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食べるために生きる

この1,2年で、得意料理ができた。
トマトパスタ、ペペロンチーノ、ナポリタン。
全部パスタじゃんと言われてしまうかもしれないけど、ちゃんとソースから作っている。
あとはカレー、オムライス、生姜焼き、チャーハンなど、シンプルな一品ものだけど、サクッと作れるようになった。
3年以上ひとり暮らししていたときには料理が全くできるようにならなかった僕にとって、これは相当な進歩だ。

元々、僕は食にあまり興味がなかった。
ひとり暮らしの家に遊びにきた友だちに、ビールと麦茶しか入っていない冷蔵庫を見られて「お前ってほんとうに食事をエネルギー補給としかみなしていないよな」と呆れられたことがある。

これが食べたい!というこだわりも、昔からあまりない。
強いてあげるなら、ラーメン二郎と家系ラーメンくらい。
他はファストフードやファミレスで十分満足できるし、好きな食べ物を聞かれてもおつまみみたいなものばかりが頭に浮かぶ。


料理をするようになったきっかけは、リモートワークだ。
コロナのコの字もない頃、奥さんと同棲をはじめたけれど、さほど料理をする機会は多くなくてほとんど任せていた。
だけど2人で在宅勤務をする状況になってから、料理せざるを得なくなったのだ。朝も昼も夜も家で食べるのに、全て任せるのはあまりにも決まりが悪い。ウーバーばかりというのも身体に悪いからやめようという話になっていた。

僕は主に、お昼ご飯を担当するようになった。
はじめたてのころ、今では得意料理になったパスタたちも、あまり上手にできなかった。
にんにくを焦がしてしまったり、塩を入れ過ぎてしまったり、パスタを茹でずに焼いてしまったり(料理下手過ぎ)。
なんとか食べられなくはないけれど、結構酷い料理を量産していた。

さすがにこのままでは、、と思った僕は、勉強をはじめた。
YouTubeやクックパッドで、いろんなレシピを漁った。
そしてできるだけ忠実に、落ち着いて作り方を再現すると、いくらかマシになってきた。
思ってみればそれまではテンパって意味不明に調味料を大量投入するなどの愚行を頻発していたので、まずくなって当然だったのだ。

いろんなレシピを試してみると不思議なもので、あのやり方とこのやり方を組み合わせてみれば、、とか、あの食材を使った時は逆にこうしてみて、、とか、思い付くようになる。
にんにくの焦がし方、茹で汁を具材に絡める分量、塩気を出したい時はウィンナーよりベーコン、ケチャップは沸騰させて酸味を取る。

そうやって試行錯誤していく末に、自画自賛したくなる料理ができた。
ペペロンチーノがはじめて大成功した時、ひと口目を食べた瞬間、奥さんと思わず目を見合わせた。


料理は、一つ一つ根拠を持って順序よく進めると、大抵の場合うまくいく。
ただ、不測の事態も起こりうる。
誤った調味料を入れてしまったとか、具材を買い忘れていたとか。
そんなときに、機転を効かせるのも大事だ。
こっちの分量を調整しようとか、あの具材を代わりに使えばいいやとか。
仮説や根拠をもって、時には冒険してみると、うまくいったりいかなかったりする。
うまくいかなければ、次からはやらないようにしようと学ぶことができる。

料理を続けていくうち、そんなことを徐々に考え始めてから、これって仕事でも同じことが言えるかもと思うようになった。
料理も仕事も、試行錯誤の連続だ。

結果を残そう、と肩に力が入りがちな僕は、料理をするようになってから少し力が抜けたと思う。
できたものがまずかったらその事実は何をしても変えることができないし、次に活かせば良い。
次に美味しいものができたときは、うまくいかなかった過程があった分、とても嬉しいだろう。

まずい料理を出そうと思って出す人はいないし、あまり美味しくないものも、裏には何かしらの試行錯誤の跡があるかもしれない。
そう思えば、認められるものが増える気がする。

これからの人生、料理は長く続けていかないといけないし、おそらく仕事も長く続けるだろう。。
僕たちは、死ぬ直前まで何かを食べ続けるし、仕事とも向き合い続ける。
料理をすることによって、大切なものを学んでいるのかもしれない。


会社に毎日行っていた頃は、パソコンを叩きながらおにぎりを頬張っていたけれど、いまはそんなことをする機会はほとんど減った。
会議が続いてあまりにも忙しいときなんかは適当に済ませてしまうことはあるけれど、大抵は作る時間と食べる時間をちゃんと作るようにしている。

難しい仕事や憂鬱な仕事をやらないといけない状況でも、昼になったらキッチンに立つ。
料理をはじめていくうちに、思考が整理されていくことがある。
包丁をトントンしながら、冷静に考え直してみよう、まずはできることからはじめよう、なんてぼんやりと考える。
料理が、僕の気持ちを落ち着かせてくれるのだ。

そして作ったら、しっかりと食べる。
食べる頃には仕事脳に戻ってしまって、考え事をしながらガッついてしまいがちなんだけど、出来るだけそれをセーブするように努力する。
食べないと力が出ないし、食べる時は美味しく味わった方が良い。
それは奥さんから口酸っぱく言われていることだ。確かに言われた通りにすると、より心が落ち着いていく気がする。

生きるために食べる、ではなくて、食べるために生きる。
いつのまにか僕の価値観は変わって、言葉が逆さまになっていた。

食べるために生きる、をするためにも、僕はこれからも料理を作り続けていくだろう。

君の料理(レシピNo.2027) / The Mirraz

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒時代の地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗、制作会社での激務などを経験。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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