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寺脇研が選ぶ「今週のイチ推し」|『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』書評

本稿は、2022年6月9日号の『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)に掲載された寺脇研さんによる書評です。

今でもテレビの影響は大きい!
選挙との相性は抜群!!
中高年こそ必読の気鋭社会学者による白熱講義

「17歳からの〜」と付された副題に「高校生向けの本ではないか?」と抵抗感を持つ方がいるかもしれない。ほとんどの本誌読者は、どう考えてもそれより年長の大人だろうから。

まずは講義4「メディアと政治の本当のはなし」 に目を通してほしい。 わたしたち大人が思い込んでいるメディアの実態が、昨今いかに激しく変化しているかに驚くに違いない。「そもそも私たちはメディアを信じて大丈夫なんですか?」との問いに「メディアは基本的には信用できないと考えるべきです」と即答する。

著者自身、気鋭の社会学者であると同時にテレビのコメンテーター、新聞の紙面批評、インターネット上の討論番組への出演という具合に多様なメディアに登場しているだけに、個々のメディアの姿を白熱講義で見事に検証していく。 わたしも、それなりにメディアにかかわって仕事をしてきたつもりだが、この本に教えられることが多く、目からウロコが落ちることがしばしばだった。

例えば、ネットの隆盛でテレビ離れが顕著だとされていても「テレビの影響はいまでも相対的にとても大きい」と指摘して「選挙という数を競うゲームとの相性は抜群」と鋭く分析する。さらに「新聞やテレビといった古いメディアは、ニュース(事実報道)とオピニオン (意見の提示)を併せ持つが、ネットメディアはオピニオンばかりのものが多い」と言う。単なるオピニオンに振り回されないよう忠告してくれるのは、古いメディアをいまだに信頼している我々大人には心強い。

逆に我々はネットやSNSに慣れていないため 「フェイクニュースに気をつけろ」 「Twitterがきっかけで政治が変わったなんていう風説を安易に信じるな」との注意喚起をしてくれるところも有難い。著者は一方的に現状を決めつけるのではなくて、 フェアに整理する姿勢を貫いているのだ。

民主主義や政治について論じるところでも、その姿勢は変わらない。著者の政治信条やイデオロギーを押し付けるのでなく、右寄りでも左寄りでもない立場から明快に語りかけてくる。

例えば 「メディアだけでなく政治も信じてはいけない」として「もしあなたが政治家なら、好き勝手したくなりませんか? ぼくならなります(笑)」 「ぼくの印象では政治家は自民党かどうかに限らず、基本的に信頼できません(笑)」とホンネを打ち明け、その上で「与野党問わず政治家をきちんと監視しないと、民主主義も成立しない」と重要なポイントを示す。

著者は、与党の側にも野党の側にも立たない。そのため、右か左かの思想対立だけに目を奪われず、 経済的豊かさを求めるか、求めないかの観点も同じくらい重視して、見事に昨今の政治状況を論じていく。自分より30歳以上若い著者に、わたしが全幅の信頼を寄せる理由は、ニュートラルな位置から冷静に問題点を暴く賢さにある。

そう、本書は17歳のための授業ではなく、17歳以上の全ての人のための授業なのである。

寺脇研(てらわき・けん)
52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。
東大法学部卒。75年文部省入省。 職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。『ロマンポルノの時代』、『昭和アイドル映画の時代』、共著で『これからの日本、これからの教育』、『この国の「公共」はどこへゆく』、『官僚崩壊』、『教育鼎談』など著書多数。

『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』
西田亮介さん×高校生トークイベント @代官山蔦屋書店
「社会・政治・自由の危機についてコストとインセンティブから考える」

日時:6月16日(木) 19:00~20:30
主催:代官山蔦屋書店
お申し込みはこちらから
※オンラインのみの開催となります

私たちは政治参加というコストと引き換えに、どんなインセンティブを得られるのか? そのインセンティブはコストと見合ったものなのか?
民主主義や自由の危機が叫ばれるなか、「政治」や政治を支える「主義」や政治を世に伝える「メディア」について新機軸で考えてみませんか?

本イベントでは、有志の高校生も参加し、西田先生に質問を投げかけてもらう時間を一部設けます。現役高校生の素朴な視点から「政治のあたりまえ」を考え直すきっかけにもなる、特別対談講座を開催します。

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