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【連載小説 #01】昭和レトロ吹奏楽部で普門館を目指す! ~チートは知恵だけ、異世界じゃない転生!?~プロローグ 見知らぬ天井

プロローグ 見知らぬ天井


 それほど快適ではない感じでいつものように目覚めたら、いつものようではない違和感。さらに寝ぼけてることもあって多少混乱気味。

 なんだ、これ。見たことがない天井が上の方に広がっている※001。なんか、自分の部屋の天井じゃない。木目が結構でっかくてくっきりとした木の天井。あれ?いつもはどんなだっけ?ここ旅館?おばあちゃんの家?どこ?

 次第に周囲の様子も見えてきて、どうやら全く知らない部屋で目覚めたことは分かってきた。

 一軒家のよくある部屋。壁には水着の日焼けした女性のポスター※002なんかもあり、壁の上の方に三角形の旗みたいなもの※003がたくさん貼られている。机、本棚、ベッドの横の丸いテーブル、その上に体温計と水と薬……。薬?病気?何?

「お兄ちゃん!やっと起きた~!」

とツインテールで赤いスカートの女の子がドタドタした足音とキンキンする声で登場。お兄ちゃん?なんだ、この子オレの妹?妹がいるの?起きてから今まで一度も混乱が収まらないままここまで来たので、案外落ち着いてしまってったのかもしれない。普通にしゃべってしまった。

「えーと、なんでオレ、ここにいるの?※004」
「昨日病院から戻ってきたでしょ。歩いて。そんですぐ寝て、もうおひるごはんも終わったよ!」
「えー、キミ、あなた、えーと、誰?」
「おかあさ~ん!お兄ちゃん寝ぼけてる~!」

ドタドタとキンキンがそのままどこかにすっ飛んで行ってしまった。ドキンちゃん※005と呼ぶことにする。ドタドタの音の具合からすると、なんか二階建てみたいだな。

 少々待て。整理してみよう。知らない部屋にいる。そして、知らない子がお兄ちゃんと呼ぶ。

 整理は結構速く終わった。

 ならば考えてみよう、こういう状態ってなんだろう。記憶喪失?ならば、自分の名前をまずは思い出してみるもんだよな。

 えーと。あれ。

 なるほど。記憶喪失なのかもしれない。冷静になろう。思考はできている。でも、そもそもこの場所の見覚えの無さはなんだ。そういうものなのか?

 その時、脳裏に浮かんだのはいつもの寝落ちの友、ファンタジー系の読み物の冒頭である。だいたい主人公は知らない世界に飛ばされて、こんな感じなのだ。今の自分、まさにそんな書き出しと同じじゃないか?

 ということは、あれですか。女神様的な人が現れて……いやいや、絶対あの子は違うので、別のもうちょっとキレイな女性などが「あなたはかくかくしかじか……」みたいなことを言ってくれるんでしょ?それで、なんか特別なすごい力を授けましょう、的なことを。

 それなら、何にするか考えてみよう。予行演習しておけば良かった。体力系は結局闘いの日々になるだけ、強力な魔法も同じ、最近良くあるタイプは生産系でこの世界に足りないものを作り出すような……。

 女神はこない。そしてこれまで読んだ異世界転生モノの「絶対勝てる設定」を思い出そうとして、いつの間にかまた寝てしまったようだ……。

※001見知らぬ天井
色々な物語で主人公が陥りがちな状況説明だが、筆者は交通事故で記憶喪失になったことがある。その時に病院で目覚めたときの第一印象がまさしくこれであった。この表現が決して誇張や嘘ではない事を身をもって体験した。ちなみに交通事故で入院する場合、一般の健康保険は使えないため、後程ICUに入ったことも含めとんでもない額の請求額になる。筆者の場合700万円の請求書。もちろん民間の自動車保険がカバーしてくれるので、保険は大事である。

※002 ポスターの女性
当時、日本の若者の煩悩を全て引き受けたと言っても過言ではない、元祖グラビアアイドル、アグネス・ラムと思われる。紫外線に対する感覚も現在とは違い、「健康的な小麦色」というイメージがあり、化粧品メーカーも日焼けを推奨していた。

※003 三角形の旗みたいなもの
ペナント、と呼ばれる横長の三角形の掲示物。観光地名と共にその場所のモチーフがデザインされ、かつてのお土産屋さん販売数トップを木刀と共に争う人気。今、北海道の方で細々と売られているらしい。ちなみに、何をするわけではなく「行った記念」として一度壁に貼られたら二度と触られることはない。

※004 なんでここにいるの?
交通事故で記憶喪失になったと※001で解説したが、実際に分からなくなったのは特定の時間の間の出来事。目撃していた同級生によると、事故の直後に自分は立って警察と話をしていたらしいのだが、全く覚えていない。でも、その時間以外のことは特に何も忘れていない。

※005 ドキンちゃん
ばいきんまんの仲間の女子。自分が世界一可愛いと思い込み、基本わがままでばいきんまんを振り回すが、やさしいところもある。しょくぱんまんに好意を寄せている。アニメ自体は1988年放映開始のため、恐らくこのタイミングではドキンちゃんと言っても登場人物は分からない。

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