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『地球にちりばめられて』多和田葉子

先月読んだ作品。noteにも記録しておく。


1. はじめに

コロナがあって、ロックダウンという現象が起き、国境という壁の存在が濃く感じたのは最近のこと。今回読んだ『地球にちりばめられて』は、そんな国境という壁を取っ払ってくれたように感じる。

以前、多和田葉子の『聖女伝説』を読み、その独特なことば遊びの感覚を楽しみながら読了、続いて『献灯使』を読んだところで、当時はそういう気分でなかったのか途中でやめてしまった(念のため『献灯使』は評価高い作品なので私の勝手な気分の問題)。

今回読んだ『地球にちりばめられて』は『献灯使』の世界観と共通しそうでしていない。私的には断然こちらが良くて、少し不思議な感覚に陥ったりもした。というのも、この作者は日本語を客観的に見ることができるからなのかもしれない。

2. ストーリーと危機言語

この作品には「Hiruko(ヒルコ)」という日本人女性が出て来る。しかし、この世界ではすでに日本は消滅しているらしい。ゆえに日本語も消滅している。Hirukoにとっての母語が消滅しているということだ。
国、母語が消滅って、どんな気分だろう。

「危機言語」というのを、以前勉強したことがある。

世界に言語は2000~8000もあると言われていて、現存する言語のうちの半数は約100年以内に消滅するとも言われている。その中には、アイヌ語や琉球語も含まれている。
ちなみに、アイヌ語は抱合語といい、日本語とタイプが全く異なる。エスキモー語やグルジア語と同じタイプの言語で、見てみると超分からない!
なお、日本だけでもいくつかの言語が存在している。だから日本語を日本人の言語だ、って言い切っていいのか?っていうことを聞いたこともある。

話を戻して、、、
消滅してしまった母語を持つHirukoは、同郷だという「Susanoo(スサノオ)」という人物の情報を聞き、会いに行くのだ。もしかしたら母語で会話ができるかもしれないという期待に胸が膨らむ!

Hirukoと同行するのは、クヌート。彼は言語の研究者。いつの間にか二人は恋人?になっていた?ようだ。
消滅言語を使って会話する姿は、言語を研究する者にとってとても興味深いものなのだろう。

クヌート以外にも、巡り合わせで、アカッシュが加わり、ノラが加わり、ナヌークが加わる。
彼らは国を超え、言語を超え、時に性を超える。そのようなものを分け隔てる壁なんかどこにも存在しないのだ。

3. 旅は道連れ

この作品は、彼らの冒険譚のようにも感じるし、なんといっても彼らの出会い方、巡り合わせはユニークだった。
物語は、旅の途中で幕を下ろすが、壁がないからこそ、こんな出会いができるのかなとも思った。

言語も国籍も異なる人たちが偶然出会い、なんとなく仲間になり、なんとなく旅の目的が決まっていく。全く接点のなかった人が出会って間もないのにも関わらず、旅の同行者となる。
でも旅っていうのは本来はそういうもの。初対面でも気が合えば「旅は道連れ」と申しますからネ。

4. 最後に

『地球にちりばめられて』、このタイトルもとてもいいと思った。地球にちりばめられた人たちがどこかで出会い、何かを共にする。

この作品は三部作らしいけれど、「旅は道連れ」の後には別れがあったりするのかな?
ということで、今『星に仄めかされて』を半分くらいまで読んだところ!


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