見出し画像

精神科/心療内科の先生に産業医からお願い 復職診断書編

もともと精神科専門医で今は産業医をしているphoです。
今回、ある精神科医のコミュニティで復職診断書に関する話題が上がったということで、知り合いの先生から下記の質問に回答できないか連絡を頂きました。

産業医の先生に質問です
①復職時の診断書に書いてほしい内容
②書いてほしくない内容
③精神科医にしてほしいこと・してほしくないこと
(注:pho側で勝手に編集しています)

なかなか大事なテーマだと思いますし、でも結構書くの大変そうだしどうしようかな~と思いつつ、最近の自分は利他の精神にあふれているため、回りまわって会社や従業員の利益に繋がるのではないかと考え、僭越ながら回答させて頂きました。でもせっかくなのでnoteにします。
お願いという内容の特性上当然無料ですが、もし参考になったという事であれば画面下部からサポートして頂ければ嬉しいです。


まえおき

まず前提として、私傷病による休職・復職については労働基準法等で定められているものではなく、各会社の就業規則などに基づいて決められているものなので期間や賃金の扱い、復帰にあたっての条件などは多種多様です。そして日本では労働関連の法令では労働者側がかなり強いため、企業側にとってこうすれば絶対大丈夫という方法もなく、判例などに基づいて判断するしかないという状況があります。

復職の判断にあたっては、「就業可能(復帰可能)である」という内容が記載された診断書を提出することを最低条件として定めている会社が多いはずです。流れとしては、主治医の就業可能の診断書提出→(産業医面談等を経て、産業医の意見を会社が聴取)→会社が復帰の可否を判断、というのが正しく、主治医の診断書ですべてを決めるのではなく、検討を経て最終的には会社が決める、というのが原則になります。
(産業医面談等を経て、産業医の意見を会社が聴取)の部分にカッコをしているのは、産業医がいない、あるいは機能していない会社も多いためです。このあたりについては最後に触れます。

①復職時の診断書に書いてほしい内容

法的に厳密な表現ではないかもしれませんが、基本的には主治医を含め医師が「働くこと自体が危ない体調だから休ませるべき」と判断した内容については、会社は安全配慮義務に基づいてかなり優先して対応する必要があると考えられます。
つまり、主治医判断はストップ=休職の入りに関してはかなりの優先度になります。

その一方で、復職に関しての判断はいわば「かけたストップの解除」であり、必要ではあるがそのまま復職できるというわけではない、という感覚を持っていただくのが大事になります。

例えば電車の緊急停止ボタンを押した場合、即座に電車は止まりますが、押した人が「もう動かしてよいですよ」と言っただけではすぐに動かせず、駅員による安全確認や手続きを踏んでからようやく鉄道会社が最終的に電車を動かしてよいという判断をすると思います。会社での復職に関しても、それと似たようなイメージを持っていただければと思います。

主治医は多くの場合、患者さんの仕事の内容について具体的には知りません。会社名や時に部署名くらいはわかっていても、具体的にどんな業務をどのようにしているのかを把握するのは難しいため、具体的な元の業務につけるかどうかを細かく判断することはできないし求められません。そこは産業医や会社側のやるべきことです。

主治医で把握できるのは病状、日常生活の状況、ご本人の思い、あたりになると思うので、主治医側での復職可の判断にあたっては

・日常生活が成り立っているか
普通は仕事は日常生活の次のステップになるので、日常生活すら成り立たない状態で勤務は無理

・勤務時間帯に勤務できそうな生活リズムになっているか

・本人に復職の意志があるか

あたりを満たせばとりあえずは「復職可」と記載いただいて概ね問題ないと思います。それにあたって、まったくどんな仕事をしているのかわからない状態での判断は厳しいと思うので、簡単にどんな仕事をしているか、勤務時間はどんな感じなのか(夜勤だったりシフトだったりすることもあります)などは聞いておく必要は出てきますが、超具体的な勤務内容までは把握不要です。

また、生活リズムに関して本人に記録を付けてもらったりしてその上でご判断頂いているクリニックもあるかと思いますが、会社的にも非常に助かりますので是非そのままお願いします。

そして記載いただきたい内容ですが、

1、復職可能と判断する旨
2、いつから復職可と考えているのかという日付

の二点は確実に記載いただければと思います。おそらく、主治医はまだ無理なんじゃないかなと考えていたが患者さんの希望に基づいて診断書を書かざるを得なかった場合に多いと思うのですが、たまに「復職可能」ということが明記されておらず曖昧でなんともいえない書き方になっていることがあります。多くの就業規則上、復職可である旨やその日付の記載がないと次のプロセスに進めないため、この二点については記載をお願いできればと思います。

日付に関して具体的にいつから復職なんだろうと悩まれる先生が多いのですが、産業医側では「この日付以降なら復職可」と解釈するので、受診された日とか、明日からとか、ご本人の指定した日からとかで問題ありません。もし可能であれば「〇月〇日以降復職可と考える」というように、以降と書いていただけるとご本人との齟齬も少なくなり助かります。社内での判断や調整、本人への課題等をやっていただく時間が必要な以上、実際の復職は日付通りではなくわりと日数を要する場合が多いためです。

ただし、あまりにも先の日付で記載頂くと会社側でも判断が難しくなってしまいます。例えば3か月後の〇月〇日から復職可能である。と記載があると、そのころにどうなっているかは正直誰にもわからないため、会社としてもそこをターゲットに復職の準備を進めてよいのか二の足を踏んでしまいます。基本は復職可能は現在の状態に対しての判断だと思いますので、決まりがあるわけではありませんが、常識的な範囲として発行日からできるだけ近くの日付、最大でも1ヵ月以内くらいの日付にして頂けますようお願いします。

基本的には上記のみのシンプルな内容(3行くらい)で充分ではありますが、もし病状から考えてやったほうがいいんじゃないかという配慮があればそれも書いていただければと思います。
これは患者さん本人に「どうしても書いて欲しい」と要望されて、なかなか書けませんとは断りづらい場合も含みます。

これは次の ②書いて欲しくない内容 と表裏の関係になっていますが、
たとえば昼夜シフト勤務はしばらく避けたほうがよさそうなら「勤務時間帯は固定することが望ましい」、残業はしばらくさせないほうが良いということなら「時間外労働の制限が望ましい」、人間関係でのストレスが強そうだったので異動させたほうがいいんじゃないかということなら「異動など職場環境の調整が望ましい」というような、「可能なら望ましい」という書き方に留めて頂けると助かります。

そして③で触れますが、こういう記載をいただいた場合は「会社は必ず診断書の通りにしなければいけないわけではない」という旨も簡単に説明いただけると非常に助かります。

なお、復職可能であると診断書を記載したのに実際は復職可能な状態じゃなかったじゃないか、ということで会社が病院や医師を訴えたりした例は少なくとも自分は聞いたことはありません。もしそもそも入院している期間だったのに復職可能だったと書いたなど、明らかな虚偽だったのがバレたらマズいかもしれませんが、復職可能と書いて訴えられたらどうしようという心配は基本的には無用かと思います。

②書いてほしくない内容

最初に書いたように、主治医の診断書は「勤務をストップする」という方向には絶対的に強く働きます。そのため、「復職するには会社側でこうしなければならない」と解釈されるような記載があると、その条件を満たせない場合はストップが解除できないということになり、復帰したい本人にとって不利益になってしまう可能性があります。

つまり、「復職可能だが、テレワークを要する」「異動を要する」というような書き方の場合、会社ではテレワークにできるか検討する、異動できるか検討はすることになりますが、結論として「それはできない」となった場合は復職できないということになります。

例えばですが、クリニックの受付をやっている人や看護師さんがしばらく休んでいて、「テレワークなら復職可」「復職可だが異動を要する」という他院からの診断書を持ってきたら院長としてはどう対応するでしょうか?

業種上テレワークが困難だったりそういう体制がない職場では現実的に無理だし、異動っていってもそもそも5人くらいしかいない職場では異動のしようがありません。「いや、テレワークじゃなくても仕事できるようになってから復帰してよ」「異動はうちではできないから、今までと同じ環境で働けるようになってから復帰してよ」という話をせざるを得ないと思います。

これは大きい企業でも実は同じで、疾病等を持つ人への配慮に関しても法令や判例などで「会社の運営に影響が出たり、過度の負担をかけてでも無理に配慮してあげなくてはいけないというわけではない」と判断されているので、異動候補先に不足人員がないので異動できないとか、出社を原則としておりテレワークの体制がないから認められない、という結論になったとしても特にそれ自体に法的な問題はありません。

その結果、

「復職可能だがテレワークを要する」
→つまり「テレワークでなければ復職不可」
→検討したが、会社として対応はできないという結論になった
→テレワークでないので、主治医ストップが引き続き掛かった状態
安全配慮義務を考えると、復帰させられない

という流れで、本人が「復職したいけれども、できればテレワークにしてほしいな」くらいのテンションだった場合は望まない結果になりかねません。
前項で書いたような「望ましい」くらいの書き方であれば、会社ではここまでの対応になるけれども、どうしますか?という相談を本人とできるため、より柔軟に検討しやすくなり、本人の利益にもつながると思います。

また、たとえば本来週5の勤務である方に「週3での勤務が望ましい」と書くなど、雇用契約の内容を大幅に下回る内容の配慮を書いてしまうと「そもそも回復していないのでは」と会社に判断されるリスクが出てきます。
雇用契約は固い書き方をすると、従業員が労務を提供し、使用者側がその対価を支払うというものであって、判例上も、不完全な労務しか提供できない場合に使用者側はそれを無理に受け取る必要はないとされています。
もし何か品物を注文した時に、壊れているけれど全額頂きますと言われたらもちろん困るし、半分しか動作しないから半額でいいですと言われてもそれはそれで困ると思うのですが、基本的な考えはそれと同様です。

時短勤務は会社での決まりにより対応できることもありますが、極端な時短(1日2~3時間とか)や、勤務日数を減らす配慮となると不完全労務提供とみなされる可能性が高くなります。
業務成果というものは定量化が難しい一方で、日数や時間というのは数字としてそのまま評価できるという背景もあります。そして、そもそもそのような配慮の検討が必要という状態での復帰は難しいと判断される可能性が高いため、「望ましい」なら何でも書いてよいというわけではないということでご理解頂ければと思います。

③精神科医にしてほしいこと・してほしくないこと

・診療情報提供依頼や面談への応答

まず、休職中や復帰前後などに、診断書とは別に産業医や会社から診療や意見に関する問い合わせが来ることがあります。文書での問い合わせが多いと思いますが、時に会社の人事担当者や産業保健職が直接の面談を希望されることもあると思います。もちろん本人の同意を得て行うわけですが、先生方が非常にお忙しいのは承知の上でお願いしておりますので、どうぞご協力頂けましたら幸いです。

これらをお願いしているのには2つ理由があり、まず診断書や本人の話からだけではわからない詳細な事項などについて伺って、より本人の就労に役立てたいというのが最大の目的です。
もう1つは、診断書や本人の意志の方向性とは異なる結論を会社が出す時、特に復職を認めず休職の最大期間となり自然退職となってしまう場合などについて、判例では「主治医に面会するなり文書で問合せするなど、情報を集めるために出来る限りのことをしてから決めたのか」が問われているため(「J学園事件」など)、実質的にこれらをせずに結論を出すことに大きな法的リスクがあるから、という守りの理由が挙げられます。

面談の場合は本人との診察に同席を許可頂く形もありますし、会社担当者と主治医だけでの面談をお願いする場合もあります。後者の場合は自由な値付けで請求して頂いて差し支えありませんので、どうぞご協力をお願いします。
文書の場合は本人が費用を負担する場合と最終的に会社が負担する場合がありましてこの辺りはややこしいのですが(よく産業医の間でも議論になります)、特に会社が負担する場合などは自由にご請求下さい。

前書き部分で触れたように、産業医がいない事業場・いるけど機能していない事業場というのはたくさんあります(日本では産業医選任義務の生じる50人には満たない事業場が95%を占めている)。特にこういった場合は、会社は主治医の先生からの意見だけが頼りになることが多々あります。そのため、会社からの依頼にはできるだけ応えてあげて頂ければ幸いです。

また、会社によっては復職関連の診断書や意見書のテンプレートが決まっており、そちらに沿ってご記入をお願いすることがあります(特に大企業)。自分は主治医の先生方の負担を考えてあまりそういったテンプレートは使用しないようにしているのですが、複雑な経過や労務問題対応の歴史を経てやむを得ずそのようになっているケースが多いので、申し訳ありませんが協力をお願い致します。

・診断書発行時の、患者本人への説明

病院間の診療情報提供書(紹介状)は患者さん本人が見ることを想定していないので、「封を開けないでください」という対応で問題ないのですが、診断書はあくまでまず本人に対して発行し、本人が任意で会社や役所などに提出する、という流れをとるため、本人が内容を知らないというのは良くありません。

たまにこれらを区別していない先生に「封を開けないように」と厳命されてそのまま会社に診断書を提出し、本人も想定していない内容だったのでビックリしてしまうという例があります。
診断書の内容は見せて確認するか、電子カルテだったら一緒に文面見ながら書くくらいにしたほうが齟齬が生じにくいと思います。

そして②で少し触れたように、「会社は必ず診断書の通りにしなければいけないわけではない」という旨を簡単に説明いただけると非常に助かります。自分が臨床をしていた際は、「自分はあなたができるだけ働きやすくなってほしいのでこのように書くけれども、会社となにか関係があるわけではなくあくまで外部の者が言っているだけなので、会社が従わなきゃいけないものではないです。よく会社と相談してください」などと話していました。

年配の先生とかに特に多いのですが、自分が決めたことに従わない会社なんてありえない、というような雰囲気の先生は実際いますし、患者さんにもそんな感じの説明をしてしまい、結局揉めるのは患者さん本人と会社というケースも多いため気を付けて頂けますと幸いです。

・傷病手当金主治医意見書の期間について

診断書に「〇月〇日より復職可能である」と書いて頂いたあと、社内調整や産業医面談、通勤練習などをすると2週間~1ヵ月くらいすぐ経ってしまい、当初記載した〇日に復帰が間に合わないことは多々あります。特に会社で異動させようと決めた時などはさらに時間がかかることもあります。
その期間は復職していないので収入がなく、あとで実際復帰した日付の前日までの分を書いて欲しいということで傷病手当金主治医意見書の依頼が来ることがあります。

その際、「自分は〇日に復帰可能と診断したのでそれ以降の分は書かない」と断ってしまう先生がたまにいるのですが(やっぱり年配の先生に多い)、これも健保側が労務不能と認めた期間であれば受給する権利はあり、復職の準備をしていた期間も労務不能と認められますのでどうぞ依頼通り書いて頂けますと大変助かります。

・本人と会社の連絡を遮断しないで欲しい

休職直後などの一定期間、会社からの連絡が病状を悪化させうるので連絡をとらないように、という指示はもちろん大事ですし、指示して頂いて差し支えないのですが、その後もずっとそのまま「連絡をとらないように」となってしまう場合があり、そうすると上記の復職に向けての調整や配慮の検討などが全くできず、最終的には本人の不利益になってしまいます。また、会社の誰とであっても連絡をとることが辛いような状態では現実的にその会社への復職も難しいです。

会社側としても、たとえば特定の上司が辛くその人とは一切連絡を取りたくない、というような場合は人事担当者を窓口にするなどの対応が取れますので、病状が改善してきているのにも関わらず連絡をずっと遮断することはないようにお願いします。

会社や産業医としては「ずっと音信不通だった社員が、ある日突然復職可の診断書を持ってきた」という状況が最悪で、トラブル率が非常に高くなります。そのため、むしろ「復職するなら会社と色々相談しないといけないと思うから、自分で担当者に連絡をとってみて」と勧めて頂くくらいだととても助かります。
経験上、休職半ばから連絡を適切に行い、会社とのコミュニケーションがしっかりとれている方の復職はスムースなことが多いです。

おわりに

かなり長くなってしまいましたが診断書関連に関してはまだまだ議論があります。ただ、自分も基本的に診断書の書き方というものは医師の自由だと思っていますし、診断書をきちんと解釈して必要なら連携を行い、本人と会社双方にとって利益のある結論に導くのが産業医の本来の仕事だと考えているので、できるだけ形式を指定するようなことはしたくありません。
あくまでここに書いたこともちょっと頭の片隅に置いておいていただければ、くらいのテンションでおりますので是非そのあたりご協力頂けますと幸いです。

また、特に開業医の先生にとって役立つかもしれない情報ですが、我々産業医は上記のようにご対応頂けるメンタルクリニックの情報を非常に重視しておりまして、受診が必要な従業員におすすめしたり、産業医同士でクリニックの情報を交換したりしています。

たとえば近所に大きい事業場があり、そこの「おすすめクリニック」になった場合は非常に集患効果は高いと思います。よって、クリニック経営上もとてもメリットがあるかと思いますので、是非ご考慮頂けますと助かります。

今後ともよろしくお願いいたします。
もしも参考になったからお金を払いたい的なことがあれば、画面下部より「気に入ったらサポート」をして頂けますと嬉しいです。

いつもありがとうございます。