書評「革命前夜-すべての人をサッカーの天才にする-」

フジテレビのすぽると内のコーナー「マンデーセレクション」や、ヨーロッパサッカーの解説でサッカーファンをうならせる解説をしてきた、風間八宏。

2012年4月から川崎フロンターレの監督に就任し、早5ヶ月。名解説者のチーム作りに注目が集まる中、2冊同時に発売された内の1冊が本書です。

本書は、風間八宏を長年取材してきたライターの木崎伸也が過去に書いた風間八宏のサッカー観に関する記事をまとめたもので、風間八宏関連本の決定版と言える書籍です。

風間八宏が提示するサッカーの「何が」革命的なのか

風間八宏のサッカー観をまとめた本書のタイトルが、なぜ「革命前夜」なのか。それは、風間八宏が今までにない新しいサッカー観を提示しているからです。それを、本書では「革命」という言葉で説明しています。

では、風間八宏が提示するサッカー観の「何が」革命的なのか。それは、「サッカーで必要な技術の定義」です。

サッカーの基本技術は、以下と言われてきました

蹴る:ボールを正確に、狙ったところに蹴る技術
止める:動いているボールを、正確に止める技術
運ぶ:転がるボールを、自分の思った通りに運ぶ技術

ところが、風間八宏は上記3点に、新たに以下2点を提示しました。

外す:相手のマークを外す
受ける:相手のマークを外して、ボールを受ける技術

この2つの技術が、現代サッカーに革命をもたらしました。

革命をもたらしたのは、FCバルセロナです。「蹴る」「止める」「運ぶ」という技術が高いチームや選手はいままでもいました。ところが、FCバルセロナは、そこに「外す」「受ける」という技術をプラスすることで、相手に関わらず、自分たちの特徴を前面に押し出せるサッカーを確立しました。それは現代サッカーにとって、革命でした。

今まで、「なぜFCバルセロナが強いのか」をきちんと説明できる人はいませんでしたが、風間八宏は5つの技術のテーマを用いて、FCバルセロナの強さを説明しました。まず、これが革命的なことでした。

そして、風間八宏は筑波大学で、自分が定義した技術を、突き詰めたサッカーを実践し、大学サッカーに革命をもたらします。大学サッカーでボール保持率(ボールポゼッション)が70%近くになるチームを、4年かけて作り上げたのです。

川崎フロンターレの現状から考える「革命」の可能性と問題点

そして、4月に川崎フロンターレの監督に就任しました。しかし、就任後の成績は、2012年9月10日時点で、6勝10敗3引き分けと、明確な結果は出せていません。その要因は、準備期間が足りないこと、怪我人が多いことの2点です。

まず、4月に就任後、試合をしながら自らが考えるサッカー観を伝えていく作業は、風間八宏ほど伝える能力のある指導者でも、簡単ではないはずです。

さらに、怪我人の多さが追い打ちをかけます。矢島、小宮山、森下、楠神、実藤、黒津。。。この選手たちが怪我してなければ、現在13位というポジションにはいなかったはずです。

しかし、風間八宏は自らのサッカー観を粘り強く伝える作業を続けています。その結果、もともと風間八宏の考え方に理解のあった中村憲剛の他、右サイドバックの田中裕介、センターバックの井川祐輔、サイドハーフの楠神順平など、明らかに風間八宏が監督に就任してから、技術が向上した選手が増えています。

さらに、風間宏希、風間宏矢、山越享太郎の加入によって、風間八宏の考え方が急速に浸透しています。風間八宏の考え方が浸透し、本当にフロンターレのサッカーが変わっていくのは、これからです。そのための第一歩、「革命前夜」を記した本として、この本を読んで、フロンターレの変化を楽しんでみては、いかがでしょうか。

※このnoteは2012年10月にnishi19 breaking newsに掲載された記事からの転載です。

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