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「二―ス風サラダ」からの脱出。

ニース風サラダの材料

ニース風サラダが生まれた地は、
地中海に面したイタリア北西部のリビエラ。
この地にあるニース風サラダ保存会「ラ・カペリーナ・ドル」は、
ニース風サラダの7種類の材料を、次のように定義している。
「トマト、固ゆで卵、アンチョビの塩漬け、ツナ、スプリング・オニオン(わけぎ)、小粒のニース産黒オリーブとバジル」
(先日の『日本経済新聞』朝刊)。

しかし日本のレストランのニース風サラダの多くは、
ポテトが入っているのだ。

先日入店した「AUX BACCHANALE」銀座のニース風サラダ(写真)にも、
恐らく上記の7つの材料のほかにポテトが入っていた。
実は人気料理家の有元葉子さんのニース風サラダのレシピにも、
しっかり「じゃがいも(メークイーン)」の輪切りが入っている。

現代ほど食文化が多様化した時代はない。
私は、パンを売りたいのかトッピングしている具材を売りたいのか
分からない調理パンは好きではないが、
もう、何でもありの食文化の流れを止めることはできないのだ。
かき氷も、ハンバーガーも、カレーも。
その意味で、この7つの材料の定義に縛ることには首を傾げる。

ニース風サラダは、ニース風サラダの定義から脱出すべきだ。

キャンティ・クラシコの葡萄

「キャンティ・クラシコ」とはイタリア・トスカーナで生産される
辛口の赤ワインだが、広く親しまれるワインとしての地位を確立した一方、
低価格で粗悪なキャンティが多く出回る時代が訪れたことがある。
そこで、これを危惧した一部の生産者が
キャンティ・クラシコの組合を結成し、
「キャンティ」の呼称を使えるワインの基準を作成した。

先日の「日本経済新聞」朝刊では、キャンティの産地、
イタリア・トスカーナ州のワイナリー
「レ・ボンチエ」のオーナー、ジョバンナ・モルガンティを
フィナンシャルタイムズにワイン記事を執筆する
ワインジャーナリストが紹介していた。
肥料を施さず、マメ科の植物などをまいて、
それらが自然に堆肥化することで
栄養分を与えるモルガンティの農法は、
インターネット上で多く発信されてもいる。
しかし、モルガンティのボトルは、
キャンティ・クラシコの組合からは“キャンティ”認定されていない。

地場品種だけを用いカベルネなどを使っていないというのがその理由だ。
これなど、むしろ地場品種の方が価値がある気がしてしまう。

キャンティ・クラシコは、キャンティ・クラシコの定義から脱出すべきだ。

表現の自由か、認定の自由か

しかしながら、基準や認定の類を全て否定したら、
フェイクの容認につながってしまう。


食品で言えば、 例えばおいしいお米の代名詞ともなっている
「魚沼産」を保証する「魚沼市推奨」認定は、偽りの「魚沼産」を
購入することを防いでくれる。
特許庁は、地域名と商品(サービス)名からなる商標「地域団体商標」を
定めていて、「大間まぐろ」や「信州サーモン」「神戸ビーフ」
「長崎カステラ」など数多くが登録されるが、
これらの食品こそ、適当にどこかの地域で作られて(獲られて)
勝手に名付けてしまえばフェイクだ。
しかし、この「地域団体商標」には
「魚沼産こしひかり」は登録されておらず、
もちろん万人が納得する基準は難しい。

加熱処理や精製処理をしていないバージンオリーブオイルのなかで
酸度(100gのオイル中の遊離脂肪酸の割合)が0.8%以下で、
風味と香りが認められた商品に許される
エキストラバージンオリーブオイルの基準があるが、
この基準などは美味しさと品質に直結するだけに価値がある。

結局、食品のおける基準や認定は
消費者の有効な判断基準になり得るか、という点に
落ち着くのだろうか。
前言をいともたやすく翻すが、
ニース風サラダだって、適当に作られたサラダに
「ニース風」と名付けられたら、
真にニース風サラダを食べたい客を裏切ることになる。
ポテトを加える程度なら許せるかもしれないが。

あくまで真の「ニース」風サラダを求めるか、
それとも「ニース」風の自分なりの基準で選ぶか、
認定や基準の類は、選ぶ側の消費者の意識で
存在価値が決まるということかもしれない。

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