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時の流れに身をまかせた青磁

青磁をこの目で見たくって出光美術館に行ってきました。

3000年以上前の中国で偶然発見された釉薬ゆうやくによって青磁が作られました。青磁の歴史の重さに圧倒され、かなわないなと思いました。

時の流れ、日々の積み重ね、変化、発展は青磁に関わらずどんなものにもあるしそれが欲であろうと、毒であろうと時間の中では消化されていきます。

ひっそりと美しいひとつの青磁が見つめてきた物語です。

青い壺    有吉佐和子

無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壺が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。解説・平松洋子

文春文庫

48年前に描かれたものなのに、人間の在りようって現代と変わらない。定年退職の夫にいらいらしたり、その夫が奇功に走ったり。遺産相続の欲や、嫁姑問題、同窓会でのマウント、自分が正しいと言いきる評論家。愚かで滑稽で、切なかったり優しかったり、諦めたり納得したり失敗したり、あっけなかったり。

あるあるという事柄や、いるいるこんな人と思ったり。

現代に通じるものだけど、人間の欲や、どろどろした心理って傷ついたといわれて傷つく令和的なものじゃなく、まだ戦争を引きずっている暗く深いものです。戦争からそんなに遠くにきていない。

暗い時代を明るく過ごそうと、戦時中にイブニングドレスとディナージャケットでブランドの高価な洋食器にサツマイモとじゃがいものフルコース。フォアグラ、ホロホロ鳥のつもりで食べたと昔話をする姑。彼女が亡くなってからその息子である夫が、姑の話しをいつも聞いてくれたからと妻にホロホロ鳥を食べにいく7話と8話が好き。

食にまつわる話しは毒がない。

毒の多いSNSの時代だからこそ読んで欲しい。個人攻撃でもなく個人的感情吐露でなく人間の奥深く救うドロドロした心理を客観的に描いているからこそ、48年経っても色褪せず小気味よい。

人間の欲があるからこそ、静かな青磁の壺が美しい。

最後の1行に救われた。
わたしも省造のように潔くありたいと思った。

省造の青磁、見てみたい。

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