8月31日

8月31日


ハンドルネームしか知らない彼女が唯一残したプレイリストを聴きながら夏の有効期限が切れる日を過ごした



彼女は東京メトロ千代田線明治神宮前から7駅目に住んでいて いつだって呼ばれるのは僕で誘うのは彼女だった まるでテルちゃんと仲原くんがいるザ・ストーカー同盟に僕は所属してるな、なんて勝手に共感して酔いながら彼女の家で過ごす夜は嫌いじゃなかった 彼女とよく行った公園でまだ帰るにはちょっと早いからなんて言って コンビニで500mlのハイボールを買って 近くの公園できのこ帝国の『クロノスタシス』やアジカンの『ソラニン』を流しながら 「夏は誰も知らない場所に行こうよ」とか「花火大会に行きたいね」とか「秋はなにして遊ぼっか」なんて言ってた彼女の言葉はすぐに蒸発してしまって 結局のところどこにも行けなかった行かなかった 夏のせいか酔いのせいかわからないけれどいつもクズみたいな時間を一緒に過ごしていた



ぜんぶぜんぶ夏のせいにすることが出来たら少しは楽だったかな 曖昧だった僕たちの関係にラインカーで引く白線みたいな線を引くことができれば許されたのかな 「幸せになりたいっすね」なんて吐き捨てた台詞を拾ってくれる言葉はもう見当たらなくて 手放した夢の続きを追いかけて夏が過ぎていく 夜の帳が下る前に「また会えるかな?」なんていう僕に 酔いの勢いで「〜日会おうよ」なんて言ってくれる彼女の声は聞けなかった コンプレックスだと言っていたハスキーな声で名前を呼ばれたかった 僕のコンプレックスを好きだと言ってくれる彼女が好きだった

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