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それから、本を読もうか

 ずっと気になっていた【ビブリア古書堂の事件手帳】を観た。主演は黒木華、雰囲気がぽわっとして好きな女優さん。鎌倉の古書店で働く女性店主のもとに夏目漱石の【それから】の本を持った若者(野村周平)が現れる。亡くなった祖母が大切にしていた古い本の謎を知りたくて。そこから解かれた謎は、若き日の祖母の激しく切ない恋の話だった。

 若き日の祖母を夏帆、その恋の相手を東出昌大。1660年代の時代をノスタルジックに観せてくれる。鎌倉の街並み、海が見える旅館からの眺め、夏帆が演じる夫婦が営む食堂の佇まいと、その亭主の一言…。ほろ苦いレモン味が残る上品なシフォンケーキみたいな、そんな映画だった。

 その映画の要となる小説、夏目漱石の【それから】は忘れられない。いや、細かいストーリーは忘れてしまったけれど、高等遊民と呼ばれる主人公と、その友人の妻の距離感の描写にショックを受けたのだ。お互いの好意がだんだんと友情から男と女の恋慕に変わりゆく中、その先の一歩の踏み出し方。お互い気づかないふりをしながらも、溢れてしまう感情が丁寧に描かれていて、ふぅーっとため息。

 読書っていいよね。また読みたくなり、お気に入りの本屋さんへ行って、私を呼び寄せてくる本を数冊買ってきた。三浦しをんの【木暮荘物語】。1976年生まれの作家さんで数々話題の小説を執筆されている。【舟を編む】では本屋大賞受賞。映画化にもなった物語。うん、面白かったものね。【まほろ駅前多田便利軒】は直木賞受賞。残念ながらまだ読んでないけれど。

 【木暮荘物語】は世田谷代田から徒歩5分にある安普請の古いアパートに住む住人と、彼等と関わる人々の物語。短編七章で構成されていて、それぞれの人物を、切なく時には面白く軽いタッチで書いてある。。最後にもう一度春を取り戻したいと願う年老いた木暮荘の大家、ふとした事で今彼と元彼の三人で暮らすことになった花屋の店員の女の子、三人も彼氏がいる女子大生と天井からその部屋を覗く事が日常化しているサラリーマンなど、ありそうもないけれど、ふっとその世界に入りこめちゃう物語。

 物語の中には性の話、恋愛のもつれもしっかり書いてあるけれど、高校生が読んでも大丈夫なくらい表現があっさりしている所が好感触。性そのものじゃなくて、その中にある気持ちを知って欲しいという作者の思いを感じるから。個人的には女子大生が友達の生まれたての赤ん坊を預かる羽目になった話が好き。思わずウルっとなるほど堪らなく切なくて、好きなんだ。

 もう一冊はアーネスト・サトウ【一外交官の見た明治維新】。岩波書店から1960年に発行された上下二巻。1862(文久2年)年、江戸在勤の通訳となったイギリスの外交官サトウの回想録。明治維新前からその後まで、体験・見聞を綴った史実。最後の将軍、慶喜から西郷隆盛、伊藤博文など書き切れぬ程の要人と会い、その内容、当時の日本の情勢を時系列に記してある。

 文字も小さいし登場人物(と言っても全て実在の人物なのだが)が多すぎて一度読んだだけでは入ってこない。まあ、ストーリーは教科書で習って知っているけれど。当時の混乱ぶり、為政者から敗北者へと転落していく幕府側の姿は胸が詰まるほど苦しくなる。小説ではないんだ、善悪で割り切れない混沌とした中から生まれる日本を感じることが出来る貴重な本。

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 読んでいる本を見ればその時の自分の状態がわかる気がする。強いストレスに苛まれているときはサスペンス系の強烈な本ばかり。今は、穏やかなんだろう、映画も本も日常の続きのような物語が多い。

 これからも色んな種類の本を読みたいと思う。感情を揺さぶる小説、歴史を知る本、海外の本、古典と呼ばれる本、それから、それから…

 そうね、夏目漱石の【それから】ももう一度読んでみよう。鎌倉の風景を思い描きながら、物語の中に漂う旅に出よう。

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