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エピローグ第17話:チェーホフ『狩場の悲劇』で語られない秘密(中篇)&ディクソンの人形観察の秘密 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖


マジかよ…

例によって、またあんたの妄想じゃないのか?

こんなこと言ってるの、きっと世界でもあんただけだよ。

いや、そうじゃない。

この秘密を全て知っていたであろう人物が、少なくとも小説内に二人存在する。

だ、誰!?

伯爵の乳母「ミミズク婆さん」と、急死した「前任の予審判事」だ。

ええ~~~!?

何のことだかわからない人は、前回を未読の人ね。

まずコチラから読むといいわ。

・・・・・

「ミミズク婆さん」は、現伯爵の乳母を務めた後も、ずっと「母親代わり」として屋敷に住んでいた。

貴族は家事や育児をしないから、彼女が子供時代の現伯爵の世話をしていたんだね。

きっと先代伯爵夫人の信頼も篤かったに違いない。

今いる屋敷のスタッフの中で、彼女が最も古参で、最も先代伯爵夫妻に近かった人物なんだ。

だから先代伯爵夫妻が亡くなった後も、彼女はそのまま屋敷に残った。

いや…

おそらく先代夫人の遺言で、彼女は死ぬまでずっと屋敷に留まることになったんだ…

先代伯爵夫人の信頼が篤かったさかい「隠し子」の秘密も知っとったっちゅうことか?

せやから、外に出られたらマズい…

だね。

そして、もしかしたら…

先代伯爵夫人から「とある仕事」を言い渡されていた可能性がある。

しごと?

「隠し子」の秘密に気付いた者を「消す」ことだよ…

それで、前任者の予審判事は「急死」した…

ミ、ミミズク婆さんの仕業だったの!?

だから前任者の予審判事の母親は、逃げるように全てを残していったのね…

息子の形見となるような家財道具だけでなく、一族の肖像写真から、とても高価なオウムまで…

母親は「息子が何かヤバいことに巻き込まれたんじゃないか」って直感で感じ取ったんだわ…

だろうね。

下手したら伯爵家の御家騒動に発展する重大な秘密だ。

うかつに平民が首を突っ込んだら、命なんて軽く吹っ飛ぶ。

それに…

よくよく考えたら、元乳母の彼女だけ「ミミズク婆さん」という渾名で呼ばれていたのもアヤシイわよね…

ミミズク(owl)は「物知り博士」と「闇の番人」というイメージを併せ持つ存在…

彼女が「秘密の保持を託された存在」だとしたら、これほど相応しいニックネームはない…

言われてみれば…確かに…

しかも「ミミズク婆さん」のセリフは、小説から全て削除されているんだ。

彼女の最初の登場シーンでチェーホフは、あたかも「90歳のミミズク婆さんは耳が遠くて口が利けない」ような描写で読者を誘導するんだけど、実はそうではなかった。

『狩場の悲劇』の「あとがき」では、屋敷の召使いたちと毎晩のように夜通しギャンブルに興じる彼女が饒舌であり、言葉遣いが余りにも下品だから、全てカットしたと書かれているんだよね。

しかも場面が丸ごと全削除された賭博シーンは、オリガ殺害事件の審理が行われていた期間の出来事…

真犯人である予審判事セルゲイ・ペトローウィチが、「ミミズク婆さん」のトランプ賭博に参加しての出来事なんだ…

タイミング的に、なんか意味がありそう…

僕の推理では…

この時に「ミミズク婆さん」は「オリガの出生の秘密」を臭わせることを、ポロっと口にしてしまったに違いない…

もう死んでしまったから、安心したというか油断したというか…

卓を囲んでいた予審判事や他の召使いたちが気付いたかどうかはわからないけどね…

せやけど「物語の核心部分に触れるヤバいヒント」やったさかい、チェーホフはシーンごとカットしたっちゅうわけか…

だろうね、きっと。

でなきゃわざわざ「あのシーンは全文カットした」なんて書く必要がない。書かなきゃ誰もわからないんだから。

あれは「秘密の鍵を握る人物が何か重要なことを口にしてしまったシーンは全部削除した」ということを伝えるためなんだよ。

肝心なことは書かれておらず、小説をよく読み込まないと気付けない仕組みになってるんだね…

なんか『スリー・ビルボード』みたいだな。

ゴホッ…ゴホッ…

どないした?

ダ、ダイジョブ デス…ナンデモ アリマセン…

オリガ自身が「自分は貴族の血を引いている」と気付いていたことを裏付けるシーンも解説しておこう…

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