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芽吹いた新芽の苦味やエグみも、春のおいしさとして丁寧に盛り込んでいく

満開の桜が散ったあとに、新芽が勢いよく芽吹いています。春、真っ盛りといった季節に日々元気をもらっています。新年度もはじまり、新しい生活がスタートしたという方も多いと思います。ゴールデンウィークまでもう少し、お身体ご自愛くださいませ。

こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。

山の方も春になってきて、春らしい山菜も出てきました。冬の間の根菜類は、土の中で育った根を食するので、きちんとした処理をしてから炊くなどして、手をかけて食べるおいしさがあります。

一方春は、新芽が芽吹く季節ですので、葉物が多くなります。それこそ、新芽を摘んでそのまま食べれるような山菜もあるくらいです。そのため、あまり手や味も加えすぎないようにしたいと心がけています。

芽吹いた新芽の苦味やエグみも、うま味があるものと一緒に食べるとおいしくなるので、工夫をしながら春らしい卯月(4月)の献立のなかで活かしていきたいと思っています。

乃木坂しん 卯月のおまかせコース(22,000円)を紹介します。

卯月の献立

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先付|筍進上と白魚の桜蒸し、銀餡、梅肉添え

春になったとはいえ、朝晩は寒い日があったり、冷たい風が吹く日もあります。当店にいらしていただいたお客様に、ほっと一息をついていただく意味でも、卯月の献立は温かいお料理ではじめたいと思いご用意いたしました。

出汁で炊いた筍を進上にし、桜の塩漬けの上にのせて蒸して香りを移した白魚を合わせました。筍を炊いた出汁で作った銀餡をかけ、梅肉を添えてあります。

ほっこりと温かいひと品をお楽しみください。

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前菜|油目の昆布締め
もろきゅうとより独活、地辛子酢

油目(あぶらめ)は、3月頃から徐々に市場に並びはじめる魚です。一般的にはアイナメ(「鮎並」や「鮎魚女」と書きます)と呼ばれています。油目というのは、僕の故郷の徳島や大阪、香川での呼び方です。ちなみに、北海道では「油子(アブラコ)」と呼ばれたりしているようです。

油目の名前の通り、アイナメはこの油を塗ったようなヌメリのある皮が特徴です。自分も大好きな魚です。

一般的にはクセがあるので、焼いたり蒸したりするのですが、今回は、昆布締めにした油目に福井県の地辛子に酢を混ぜた地でキュウリを和えたもろきゅうと、独活をあわせています。

クセがある油目をお造りで食べるのに抵抗があるという方もいるかもしません。自分としては、もちろん独特の風味はありますが、それほどクセがあると感じていない魚で、鮮度が良く、きちんと処理すればお造りになると思っています。

気をつけているのは、下処理の際に塩をしっかりめにすることです。また、昆布締めにする場合も、たとえば鯛を昆布締めにするよりも長い時間締めておくようにしています。

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椀物|蛤、平貝、北寄貝と山菜の沢煮椀

沢煮椀(さわにわん)は、豚の脂身と千切りにした野菜で作った塩味の汁物のこと。今回は豚の脂身は入れていませんが、たっぷりの貝類と、お浸しにした山菜にハマグリのお出汁をはって、沢煮椀風に仕立てています。

写真では、セリやウルイ、カタクリ、天然のクレソン、アマドコロといった山菜を使っていて、種類はこれから増えていくと思います。

椀種の貝類は、お出汁をとったハマグリは衣をつけて揚げて白扇揚げに。北寄貝(ほっきがい)は、湯がいて色出しをし、平貝は炭で炙ってから盛りこんでいます。

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造り|もみ鯛、洗い海苔、塩、酢橘、花穂紫蘇

お造りは、角切りにした鯛を塩もみにしたシンプルな仕立てでお出しします。

乃木坂しんにとって「」は、思い入れの強い食材の一つです。お造りは、もみ鯛にするほかは、タタキにするか、滋味造り醬油に漬けるかで、この3つ以外の方法で出すことはほとんどありません。

なかでももみ鯛は、塩でもむだけなのでシンプル。もっとも鯛の味や、白身魚ならではのネチッとした食感を感じられる食べ方だと思います。

乃木坂しんでは、今の季節は関東で獲れる鯛を使っています。故郷の徳島県でも鯛はあがりますが、瀬戸内海の強い海流にもまれていることもありアスリートのように筋肉質な鯛が多いように思います。一方、関東の鯛は、そこまで筋肉質でなく、さらに魚体も大きいので、タタキやもみ鯛にするとおいしいというのもあります。

今回は、お造りが1品だったことや、華やかでうま味の強いお椀が前にあり、後にも花山椒と牛肉の冷しゃぶというお料理が控えているということもあり、シンプルなもみ鯛で、しみじみと食材の味を感じていただくのが良いと思いこの仕立てにしました。

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強肴|牛肉の冷しゃぶ、筍、花山椒、
出汁ゼリー

神戸の「ゆさか精肉店」さんの黒毛和牛のなかでも、クリ(ウデ)という部位を、暖かくなってきた春に合わせて冷しゃぶ仕立てにしました。花山椒と筍と一緒にお召し上がりください。

クリは筍を炊いた時のお出汁でサッと火入れをして、冷たい割下で冷やしながら10分ほど漬け込んでいます。軽くお肉のまわりに割下の味をまとわせるイメージです。

お肉と筍を盛り合わせてから、お出汁で作ったゼリーをかけて、花山椒をたっぷりと添えています。

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凌ぎ|ホタルイカと空豆の飯蒸し、木ノ芽

ホタルイカとソラマメの下に、蒸したもち米が隠れています。

富山県産の大きく、内臓も詰まったホタルイカは、揚がってすぐに現地で蒸してもらっています。もち米とソラマメも別々に蒸して、ホタルイカとともに盛り込んでから、お出しする直前に蒸し器で温めてお出しします。

春らしい食材の組み合わせをぜひお楽しみください。

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八寸|桜鱒フライと和風タルタル、
うすい豆と毛蟹の白和え、蕗の煮物、
唐墨卵黄、白海老ともずく酢、
蓬麩の揚げ煮

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」というのが私たちの八寸の考え方です。そのため、少しずつ盛り付けたお料理を食べながら、お酒が好きな方でしたら、お酒をもう1杯飲んでいただけるような内容を目指しています。

卯月の八寸のメインは、桜鱒のフライ(白扇揚げ)です。卵黄と酢、調味料で作った和風マヨネーズの「黄身酢」に新タマネギ、甘酢漬けの茗荷、パセリを刻んで混ぜ合わせた和風タルタルをかけてあります。

春の食材のうすい豆と毛蟹は、写真にはありませんが白和えをかけてあります。じつは、白和えは、蕗の煮物にかけていたものですが、春を代表する山菜の蕗は、そのままの風味を食べたいという方が多いのではないかと思い、白和えをかけるのをやめ、うすい豆と毛蟹にかけるようにしました。

素揚げにした蓬麩に甘辛いタレで煮た蓬麩の揚げ煮は、乃木坂しんでご注文いただけるお弁当で人気のひと品でもあります。

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蒸物|筍と湯葉の養老蒸し、桜海老の餡掛け

養老蒸しや養老揚げ、養老豆腐など、料理名につく「養老」はすりおろした山芋や長芋を使った料理のことを意味しています。滋養強壮によい食材である山芋や長芋は、「老人の健康をも養う」として長寿を願いを込めた食材でもあります。

器の底に湯葉をしき、その上からすりおろした長芋をかけてから蒸しあげ、筍を盛り付けてから桜海老の風味を加えたべっこう餡(濃口醤油で色付け)をかけて食べていただきます。

試作のときに比べ桜海老の餡の風味を押さえてあります。それは、長芋の風味をお伝えしたかったからです。桜海老は、強くおいしさが伝わりやすい食材ですので、ひと品としてまとまりやすいのですが、その分、ほかの食材の風味を打ち消してしまうこともあります。

今回も試作の段階でおいしいひと品になっていたのですが、長芋の風味が消えてしまったこともあり、桜海老の量を控えめにするなどして、他の食材とのバランスをとるような微調整を行いました。

それぞれの食材の特徴をお伝えできるようなひと品になったと思っています。

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①鯛と菜の花の玉子とじ(月替わり)のご飯は、料理長の石田の親戚が減農薬で栽培する「ヒノヒカリ」です。
②炊き立て白米と鰹の胡麻ポン酢。ご飯は玉子とじ同様「ヒノヒカリ」です。
③そば米雑炊。料理長の石田の故郷・徳島県の郷土料理で、鶏でとったお出汁でいただく素朴な料理です。

食事|鯛と菜の花の玉子とじ、
鰹の胡麻ポン酢、そば米雑炊

【お食事】
①鯛と菜の花の玉子とじ(月替わり)
②炊き立て白米と鰹の胡麻ポン酢
③そば米雑炊

お食事は、上の3つのなかから選んでいただきます。お腹に余裕があれば、少量ずつ全種類のご注文もできますので、ご遠慮なくお申しつけくださいませ。

毎月変わる玉子とじは、鯛と菜の花の玉子とじです。鯛と菜の花の相性はもちろん、玉子のコクに青々とした香りが合うこともあり、どれも相性がよく春らしい組み合わせになりました。

鰹は、ご飯に合うように胡麻ポン酢をかけてあります。

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菓子|桜あんみつ、黒苺の水蕨

和食店では珍しく最後まで手の込んだ料理が出てくると」と毎月お楽しみにしてくださっているお客様も多い菓子は、桜あんみつと黒苺の水蕨です。

桜あんみつは、練乳アイスに、自分の故郷の名産品「阿波番茶」と桜の葉で作った2種の寒天、白玉、煮小豆を盛り込み、最後に桜パウダーを振りかけてあります。

黒苺の水蕨は、食べていただいてもいいですし、瓶の蓋をしめてお土産にお持ち帰りいただくこともできます。

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毎月、このnoteをお読みいただいたり、実際にお店に来ていただいたお客様のなかにはすでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。

今月の献立は、いつもの乃木坂しんの献立の流れとは少し違った構成になっています。

たとえば、いつもなら八寸のあとにある強肴の「牛肉の冷しゃぶ、筍、花山椒、出汁ゼリー」が、八寸の前にきていることです。冷たいお料理であるため、いつもよりも先に強肴をもってきたいということを試作の前から考えていました。

そうすると、お造りが2品続いたあとに冷しゃぶだと冷たいお料理が続いてしまいます。そこで今回はお造りを前菜の位置でお出ししてはどうかということになり、油目のひと皿が2品めになっています。

2品めにホタルイカと空豆の飯蒸しにする案もありましたが、温かい料理が続いてしまうこともあり、八寸の前に温かいお凌ぎとしてお出しすることで少し落ち着いていただき、八寸をゆっくりと楽しんでいただけるような献立の流れをイメージして組み立てました。

喜びに溢れた春のひと時をたっぷりと時間をかけて楽しんでいただけるように、日々工夫をこらしながら準備をしております。皆様のお越しを心からお待ちしております。

「乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎︎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
  おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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構成・文・撮影=江六前一郎

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