容赦ない夜ふかし『第0夜 黄昏れてない黄昏』

第0夜 黄昏れてない黄昏

最後にたたいたエンターキーの軽快な音を号砲に、僕の終わらない夜が始まった。
僕はもう、目の死んだ30人弱がひしめくこの部屋を抜け出して無限の可能性に手を伸ばす権利を手にしている。数分前までは偉そうに見えた肩幅課長さえ、今では小動物同然である。有象無象の同僚たちには目もくれず、さっそうと職場をあとにしてやろう。
今日は"特別な日"ではない、暦の上では。だからこそ、僕は今日を特別に仕立て上げてやるのだ。どっかの三位一体様や偉い人の誕生日じゃなくたって特別にできる。それは、有給休暇と週休二日が紡ぎ出す合法かつ公序良俗から逸脱しない奇跡ないし魔法の類。
とはいえ、今夜僕には何の予定があるわけでもない。そこにあるのは「何もしなくていい時間」と「何でもしていい時間」をステアしてライムを絞った混合物だけだ。こいつはなかなか度数が高く、僕はその香りだけでもうほろ酔いになっている。このグラスをどう飲み干してやるか、割り方、アテを空想しながら、一人胸を踊らせているのだ。
容赦のない夜ふかしは宇宙だ。右を見れば長風呂、音楽、左を見れば映画、ゲーム、読書、そして眼前広がる酒と飯たち。あるいは、振り返るとそこにはやり残した家事の数々・・・。星々が360度見渡す限り散りばめられ、それぞれが僕が立っているところに光を放り投げているのと同じように、無限の欲求がまばゆい光で僕を包んでいる。どの星と星を結ぶかは僕の自由。僕だけの星座を、底なしの時間に酔いながら千鳥足で紡いでいく・・・。

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