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読んでない本の書評87「水中都市・デンドロカカリヤ」

174グラム。ページの端々から、浮き上がって目に飛び込んできて、そのまま脳に住み着きそうな奇妙な言葉づかい。夢に出そう。

「ああ、おまえだったのか。……私だよ、タロー、分かるかい、お父さんだよ。」

 そんなことを言いながら、なんとなく気持ちがわるくて、腰が低いのに押しの強いおじさんがある日突然やってくる。
 いったい何の話だ。サンドウイッチマンのコントみたいじゃないか。

 おとうさんは「妊娠したかも」とか言って部屋の隅にころがって、そのままどんどん膨れていく。なにそれ怖い、そして気持ち悪い。いやちょっとだけかわいいか?そうでもないか。
  時満ちておとうさんは魚を産み落とし、そのせいで、街は水中都市になってしまうのである。なんなんだ。
 阿部公房を要約すると、わたしの読解力の問題のようにみえるが本当にそう書いてあった。

 これまで子ねこを二匹育てた経験がある。
 猫の成長期を見ていると「パーンってなるよっ!」っていう瞬間をしばしば目にするものだ。何かの圧力が身体の中で高まって、突然、脈絡のないトランスに入ってしまう。
 子ねこ特有のギラギラにとがった歯で人の手を夢中で噛みはじめたりするから、痛くて結構本気で怒るが、テンションが上がりすぎてしまった彼らはもはや自分で止められない。
 身体の内で何があふれるのかはわからないが、子ねこが「パーンってなる」瞬間だ。

 人類にも、人の手にしがみついて後ろ脚でキックを入れながら手あたり次第に牙を立てる以外の方法でどうやって「パーンってなるよっ!」を表現するか、という問題があるのだと思う。
 たとえば、バンジージャンプをするとか。たとえば見たこともないお父さんが押しかけてきて死を生むと言い、住み慣れた町を水に沈めるとか。

 書いてある内容も、言葉の配置も面白すぎて、もはや「面白い」ということしかわからないのではあるが、ちょっと想像してみるに、阿部公房という人はお腹が空きすぎていたのではないか。あるいは世界が不条理なのか。どっちかだった可能性がある。

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