見出し画像

ブレタノマイセスの生態と代謝


ブレタノマイセス(Brettanomyces sp.)。

恐らくワインにあまり詳しくない方は全く聞いたことのない単語かもしれません。

ワイン好きの方にブレタノマイセスという単語を聞いたことがある方はいますでしょうか。

もしかしたらむしろビール好きの方なら知っているかもしれません。
そして造り手、ソムリエなら知っていなければならないものです。

そしてこれは欠陥臭の稿で、しっかりとまとめますと言っていたトピックでもあります。


今回はそんなブレタノマイセス(以下Brett)について。


ブレタノマイセスとは

まずそもそもなんなのかというと、単純に言えば「酵母」だ。

お酒に関してはよくSaccharomyces cerevisiae が発酵の酵母として使われているのはよく知られている。

日本酒に関してはこういった酵母を添加するが、ワインの場合はブドウの表皮にこういった酵母が存在するため、必ずしも添加しなければならないということはない。

しかしこの以前にも書いたが、この酵母の表皮における占有率は1%にも満たず、アルコール発酵が進むにつれて、アルコール耐性を持つこの酵母が優勢になるというだけなので品質の安定化のために添加することもある。

それはさておきBrettの話に戻ろう。

今回はまたテクニカルな話になるので、よくわからないところはさらっと流してもらえればと思う。

まず個人的にかなりBrettを複雑にしているのが、Dekkeraという名前だ。

Brettanomyces bruxellensisというBrettの種はしばしばDekkera bruxellensisとも表現され、それが論文や教科書を読むのを少し難解にしている。

この2つの名には厳密な差はないのだが、Brettは分裂増殖できない状態、Dekkeraは増殖できる状態の種のことを指すとされている。

その中で一般にワインのような生存に厳しい環境下で発見されるのがBrettであることからBrettと呼ばれることが多い。

ではまずBrettの何が問題なのかというところから見ていく。


ブレタノマイセスの代謝

まず単純にBrettはワインの香りを「欠陥臭」にしてしまうポテンシャルがある。
彼らの代謝経路で一番問題になるのが以下の図だ。

代謝経路の発端となるのは酸の一種で、これはブドウが本来持っているものだ。

そこにBrettの持っている酵素(この酵素は乳酸菌等も持っていることがある)が働くことでビニルフェノールやエチルフェノール(以下VP及びEP)ができる。

これらは以前も紹介したように、薬品の臭いであったり、馬小屋の臭いであったりというのが特徴的でワイン本来の香りをマスクする

この代謝経路は、今のところBrettにどういったメリットがあって行われているのかというのが明らかにはなっていないが、一説では他の経路で効率よくエネルギーを取り出すためのNADとNADHのバランスをとるために用いられているのではないかと言われている。

そしてそのNADとNADHを使った代謝経路がこれだ。

これはAcetic acidの産生についての経路も含んでおり、つまりBrettは酢酸やアセトアルデヒドも作る代謝を持っている。

一方で、この経路はそこまで活発でないので、酢酸産生に関しては酢酸菌や、その他酵母を注視するほうが大事だろう。

Brettの代謝はだいたいこんな感じだ。


ブレタノマイセスの影響

ここでVPやEPの生産を裏付ける表をつけておこう。

この表の4,5行目から特定の乳酸菌株(LactobacillusやPediococcus)がVPを生産すること、下から2行目からBrett(ここではDekkera)によってVPが前駆体となってEPが生産されていることなどがわかる。

そのためEPが多い試験区ではVPは少なくなっている。
VPがEPに代謝されているのだ。

ちなみにビニルグイヤコール(以下EG)というのはスパイシー、クローブのような香りと言われているのでVPほど問題視はされていないが、量が多いと欠陥になりかねない。


次の表はこれだ。


これはBrettがEPやEGを産生することを示しつつ、一定の株では生産量が少ないということも示している。

つまり将来的にはある種のBret株を意図的に播種することで、逆にそのBrett株が他の害のある株と拮抗し、占有してしまいEPの量を抑えたりすることが可能になるかもしれないということを示唆している。



今回はここまで。
次回はなぜこのBrettが繁殖できうるのか、どうやって防ぐのか、それに加え他の微生物との相互作用なんかにも注目していきたいと思います。


質問や意見はコメントまたはLINE@(ID:twr5274n)までよろしくお願いします。

これからもワインに関する記事をuploadしていきます! 面白かったよという方はぜひサポートしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。