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明日に絶望する前に 衆院選とこれから

10月31日、衆院選の投開票日に、TBSラジオの総選挙スペシャルにお邪魔し、直接各政治家に質問する機会を得ることができました。

長い番組ですが、どの政治家へ、どの時間帯に質問したのかは、概要欄のタイムスタンプを参考にして下さい。

気になった点をピックアップしていきます。

《①公明 山口那津男氏》

今回、公明党の女性候補者の比率は7.5%に留まり、他党と比べて最低でした。しかも2017年の衆院選では9.4%であり、前回よりも比率が下がっています。この点についての山口氏の返答は、「地方議員の比率は高い」等々でした。

ちなみに2019年の参院選でも、同党の女性候補者比率は最下位であり、選挙特番でその点を問いましたが、山口氏は同じ答えを返しました。

考えるべきは、地方議員での女性比率がなぜ、国会議員には反映されないのか、何が壁となっているのか、という点ではないでしょうか。

《②自民 岸田文雄総裁/河野太郎氏》

荻上チキさんが、名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんのビデオ開示について問いましたが、岸田氏は「治安の問題」を盾にし、正面から答えようとしませんでした。

10月、遺族の弁護団が、「証拠保全」の手続きでようやくビデオの一部を確認するに至りました。入管側は当初、「保安上の理由」から①鍵、②窓、③入管職員・被収容者の顔は見せられないとしていましたが、①と②はビデオの端の方を映らないように対処した上、③についても、ビデオは部屋の上から撮影されており、職員も帽子をかぶっていることから、職員の顔はモザイクがなくても見えなかったといいます。

開示を拒むのは「保安上の理由」ではなく、「保身上の理由」ではないでしょうか。詳細は下記の記事にまとめています。

荻上さんから河野太郎氏に対しても、国会でのビデオ開示など、行政でできることをしないのかと問いましたが、河野氏は「司法の結論を見る」という答えに留まりました。

関連する裁判が進もうとしていることをもって、国会が扱ってはいけないわけではありませんし、近年、「裁判が進んでいるから」「捜査中だから」ということを盾にした政権が、その裁判、捜査が終わった後に正面から説明しているのを見たことがありません。

河野氏は「まずは情報開示請求が行われていくべき」とも答えていますが、ご遺族、代理人が請求した関連文書は、15万6760円の「開示実施手数料」の請求とともに、1万5000枚以上、ほぼ黒塗りで送られてきました。

また、岸田総裁に対しては、自民党の公約の中での技能実習生制度の位置づけについても尋ねました。この制度は、技能移転によって「国際貢献」することが「建前」となっていますが、公約の中では「人手不足を補う手段」と当然のことのように位置づけられています。これについても歯切れの悪い回答でした。この制度を巡っては数々の人権侵害が指摘されていることから、廃止を掲げる政党もありました。

《③維新 馬場伸幸幹事長》

維新は政策集で掲げている「ヘイトスピーチ対策」に、「日本・日本人に対するものも含む」としていますが、ヘイトスピーチは力の不均衡によって、社会的マイノリティに向けられるものだということが抜け落ちています。

この点について、Dialogue for Peopleの佐藤慧が記事にまとめています。

もちろんどんなバックグラウンドの人でも、理不尽に言葉の刃を向けられることがあってはなりませんが、ヘイトスピーチそのものに対する正確な理解も必要かと思います。

※参考:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html

また維新は、国政選挙立候補者に対し、国籍の得喪履歴公表の義務づけも掲げていますが、他国籍であったことで何かに支障をきたすかのような偏見を助長しないか? 多様なルーツの人々が、差別を恐れて立候補しづらくなるのでは? という点は引き続き指摘していきたいと思います。

そして、家族社会学者の永田夏来さんが馬場氏に指摘した重要な点が、「選択的夫婦別姓」についてです。維新は選択的夫婦別姓について「賛成」の立場をとっているとしています。

ところが、掲げられている文言をよくよく読んでみると「同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら、旧姓使用にも一般的な法的効力を与える選択的夫婦別姓制度を創設」としています。これは選択的夫婦別姓ではなく、通称使用の拡大ではないのかという永田さんの指摘に対し、「戸籍制度そのものを否定する政党もあるので、伝統文化(である戸籍制度)を守っていく」という噛み合わない返答が続きました。

シンプルな「〇」「×」で各党の立場を区分けしていくことももちろん大切な発信ですが、実質的な中身を慎重に見ていく必要もあるかと思います。

《④立憲 福山哲郎幹事長》

自民、公明ほどの低さではありませんが、立憲民主党の女性候補の割合も18.3%に留まりました。「次の参院選では擁立していきたい」という返答でしたが、「次こそは」「次こそは」で先送りしていては解決しません。

思い返すのは2020年9月、合流新党として立憲民主党が立ち上がり、人事が発表された際のことです。代表、幹事長、政調会長、国対委員長、選対委員長など、主要な役職は全員男性でした。

当時、2020年までに指導的地位の女性の割合を3割に、という目標を政府が先送りにしたばかりでした。他の役職には女性も登用されているとはいえ、真っ先に発表した、とりわけ主要な人事がこれでは、与党との「違い」を打ち出す機を、自ら手放してしまったようなものです。今後の党人事を注視したいと思います。

《⑤その他》

前回の衆院選に比べると、「難民」というキーワードを公約に掲げている政党はぐっと増え、主要政党のほぼ全てが、外国人の子どもたちの教育や入管の問題について言及していました。

ただ、飽くまでも外国人を「管理」「監視」の対象として見ているのか、それとも生活、人権の主体として見ているのか、具体的な中身は細やかに見ていく必要があります。

落選した自民党の石原伸晃氏は、街頭演説中、日本に長く在住するひとりのクルド人男性を指し、「彼が日本人になれないなんておかしい!」と訴えました。もちろん希望する人々の日本国籍取得に理不尽な壁が立ちはだかるのであれば、その障壁を除いていく必要がありますが、日本国籍を取得しなくても、この社会で生きる権利は守られるべきでしょう。

そもそもトルコ出身のクルド人が過去ひとりも難民認定されていないなど、クルド人の厳しい現状を直視せず、都合のいい時だけ利用するのかと、多くの批判の声があがりました。

また、公明党は公約の中で、『「自動車整備難民」が生じる恐れがあります』と記していましたが、日本に逃れてきた人々が直面する問題に正面から向き合わずに、「難民」という言葉を本来の意味ではない形で用いてしまうのは不適切でしょう。

一方で、包括的な差別禁止法の制定や、国内人権機関の創設、入管での全件収容主義を止める、など、かなり具体的でクリアな政策を掲げている政党もありました。

少なくとも各党ともに、この問題への社会的関心が高まっていることを意識しているのだと感じます。

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今回の選挙結果には、それぞれに思うことがあったと思いますが、例え自分が投票した候補が落選したとしても、「がっかり」「もう終わった」ではありません。

民主主義=選挙ではなく、投票=全権委任でもありません。選挙後も政治に疑問があれば、投票とは違う方法で投げかけていくことは不可欠です。むしろ選挙期間以外に政治家が何をしてきたのか知らなければ、次の投票の判断も困難になります。

自分の選挙区から当選した別の候補が、国会でどんな発言をし、どんな行動をしていくのか見続ける――私たちは改めてその「スタートライン」に今立っているのではないでしょうか。


衆院選関連情報:

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