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家でゴロゴロする父の体力が「片足立ち4秒」と知って

退職後の父が『何もしない隠居生活』を選択して2年が経ちました。家では常にテレビの番をしています。しかも寝ながら。座ってすらもいないのです。信じられないのですが、家にいる間ずっと横になっています。

母が「お父さん、せめて座っとって」と言うと、「寒いもん」「腰が痛い」。何かと理由を付けて更に横になるのです。

このままでは介護まっしぐら。そんな父を何とかしたいと奮闘した顛末です。



1.ケアマネさんを頼る


以前から父のことを歴代ケアマネさんに相談していました。介護予防が気になるなら、まずは地域包括支援センターへと聞いていたからです。すると必ず『地域の活動に参加させた方が良い』と言われます。

現在の父の状況は、筋力低下、難聴、視力低下、意欲低下。三大成人病を抱えています。

ある日、市の運動講座のチラシを見つけました。

運動指導の専門家からシニア世代に適した運動について体を動かしながら効果的なポイントを学ぶ。
長寿介護課の地域予防啓発グループ。

父に話して参加することになりました。



2.父、運動講座に参加するが、すぐ辞める


① 初日 
役所製のきちんとしたファイルと資料を抱えて帰ってきました。どうやら楽しそうな様子でした。そして家でも体操すると椅子を買ってきました。

それからは毎日運動したことを記入。マメな人です。正直ここまで前向きに頑張るとは思いませんでした。これで一安心と思っていました。


② 1週間後の2回め 
休みました。そして辞めたいと言い出しました。

運動すると足が痛いそうなのです。数日後、病院に行きましたが何ともありません。膝の軟骨は40代くらいで、薬をもらって帰ってきました。運動してもいいとのことです。

配布資料を見ても難しい運動はありません。父に実際やってもらいました。しかし、何をやってもグラグラするのです。父の体型から分かっていましたが見ないフリをしてきました。

かなり筋力が落ちている。

とりあえず、足が痛くなる運動はやらなくていいし、もう少し頑張って続けてほしいと頼みました。


③ 2週間後の3回め 
行ったとは思いますが父は何も言いません。先週サボったことが私の中でかなりショックだったので、こちらからは何も聞きませんでした。


④ 3週間後の4回め前日 
明日のことを聞くと「もう辞めた」と言いました。


あんなにやる気だったのに、なんでこんなことになってしまったのでしょうか。全く分かりませんでした。




3.続かなかった理由を調べてみると…


父に話を聞くと、メンバーが女性ばかりで話が合わない。つまらないということ。

そして体力測定でビリだったのが嫌だったそうです。握力はレベル1、片足立ちが4秒だったと白状しました。自分で散歩するからもういいと言うのです。

教室を辞めたかった理由は足が痛いからじゃない。愕然としました。


⑤ 1ヶ月後
何が気に入らなかったのか知るために運動教室に見学に行ってきました。正直、この施策は税金の使い道として間違っているんじゃないかと思ったのです。『予防』と銘打っているのは何なのかと。

けれど、この教室、とても良い雰囲気でした。

そして市の職員さんと運動指導士さんが30分ほど話してくれました。ありがたく、あたたかいアドバイスをいただきました。

・この2ヶ月の運動講座は終了後、自主グループを作るという流れに繋げていきたい。それは地域の介護予防のためである

Q.父は女性と話が合わないと言っていた。男性のみの講座に参加させた方が良かったのか
→A.男性だけだと講座終了後の自主グループ立ち上げが難しい。現に立ち上がらなかった。高齢男性は難しい

Q.何か手は無いか
→A1.男性が多い自主グループを探してみたらどうか。市に申請しているグループなら男女比などの情報は分かる
→A2.父にはマシンのある市の運動施設の方が向いているかも。月額制のジムよりチケット制の施設の方が通いやすいかも。慣れるまでは娘さんも一緒に行った方が安心

Q.今さら努力したって握力は付かないと父が言って困っている
→A.でも何もしないと筋力・体力は更に落ちる。維持するのにも努力が必要。キープのためにも運動をした方が良い



4.介護予防という言葉の違和感


介護予防が大切だと、ずっと考えてきました。けれど現実を知り、そんなことは無理なのかもと思うようになりました。

介護を予防する、という言葉自体に違和感を感じるようになったのです。どんな施策があっても肝心の本人にその気が無い。その言葉に違和感を抱きつつも他に替わる言葉が思いつきません。

かつて、父と喧嘩になったことがあります。

なんで何にもしないのか。母でさえ嫌がっていたデイサービスに通って体操や筋トレをしています。自主トレも頑張っているのです。要介護になったらどうするつもりかと。父は「そうなったら仕方ない」と言いました。努力もせずに仕方ないって何だと私は怒りました。

フィットネスクラブで働いていた頃は運動が介護予防に繋がると信じていました。デイサービスで現実を知った今なら少し分かります。どんなに努力したって介護は必要になる。努力したい気持ちがあっても出来ない人だっている。今さら遅いと言う人もいる。運動が大っ嫌いな人もいる。


5.現実を直視して覚悟する


そんなに父を責めてはいけなかったと。

覚悟が必要なのだと思い知りました。

ここで先程の講座の担当者さん達との話を書き記しておきます。とても励まされ、心が落ち着いたので。

・講座に一歩踏み出しただけでも素晴らしい。とても勇気のいることだった

・高齢男性が女性の輪に入ることは敷居が高い。男性の介護予防対策は難しい

・家で寝ている人はそこら中にいる

・父親を心配する娘が自主グループを探して一緒に見学に行く例はよくある。高齢の親が自分で見つけるのは難しいので

・やる気のない人を運動させることは長年の課題。運動指導者にとっては20年前からずっと話し合ってきていること。つまり解決策は見つかっていない


努力してもどうにもならないことがあると納得できたのは、現実を見たから。

娘が色々と頑張っても親の介護予防には繋がらないのだと思い知る一方で、少しずつ自分の覚悟を重ねているのかもしれません。同じ悩みを持つ方がいるというのは気が楽になりました。



6.本当の気持ちは


今回の件はとてもショックで、運動の難しさを痛感しました。運動習慣の無い父の「始め方」に失敗し「続けること」に繋がらなかった。8回の講座を2回で辞めてくるというのは想定外でした。

けれど本当は、運動して欲しいというのは建前で、社会との関わりを持って欲しかったのです。

会社員という肩書が無くなった父は時間を持て余し、生きづらそうに見えていました。定年後に居場所を見つけること、こちらのほうが実は難しいと思っています。

デイサービスで働いていると、できなくていい、来るだけでいいと言うスタッフさんの言葉を本当に良く聞きます。

だけどそれでは嫌な人もいる。父がそうで、誰だって「出来ない自分」は嫌です。デイサービスっぽいとか、高齢者向けの運動を嫌がる人もいます。けれど完璧主義というのは生きづらいものです。年を取って現実を直視せず、楽に生きるために社会と離れた方が幸せなのか。

デイサービスで利用者さんは心の内を話してくれます。耳が聞こえるようになりたい、痒みが辛い、痺れが辛い、脳の衰えをなんとかしたい、痛みを無くしたい。など、悩みは尽きません。

そんなことないとはぐらかすのがその人のためなのか私の中で答えは出ていません。世間一般の高齢者向けレクリエーションや体操が正しいのかも。きっと永遠に探し続けるのだと思っています。


写真は父が育てている花々。
水仙の隣にアロエなどを植えていて、
絶妙にセンスがありません。ですが意外と
母は楽しみにしているようです。


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