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歴史小説「Two of Us」第4章J‐16

割引あり

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country


J‐16

 細川忠興の三男忠利は、細川軍本体から離れ、現在でいう天王寺駅付近で呆然自失して、身動きも出来ずに佇んでいた。

 そこが上方大坂の地である事も忘れて、目の前百尺(約30メートル)程先に仁王立ちして独りでまっすぐに睨みつけている男から、眼を反らせずにいる。剃髪したスキン・ヘッドの後ろから朝日が照らしているのも、その男の表情に影を差していた。

 負けが込んでいる敵方のリーダーの1人である。
 いやそれ以前に、その男は自分の兄でもある。
 どれほどの憎しみを抱えて、細川家の人間に自ら刃向かい続けているのか、距離をモノともせずに空気の波動で分かる程、突き刺している。
 忠利は初めて足がすくんだ。

 勝っている戦なのに。。。
 何も言わず独りだけ仁王立ちしておる兄に、僕は負けている。。。

 周囲には亡骸が転がってはいるが、それが敵か味方かなんてどうでもいいくらい、細川の次男興秋の姿に、三男忠利は身動き出来ないでいた。


ガラス越しに映り込んだ九曜紋
(撮影:上原麻美)


 なんとか探し出した家臣、松井興長(長岡:家老松井康之次男)が、忠利に声をかける。
「若様。一度、細川の陣に戻りましょう。
 徳川様の大砲で、大坂城本丸も倒壊いたしております。この天王寺の砦も無意味です。真田丸ほど強固でもございませんでした。真田信繁も、篭城するために退いております。
 戻りましょうぞ。忠興様の処へ」

「あいわかった。興長。
 お前、あの独りで立っておる奴が誰か、知っておるか❓」
「申し訳ござりませぬ。私共は、、、存知あげては、、、」
「、、、そうか。そなたの父上に訊いておけ。あやつの姿を見る最後かもしれぬ」
「さようでございますか」

 荒廃し、残骸が拡がっている天王寺地域を離れるように促す、松井興長。
 その様子を見届けた次男興秋は、ようやく振り返り大坂城庭園の方角に向かってゆっくり歩き、独り豊臣秀頼側へと戻る。
 外堀は既に、徳川幕府方によって全て埋め尽くされていた。


 生駒山麓近くに、砦と寝泊まり処を築いていた、細川軍。
 松井興之(家老松井長男)が、外部から臣従したリーダー達に通達を始めていた。

 細川軍の本陣を、三男忠利の生まれ育った思い出の玉造屋敷跡に敷こうとするのを引き留めたのは、他でもない父忠興だった。
「珠子の眠れる魂に触れるな。
 神聖な場所として置いておけ。それがしはキリシタンではないがな。
 そうしてくれないか❓頼むな❓」

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