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中央銀行によるGOLD(金)買い

2022年過去最高水準を記録

中央銀行による金買いが止まらない


 中央銀行による金買い意欲が近年強まっているが、2022年、中央銀行の金保有高は、過去最高水準の1,135.7トン増加した。年間の純増量が1,000トンを超えたのは、記録をさかのぼれる1950年以降、初めてのことである。
 世界の産金量は、ここ近年、概ね3,600トン程度で推移している。2022年の中央銀行による金保有高純増量は、年間産金量の3分の1程度に相当するものであり、金の需給全体にも少なからず影響しているものと見られる。金相場が大崩れせず、堅調に推移している理由の一つとして、中央銀行による継続的な買いを指摘する意見もある。

中央銀行による金保有の目的・理由

 一般的に、中央銀行が金を保有する目的には、複数の理由があるとされる。
① 通貨の安定性を維持するため
 中央銀行は、通貨の価値を安定させるために、通貨の供給量を調整する。通貨供給量が多くなりすぎると、通貨の価値が下がってしまう。そのような場合に、中央銀行は金を買い、自国通貨を売ることで通貨の価値を支えることができる。
② 外貨準備高の一部として
 中央銀行は、国際取引や危機時に備えて外貨準備を保有している。外貨準備とは、国際決済に使用される外貨や金、国債などの金融資産のことで、中央銀行はこれらを保有することで、為替相場の変動に対する備えとしている。
③ 政治的な要因による保有
 中央銀行が金を保有する理由には、政治的な要因もある。例えば、アメリカドルやユーロなどの主要通貨に対する不安定な状況がある場合、中央銀行は金を保有することで、通貨の安定性を確保することができる。
上記の3点が、中央銀行の金保有増の動機として想定されるが、昨年2022年末時点の、中央銀行による金保有高が増加した理由については、正確な理由は明確には分かっていない面もある。
 一つの仮説としては、欧米各国の金融引き締めに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策等の影響で、世界的な経済不安が高まったことにより、中央銀行が自国の通貨の価値を守るために、金保有高を増やした可能性がある。また、中央銀行が保有する外貨準備に金を追加した場合、外貨準備のポートフォリオの多様化を図ることができる。

なぜ金買いが自国通貨の価値向上になるのか

 上記①の自国通貨の価値を向上させる目的として、金を買うという点については、当然、疑問も生じるだろう。つまり、自国通貨を売って、金を買うわけだから、相対的には自国通貨の価値が下がる面があるということだ。しかしながら、自国通貨による金の購入には、以下のような効果も期待できる。
 中央銀行が大量の自国通貨を発行すると、その結果としてインフレが起こり、通貨の価値が下がることがある。そのような場合、中央銀行が金を購入することで、自国通貨の信認度が向上し、国際的な信用力が高まる効果が期待される。
 金は世界的な通貨としての役割を持っており、国際的な金融市場において安定した価値を持っている。そのため、中央銀行が金を購入することで、自国通貨よりも信頼性の高い金を保有することができ、自らが発行する自国通貨に対する信認度をも高めることができるとされている。
 以上のように、中央銀行が金を購入することで、自国通貨の価値には抑制的に働く一方で、通貨の信認度を高め、インフレを抑制するなど、様々な効果があることから、プラス効果とマイナス効果を差し引きすると、自国通貨の価値を支えることができるとされている。
 なお、中央銀行が自国通貨で金を購入する場合、通貨供給量自体は変わらない。そのため、通貨の価値を支える理由としては、以下のような点も考えられる。
 まず、中央銀行は自国通貨を支配している権限を持っている。そのため、中央銀行が金を購入することで、自国通貨に対する需要を高めることができる。需要が高まることで、自国通貨の価値が上昇すると期待される。
また、金は世界的な信頼性が高く、インフレリスクを抑えるための避難先としても機能している面がある。さらに、国際的な経済・政治情勢の不安定化によって、短期的に自国通貨の価値が下落する可能性がある場合、中央銀行が金を保有していることで、極端な通貨安を防ぐことができるとされている。
 以上のような理由から、中央銀行が金保有高を増やすことが、自国通貨の価値を支える一つの手段となると考えられる。

金保有高増が目立つ中国の思惑

 中国は、金融システムの国際化を進めるために、金を保有している面がある。中国は、外貨準備高の一部を金で賄うことで、アメリカドル依存からの脱却を目指しているとされる。また、金融規制の強化や国内の経済成長に対する不確実性から、リスクを分散する目的でも金の保有を進めている。
 中国の中央銀行は、2022年末時点で、既に2,000トンを超える金保有高となっているが、2023年1月には2,025トンまで増加している。なお、基軸通貨国アメリカのFRBは、中央銀行として、世界最大の金保有高となっており、2021年末時点で8,134トンを保有している。
 中国が人民元を国際通貨として普及させることは、経済的にも政治的にも大きな意味を持っている。中国は人民元を国際通貨として確立するために、さまざまな施策を実施している。
 中国が金保有高を増加させている背景には、国際通貨としての信頼性や安定性が求められるという要素がある。中央銀行が、より多くの金を保有することで、国際的な信頼性や安定性を高めることができるとされている。金は世界中で広く認められた安定した価値を持ち、通貨の信用度を表す指標の一つとして使われてきたという歴史的経緯もある。
 端的に言えば、中国が人民元を国際通貨として認めさせるためには、世界中の中央銀行や投資家に人民元の信頼性と安定性を高めることが必要であり、そのために金を保有することが有効な手段と考えられている。また、金を保有することで、中国は外貨準備の多角化や国際金融市場における影響力の向上にもつながるとされているため、アメリカとの対立を深める中国としては、アメリカドル依存からの脱却という観点からも、金保有高増を進めるものと考えられる。

欧米の投資家は金現物投資に積極的姿勢


 チャートに示すように、欧米の投資家は、金地金や金貨といった現物投資に関して、積極姿勢を維持している。2008年のリーマンショック以降、基本的には、高水準の投資を継続しているが、昨年も400トン超という高水準の投資を行っている。金利上昇、ドル高という金投資にとっては逆風の環境下でも、投資意欲は衰えを見せない。地政学的リスクも含めた、世界の政治経済の環境変化を踏まえて、金現物投資の魅力度が増しているのであろう。

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