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読んでない本の書評78「ぼおるぺん古事記」

「天地創生」「出雲繁栄」「天孫降臨」の三巻で713グラム。どの巻も、まさに神ってる。

 古事記は、もともと好きなのだ。決して読みやすいと思っていたわけではないから、好き、とまで言うと少し恰好つけすぎなのかもしれないが、ものすごく面白いエキスがふんだんに入ってることにはずいぶん前から気付いていた。

「吾が身は成り成りて成り合はざる処(ところ)一処(ひとところ)在り」
「吾が身は成り成りて成り余れる処一処在り」

このあたりの無邪気さと響きの良さは、うっかり暗唱したくなる。
 「わたしの身体はいい具合だけど、一か所足りないところがあるみたい」
「わたしの身体はいい具合だけど一か所余分なところがあるみたい。」
じゃあ余分なところを足りないところにさし塞いで国を生もうか。……っていうのが、たぶん日本最古のナンパということになろうが、こんなに屈託なく表現するボキャブラリーがあるなんて、人類ではちょっと発想が及ばない。Hey彼女、塞がない?

 ただ何しろ、神話というのは名前が長いしやたら多いのがね……というところだったのだ。名前そのものがストーリーでもあるので大切なのはよく分るが、ただでさえ漢字の羅列が苦手になってしまっている現代人。なにもしない人の名前も大量にでてくるし、同じ人なのに違う名前で出てきたり、同じ名前だけど同じ人なのかどうかよくわからなかったり。
 その辺をこまかく解説した良い訳がたくさん出ているおかげでわたしでも多少は読めるわけではあるが、ただ細かく説明が入るほどにせっかくのスピード感はどんどん薄れてしまう。

 それが絵で全部いっぱつ解決するのだとは、手にしたコミックを取り落とすほどの感動だ。ついている文章は、原文のみなのに普通の速度で読める。ダイナミックで、楽しくて、悔しくて、悲しくて、寂しくて、朗らかで。絵と文章、ひと目で伝わってくる。
  山の中で木の実が成るように、時がみちればあふれ出てくる神様たちは、たくさんいるから魅力的なのだ。目をやれば、あっちにも、こっちにも個性的な神があふれている。
 ストーリーの邪魔になるのにどうして居るんだという話では、もちろんなかった。たくさんいること、それ自体が豊かで素敵な世界だと、絵で見て、すんなり合点がいく。鈴なりの神様、楽しい、かわいい。

 うちの近所の神社も、社務所に行くと人懐っこい猫がいて挨拶に出てきてくれるのだ。神社の生き物だから、あれも神に違いない、とわたしは踏んでいる。素性と由来のわからない神様だけど、神様は、むやみにたくさんいるものだ。だからかわいい猫の神様に、ちょっと挨拶に行く。


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