【読んだ】格差と分断の社会地図
おすすめ度 ★★★★★
「格差」や「分断」という言葉は、ニュースで頻繁に目にする。
教育格差、世代間格差、医療格差、地域格差、男女格差、職業格差…
本著ではそれぞれの格差と社会問題について深堀りされている。
どれも知らないことばかりだった。
例えば…
・ホームレスの62%に何かしらの障害があること
・刑務所にいる受刑者のうち45%が知的障害があるとされていること
・身体障害者が虐待を受ける可能性は健常者の4.3倍、知的障害者の場合は13.3倍も高いこと
・非行少年の多くが5才児程度の語彙力しか無いこと
・日本では外国籍の子どもは義務教育がないので、小学校で中退することも多いこと
・コロナ禍で休業要請に従わず、集中砲火を受けたホストクラブの言い分。そこで働く人達の生い立ちや日常
わかりやすい文章だけど、ショッキングな内容だった。
でも、各章の最後には希望的な取り組み例もあって、前向きになれる良書だった。
分断された世界は見えない
私を含め、ほとんどの人は格差と分断に対して無知だ。
それは分断された世界が普段の生活では見えないから。
*
ここからは私自身の経験。
私は経済的に豊かではない家庭で育った。
一方、学生時代から付き合っていた夫は、父親が上場企業の社員で、大学生の頃には役員クラスになっていた。
おそらく親の年収差は10倍近かったのではないか。
私が「あと2000円で半月食べていけるかな…」と悩んでいる時に
彼は「親が『留学するか、大学院に行くかすれば?』っていうんだけど、部活やりたいから留学は嫌だなぁ…」と悩んでいた。
彼は自分を「ごく普通のサラリーマン家庭」で育ったという。
私はそれを聞くたびにイラついた。
あなたが普通なら、私は何なんだ?
*
自分が上にいる時、階層を意識することはほとんどない。
仕事や友人、学校などの狭い社会で「普通」を定義して、別の階層にいる人に気づかない。見ようともしない。
「自分が得ている特権には気づかないけど、自分が受けている差別には敏感になる」というのは、前に読んだ差別の話にも似ている。
悪意があってそうしているのではない。
本当に見えないのだ。見えないから興味すら持てない。
とはいえ、小学校には支援級やサポート級があって、知的障害や発達障害のある人が複数いた。
でも、中学・高校・大学へと上がっていくにつれて、だんだん身近なところからそういう人たちは減っていく。
彼らがいったいどこにいって何をしているか、考えたことがあっただろうか?
いや、ない。悪意があるわけではないが、無関心だったのだ。
彼らに興味を持たず、考えてこなかった社会全体の無関心が、分断を生み様々な社会問題を招いている。
共生するために
あまりに複雑で根深い問題が多すぎて、読んでいると絶望的な気持ちになる。
でも、この本には章ごとにsuggestion(提案)がある。
例えば教育格差のsuggestion、沖縄県の「無料塾」の試み。
沖縄県は貧困率が高く大学進学率も低い。
公的事業として「無料塾」を行っている。
面白いのは一般の塾で、低所得層だけ無料。
つまり、様々な所得層が同じ塾で学ぶ。
そうすると高所得者層から「不公平感」が生まれるのでは、と思うが、むしろ逆らしい。
「裕福な家の子どもは、そうでない子が将来家族を支えるために、必死で勉強する姿をみて心を動かされたようです。」とある。
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国際格差からくる子どもの不就学問題には、岐阜県可児市の「ばら教室KANI」や「国際教室」。
学校生活で必要な日本語や習慣を就学前に学べる。
公立小学校に専属教師や通訳をおいて、語学指導を行う。
市長が旗を振って行政として取り組むことで、実際に可児市は不就学ゼロを達成したという。
*
健常者と障害者の分断を埋める取り組みは、石川県金沢市の福祉施設「シェア金沢」。
郊外のにひとつの町をつくり、障害者施設だけではなく高齢者住宅や学生向け住宅、レストランやカフェなどの店を置く。一般の人も大勢出入りする。
どの事例も、分断の橋渡しをするように「一緒に」やっている。
それは格差の上も下も関係なく、お互いを理解することで共生の道を見出すことだ。
わからないものは怖い。知らないものには興味も持てない。
でも、これから先もずっと自分の知っている狭い世界だけで生きつづけるのは難しい。
少しずつでもお互いの存在に気づき、理解し、歩み寄ることができれば、格差を埋めてもっと世界を広げることができるんじゃないかな。
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