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Netflixは「ブリリアント・ジャーク」問題にどう対応しているか?

高い能力を持ちながらも、周囲に悪影響を及ぼす社員を「ブリリアント・ジャーク(Brilliant Jerk)」と呼びます。

こうした社員にどう向き合うべきか、企業としては非常に難しい問題です。

今回はこの問題に対して、明確な指針を打ち出しているNetflixの事例を題材としながら考えていきたいと思います。



Netflixでは、ブリリアント・ジャークの居場所はない!?


調べる限りでは、「ブリリアント・ジャーク」という概念は何か理論的な背景に基づくものではないようです。また、特定の人物が提唱したものでもありません。

では、どういうきっかけで注目を浴びることになったのでしょうか。

この概念が注目を浴びたきっかけのひとつは、"「ブリリアント・ジャーク」の居場所はNetflixにはない"という方針を明確に打ち出したことが挙げられます。

Netflixは独自の企業文化で知られていますが、その文化を築くためにいくつかの指針を提示しています。中でも、チームにおける理想の姿として「ドリームチーム」を目指すことを掲げています。これは、専門性の高いメンバーが効果的に協力して働く理想的なチームの形を指しています。

Netflixは、「ドリームチーム」を形成するためには、有能であるが協調性がない「ブリリアント・ジャーク」は不要であるとの立場をとっています。具体的には、Netflixの公式ウェブサイトの「Netflixのカルチャー: さらなる高みを求めて」というセクションで、この考え方が次の通り、記述されています。

ドリームチームには、有能だが協調性がない、いわゆる「Brilliant Jerk」には居場所はありません。そういった人は素晴らしいチームワークを損なう要因となるからです。どれほど優秀な人材であっても、他人ときちんとしたコミュニケーションがとれなくてはいけません。能力の高い人同士がうまく協力して仕事をすれば、お互いの創造性や生産性が高まり、個人で働くより大きな成功をチームとして収めることができるのです。

https://jobs.netflix.com/culture

組織における仕事の多くは、個人の力だけでは難しいものです。そのため、成果を最大化するには、周囲との協力が欠かせません。これは、米経営学者、チェスター・バーナード氏が提唱した組織の3要素のひとつ、「協働の意欲」にも関連する重要なポイントです。

そのため、ブリリアント・ジャークのような態度や行動は、組織においては好ましくありません。優れた能力を持っていても、他のメンバーを見下すような態度や、チームの雰囲気を悪化させる行動は、全体の士気やパフォーマンスの低下につながります。

もちろん、その社員が極めて卓越した才能を持っている場合は別かもしれませんが、多くの場合、周囲とのチームワークができないと、職場での居場所を失ってしまうでしょう。


「腐ったリンゴ」実験が示す、問題解決の糸口とは?


では、我々がこの「ブリリアント・ジャーク」問題に直面したとき、どう対応すればいいのでしょうか?

たびたび耳にするのは、「Netflixのように、ブリリアント・ジャークにはすぐに会社を辞めてもらうべきだ」という意見です。

解雇自由原則が前提となる米国ならまだしも、解雇規制が一定厳しい日本では、こうした意思決定は難しいでしょう。そのため、企業としては入り口になる採用プロセスでしっかり見極めを行いながらも、仮にこうした人材と働くことになったら、別の手立てを検討する必要があります。

このとき、参考になるのが「腐ったリング」実験の結果です*1。

これは、オーストラリアの組織行動学者、ウィル・フェルプス(Will Phelps)氏が行った実験です。これによれば、この実験では、組織に悪影響を及ぼす人物(※)が入ると、そのチームのパフォーマンスが30~40%も低下したという結果が出ました。

※ 悪影響を及ぼす人物には、意図的に他者に、攻撃的や反抗的な態度を取る、一生懸命やらない、ネガティブや愚痴ばかり言うなどを演じてもらっている。

ただし、興味深いのは、悪影響を与える人物がいても、パフォーマンスが低下しにくいチームが存在したことです。そのチームでは、悪影響を及ぼす人物に対して、すぐにその悪影響を中和する行動を取った人物がいたのです。具体的には、その人物は悪影響を及ぼす行動に注意を向けるのではなく、代わりに他のメンバーに笑顔を振りまき、なごやかな雰囲気を作り出すことができました。

ここから示唆されるのは、悪影響を及ぼす人材がいても、緩衝材となるポジティブなメンバーを配置することが効果的であるということです。

これは「ブリリアント・ジャーク」問題にも活用できるのではないかと考えています。というのも、この問題への対応方法として、「辞めさせる」「配置転換をする」「変わってもらうように真正面から向き合う」「そもそも雇わない」などがあります。

たしかに現実的にはこうした対処になってくる側面もあるでしょう。ただ、いずれも根気を必要とするものであり、現場では解決策が見当たらずに悩んでいるのでしょう。

この「腐ったリング」実験から得られる視点は、新たな解決の方向性へと導いてくれるでしょう。つまり、悪影響を及ぼす人物に対応する際には、同時にポジティブで明るいメンバーを積極的に配置することです。もちろん新たな課題として「そんな人材を果たして見つけられるか?」という問題も浮上しますが、問題解決に向けた価値ある知見であるのは間違いありません。

(参考文献)
*1 Felps, W., Mitchell, T. R., & Byington, E. 2006. How, when, and why bad apples spoil the barrel: Negative group members and dysfunctional groups. Research in Organizational Behavior, Volume 27: 181–230.

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