側や作り手側の知識や思いが先行して有機栽培というのが続いていくとこれからの農業の道がよりいい方向に開けていくのではないかと思います。

今回は少し長くなりましたが、少しでもみなさまがこれを機に、食に関して疑問や考え方というのを持つようになればと思います。

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