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もし中島みゆきの「糸」が古典和歌だったら

J-POPのオムニバスCDやオルゴール・セレクションでよく見かけるこの曲。

歌の入りからぐっと引き込まれ、しみじみと心に沁みわたっていく不思議な曲ですよね。

なぜめぐり逢うのかを私たちは何も知らない
いつめぐり逢うのかを 私たちはいつも知らない
どこにいたの 生きてきたの
遠い空の下 ふたつの物語

中島みゆき「糸」より

自然と大切な人のことが頭に浮かんでくるフレーズです…!


一般的に、幼い頃からの付き合いほど特別なものだと言われがちですが、私は大人になってからの出会いにこそ魅力を感じます。

全く別の場所で青春時代や社会人生活を送ってきた2人が、小さなきっかけで出逢う。

それぞれが別の過去を持っているからこそ、心が通い合う。

そこに偶然の重なりを感じ、より尊く思えてくるのです。

そんな“めぐり逢いの不思議”について考えさせられる「糸」という曲を、今回は和歌にしてみました!


比喩表現を丁寧に説明するサビ

この曲は全体的に言い回しがやさしく、理解しやすいのが特徴ではないでしょうか。

サビでは布を織りなす糸が、2人の人生の比喩になっていることを丁寧に説明しています。

縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布はいつか誰かを
暖めうるかもしれない

中島みゆき「糸」より

今回はこの部分を三十一文字に収めるべく、「擬人法」を取り入れてみることにしました。


擬人法を使った古典和歌

まるでモノが生きているかのように描写する「擬人法」。
昔から多くの歌人が使ってきた技法です。

中でも私の好きな和歌がこちら。

白雲の 峰にしもなど 通ふらむ おなじ三笠の 山のふもとを(藤原義孝)

「新古今和歌集」より

雲はなんでよりによって山頂のあたりを漂うんだろう?山にはふもとだってあるのに。

一見、素朴な疑問を投げかけているだけのように見えますが、この和歌にはもっとドロドロしたテーマが隠されています…!

なぜあなたはよりによって上司のもとに通うの?同じ部署には僕もいるのに…。

男女の三角関係ですね。

雲の動きを「通ふ」と、まるで生きているかのように描写することで、人が恋人のもとへ通う行為をほんのり匂わせているのです。

まるで現代の「縦読み」や「匂わせツイート」のようで、時代が変わっても人のやることはあまり変わらないなぁ~…とちょっと微笑ましくもあります。笑


“人と人とのめぐり逢い”を匂わせる

今回は糸を擬人法で表現することで、“人と人とのめぐり逢い”というテーマを匂わせてみることにしました。

「先見し」「ゆき逢ひ」「人癒したる」の主語は、すべて糸。

まるで糸が生きているかのように描写することで、「糸」と「人の生き方」には通じるものがあると、ほんのり匂ってくるでしょうか…?

そして結句には、気付きの詠嘆「けり」を使用。

「別の志を持っていた2人が出逢うことで、誰かを守る力にもなりうるのかなぁ…」

そんな風に、人のめぐり逢いに思いを馳せる余韻を残してみたつもりです。


原曲のように、じわじわと味わい深さが広がる和歌になっているでしょうか…?



おのがじし 先見し糸の ゆき逢ひて
人癒したる 布になりけり


※解説は冒頭のインスタ参照


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