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展覧会レポ:泉屋博古館東京「楽しい隠遁生活 ―文人たちのマインドフルネス」

【約3,500文字、写真約20枚】
初めて六本木一丁目にある泉屋博古館せんおくはくこかん東京に行き、「楽しい隠遁生活 ―文人たちのマインドフルネス」という企画展を見ました。その感想を書きます。

結論から言うと、想定以上に満足できました。とっつきづらい展示内容も、工夫によって興味をもって鑑賞できる仕様になっていました。また、美術の範疇を超えて「マインドフルネス」について、自身を振り返る良い機会にもなりました。泉屋博古館せんおくはくこかんに行ったことがない人は、是非おすすめです。

展覧会名:楽しい隠遁生活 ―文人たちのマインドフルネス
場所:泉屋博古館せんおくはくこかん東京
おすすめ度:★★★★☆
会話できる度:★★☆☆☆
ベビーカー:ー
会期:2023.09.02(土)ー2023.10.15(日)
休館日:月曜日
住所:東京都港区六本木1丁目5番地1号
アクセス:六本木一丁目駅から徒歩約5分
入場料(一般):1,000円
事前予約:不要
展覧所要時間:約1時間
混み具合:ストレスなし
展覧撮影:全て撮影不可
URL:https://sen-oku.or.jp/program/20230902_joifulseclusion/


▶︎訪問のきっかけ

スペイン坂を登った上にある案内標識(美術館の反対側)

以前からネットで泉屋博古館の名前は目にしていました。しかし、場所が若干辺鄙(ビジネス街)なため、実際に行く機会がありませんでした。今回は、隙間時間があったため、初めて行ってみることにしました。

▶︎泉屋博古館とは

美術館を正面から

泉屋博古館せんおくはくこかんは、1960年に京都、2002年に別子銅山開坑300年記念事業の一環として、東京の住友家旧麻布別邸跡地にオープンしました。住友財閥が寄贈したコレクションが展示されています。東京は、2020年に改修され今の佇まいになった、とのことです。

このnoteを書くまでずっと「いずみやはっこかん」と読んでました😅

財閥では、三井、三菱、財閥ではないですが、出光、パナソニックなども美術館が東京にあります。企業が収集したコレクションが展示されている美術館を巡ると、その企業の背景や想いも見ることができて楽しいです。

美術館のロゴ(ふりがなが欲しい

泉屋せんおく」という名前の由来は、銅の製錬業を営んでいた住友家が江戸時代に用いた屋号「泉屋いずみや」らしいです。独特なロゴは、住友を象徴する「泉」の古代文字です。美術館の名前、ロゴにしても企業の歴史、想いが凝縮されていて、調べると面白いです。

展示室入り口にある彫刻作品(びっくりするくらい平行に撮れた

▶︎アクセス

看板にあった周辺地図

六本木一丁目駅から徒歩約5分。駅からエスカレーターを上れば到着します。なお、私は六本木駅から歩いたところ、迷いながら15分はかかりました。初めて行く方は素直に六本木一丁目駅から行くことをお勧めします。

六本木一丁目駅からの案内はバッチリ
エスカレーターに導かれるままに行けばok

住所:東京都港区六本木1丁目5番地1号

▶︎「楽しい隠遁生活 ―文人たちのマインドフルネス」

外観にある展覧会ビジュアル

むかしの人たちも(略)政治や社会のしがらみから逃れ、清廉な生活にあこがれたがために、自ら娯しみ遊戯の精神を忘れず、自由を希求する「自娯遊戯」の世界を描いた絵画や工芸品を求めたりしました。(略)田舎暮らしのスローライフを求める「楽しい」隠遁から、厳しい現実を積極的に切り抜ける「過激な」隠遁まで、実に多種多様な隠遁スタイルが見いだせます。本展は、理想の隠遁空間をイメージした山水・風景や、彼らが慕った中国の隠者達の姿を描いた絵画作品とともに、清閑な暮らしの中で愛玩されたであろう細緻な文房具なども併せて展示いたします(略)

公式サイトより
いざ、展覧会へ

展示品の約99%が泉屋博古館の所蔵でした。繰り返し自館の所蔵だけで展覧会を運営することは、キュレーション力が試されそうです。

マインドフルネスの意味は「安寧な心理状態」。私は隠遁と聞くと「逃避」、達磨大師のような「霞を食べるような細々とした仙人の生活」というイメージでしたが、当時の「隠遁」は「人生の本質」だったそうです。

田能村竹田《梅渓閑居図》(引用元):竹田は写実的な絵もうまいし、緩い絵もうまい

昔の人は、現代の六本木ヒルズ的な場所ではなく、何もない桃源郷に行くこと、晴耕雨読的な生活、何もしないことによる心の充足が至高とされていたようです。桃源郷では、山、雲、川、松、質素な家があれば十分でした。同じようなモチーフの絵が数え切れないほど描かれています。

現代の人でも、滝を見ると心が落ち着き、自然の雄大さを感じます。「マインドフルネス」は、今も昔も共通する部分もあります。私は、展覧会を通して「マインドフルネス」の意味が伝わり、見つめ直す機会になりました。

十時梅厓《十便十宜帖》(引用元):個人的に一番好きな作品。緩く楽しい時間の流れを感じる

現代の1日分の情報量は、平安時代の一生分と聞いたことがあります。当時の人は、そのような少ない情報量でも、嫌気が差して隠遁することを夢見ました。当時の人が現代に来たら1秒で隠遁するのかな、と思いました。

私も隠遁したい気持ちが理解できます。私は旅行に行く場合、city派ではなくnature派だからです。山、田、湖など、見ていると心が落ち着き、目を閉じて深呼吸したくなります。

「マインドフルネス」の今と昔の違う部分、今と昔の共通する部分に気付きました。加えて、生きる上で様々な「マインドフルネス」の大切さ、自然をのんびり感じて隠遁するのはいいなぁ、と改めて考えました。

休日に「マインドフルネス」するために、平日にお金を稼ぐ。お金を貯めるばかりではなく、贅沢に「マインドフルネス」にお金を使うことは大事だなと思いました。

小田海僊《酔客図巻(部分)》(引用元):この絵も緩くて楽しい。上記にはないが、酒瓶に顔を突っ込んでいる人がお気にり

以下、ちょっと気になった展示品について。

例)鐔 富士見西行の図(引用元)※本展覧会にはない

花見西行図鍔はなみさいぎょうずつばは、細工が凝っていて驚きました。刀のつばまで戦闘で誰も目が行かないと思います。しかし、そのような細部へ工夫を巡らすことに、日本人の奥ゆかしさを感じました。

例)瓢箪花入 千利休在判(引用元)※本展覧会にはない

鯰口斑瓢ねんこうはんひょうなど、数点の瓢箪ひょうたんが展示されていました。今まで瓢箪をまじまじと見たことはなかったです。見れば見るほど可愛く、趣がある形だなと思いました。そのまま水筒にも使えるし、美術と実用をうまく満たしたプロダクトです。

例)怪石(引用元)※本展覧会にはない

太湖石たいこせきなど、「怪石」「奇石」をありがたがる中国の感覚も面白かったです。「え?石?」と思いましたが、日本人の感覚でも良さが分からなくはないです。エライ人が「こりゃ良い石だ」と言えば、"怪石"認定されたのでしょうか。

チケット

ビジュアルや館内にあるキャプションの書体がポップで、見る人に対する工夫が凝らされていました。同じ内容を明朝体で書くとイメージは随分変わりそうです。展示物のキャプションは、赤字でキャッチーな一行タイトルが付けられていて、それを見ているだけで面白かったです。

例えば「出世欲をさりげなく」「隠遁のパルチザン」「リア充山水」「滝は見えねど何やら楽しそう」など。展示内容は硬いですが、紹介の仕方、書体の使い方でより多くの人に来てもらう、読んでもらう工夫を感じます。また、展示室内のガラスは反射が少なく、鑑賞しやすかったです。

なお、展示している作品のキャプションに番号を振ってほしいです。実際の作品の情報をリーフレットで探す際に時間がかかるためです。また、展示室内に矢印の表記はあるものの、導線が少し分かりづらかったようです。特に、1つ目の部屋は、左右それぞれから歩く人がいて鑑賞に支障がありました。

ちなみに、「監視スタッフ用」と椅子に張り紙がありましたが、正しくは「看視」ではないでしょうか?細かい部分ですが、気になりました😅

ところで、私は展覧会に行った後、ライブに行きました。「隠遁」と真逆で、体を動かし声を出すアクティブなイベントですが、この展覧会のお陰で、ライブに行くこともマインドフルネスだと感じました。

▶︎まとめ

買ったポストカード。石涛《廬山観瀑図》

いかがだったでしょうか?泉屋博古館のキュレーションに工夫が凝らされていたため興味深く鑑賞できたことに加え、「マインドフルネス」を考え直す良い機会となりました。京都の博古館も機会を作って行ってみたいです。

▶︎今日の美術館飯

HARIO CAFE 泉屋博古館東京店 (東京都/六本木一丁目駅) - ハーフサンドイッチセット (¥1,300)
カフェからの景色

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