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価格理論のエッセンス | 日曜経済学者

連載シリーズ「価格理論(消費者理論・生産者理論・均衡理論)」の全章をリスト化し、それらのエッセンスを章別に概説した。理論の全体観の整理や各章の要点確認など学習の参考になれば幸いである。また、記事作成にあたり収集した参考文献も末尾に全てリストアップしている。


「価格理論」とは

価格理論の本質を一言で表せば、我々個人や社会全体が満足度を最大化するために、「市場」という資源配分メカニズムを採用すべきかを問うことである。逆に「市場」が有効に機能を果たすためには、消費者や企業、政府がどのような性質を満たすべきかを問うこととも言える。

価格理論における最も重要な帰結は「消費者には自身の満足度の最大化、企業には利潤最大化を追求させることで、社会全体で適切な資源配分が実現される」という主張であり、そのために決定的に重要な役割を果たすのが「価格メカニズム」である。これは市場価格の需給調整機能により、自己利益の追求が社会全体の調和をもたらすというAdam Smithの「見えざる手」を厳密に述べたものだと解釈できよう。

このような理論の主張自体もさることながら、価格理論は「効用」「選好」「均衡」「合理性」など経済学の基礎概念を理解する上でも学ぶ意義が大きい。また、現代において価格理論は、ゲーム理論、契約理論と並ぶ「ミクロ経済学の三大理論」の一つに数えられ、理論の相互関係を理解する上でも価格理論が提示する市場観や基礎概念を押さえることは非常に有効である。

本連載シリーズ「価格理論(消費者理論・生産者理論・均衡理論)」に登場する用語や定理はいずれも基礎的なものだが、①それが現実社会の何を表現していて、②どのような仮定が置かれ、③それが数学的にどのように記述されるか、という具体と抽象の対応の記述に徹底的にこだわった。また数学的な証明も、アプローチの着想や議論の組み立て方を学ぶため丁寧な記載を心掛けた。価格理論の学習は、経済学的教養の獲得、具体⇔抽象の思考訓練、証明という問題解決技術の習得のいずれの面でも、学者や学生のみならず、私のようなビジネスパーソンにも大いに役立つものと確信している。

「価格理論」連載記事一覧

各章のエッセンス

消費者理論(1):選好と合理性

◆人々は自身の「好み」に従って行動を選択するという仮定を置き、その振る舞いを「選好関係」により記述する
◆人々の「好み」が満たすべき最も重要な性質として「合理性」を仮定する

消費者理論(2):効用関数

◆合理的な選好関係を数値的に表現し、選好の量的比較を可能にする「効用関数」の概念を導入する

消費者理論(3):無差別曲線

◆同じ効用を持つ消費の集合として「無差別曲線」を定義する
消費者の標準的な特徴と、それに対応する選好の性質、効用関数の性質、無差別曲線の形状を整理する

消費者理論(4):効用最大化問題

◆予算制約下における消費者の合理的行動を効用最大化問題として記述する
「限界」概念を用いて、効用最大化問題の解である最適消費を導くための条件を整理する

消費者理論(5):需要の性質

◆効用最大化問題の解を価格と所得の関数として表したWalras需要関数$${x(p, I)}$$が満たす性質を整理する
◆効用最大化時に消費者が得る効用を表す間接効用関数を導入し、間接効用関数を通じてWalras需要関数を導くRoyの恒等式を導出する

消費者理論(6):支出最小化問題

◆目標効用を達成するための合理的行動を支出最小化問題として記述し、その解であるHicks需要関数$${\bar x(p, u)}$$が満たす性質を整理する
◆目標効用を達成するための最低限必要な支出を表す支出関数を導入し、Hicks需要関数を通じて支出関数を導くShephardの補題を導出する

消費者理論(7):Slutsky方程式

◆消費者の2つの最適化行動から、消費者理論の最重要テーマである「物価変動によるWalras需要の変化」を明らかにするSlutsky方程式を導出する
◆Slutsky方程式の経済的含意を紐解き、物価変動に伴う需要変化のメカニズムである所得効果代替効果を理解する

生産者理論(1):生産集合

◆企業を「生産要素を投入すると生産物を産み出すブラックボックス」と捉え、企業の生産技術を生産集合を用いて記述する

生産者理論(2):生産の効率性

◆企業の生産集合の中で効率的な生産活動が満たすべき条件を整理し、企業の最適行動を議論するために有用な変換関数生産関数を導入する

生産者理論(3):利潤最大化問題

◆企業が自身の生産技術を所与とした場合の利潤最大化行動を記述し、その解である供給関数$${y(p)}$$が満たす性質を整理する
◆ある価格体系で生産技術を駆使して得られる最大利潤を表す利潤関数を導入し、利潤関数と供給関数を結ぶHotellingの補題を導出する

生産者理論(4):費用最小化問題

◆企業が自身の生産技術を所与とした場合の費用最小化行動を記述し、その解である条件付要素需要関数$${z(w, q)}$$が満たす性質を整理する
◆ある生産目標量を達成するための最小費用を表す費用関数を導入し、費用関数と条件付要素需要関数を結ぶShephardの補題を導出する

生産者理論(5):1生産物モデル

◆生産要素と生産物を事前に区別できる場合に用いられる1生産物モデルを導入し、その関数表現となる生産関数の性質を整理する

生産者理論(6):生産費用

◆費用関数を用いて、生産技術や生産要素の性質に応じた様々な生産費用の概念を記述し、それらの幾何学的関係を整理する

生産者理論(7):利潤と会計利益

◆利潤と会計利益の関係を記述し、会計情報と生産関数の相互変換を可能にするLegendre変換を用いて会計情報が持つ経済学上の含意を整理する
◆費用関数を用いて利潤最大化問題を定式化し、「物価変動に対する企業の反応」を記述するLe Catelierの原理を導出する

均衡理論(1):消費者と生産者の集計

◆消費者や生産者が複数存在する市場経済において、市場全体の需要/供給関数が個別の需要/供給関数の総和として表現できるための条件を整理する
◆需要関数を集計する上で必要となる準線形効用の仮定から導かれる、価値基準財の経済学的含意を整理する

均衡理論(2):部分均衡分析

◆1つの財市場の需要と供給を一致させる部分均衡と、全ての財市場の需要と供給を同時に一致させる一般均衡の2つの均衡理論の違いを整理する
部分均衡分析により、ある財の需給が部分均衡を成す条件や、部分均衡が満たす性質を記述し、経済政策への示唆を導く

均衡理論(3):経済の記述

一般均衡の分析対象となる経済、配分の望ましさの尺度となるPareto効率性、「価格メカニズム」により達成される配分である価格均衡を定義する

均衡理論(4):厚生経済学の第一基本定理

◆「価格均衡配分はPareto効率的である」という厚生経済学の第一基本定理を証明し、均衡により望ましい資源配分を実現するための条件を整理する
◆動学的一般均衡理論の一種である世代重複モデルを導入し、マクロ経済学的視点から第一基本定理が成り立つ条件に関する理解を深める

均衡理論(5):厚生経済学の第二基本定理

◆「任意のPareto効率的配分は価格均衡により実現可能である」という厚生経済学の第二基本定理を証明し、価格メカニズムが機能する条件を整理する
◆本質的に重要な消費集合と生産可能集合の凸性の仮定について、大規模経済における凸化効果を記述するShapley-Folkmanの補題を導入する

均衡理論(6):私有経済

◆財の所有者が明示された私有経済と、私有経済における価格均衡であるWalras均衡を定義し、Walras均衡が成り立つ条件を整理する
Edgeworth Box経済Robinson Crusoe経済を用いて、価格メカニズムの需給調整機能や動学的一般均衡理論への応用に関する基本的な理解を深める

均衡理論(7):Walras均衡の存在

◆Walras均衡を記述するため超過需要関数$${z}$$を定義し、選好関係$${≿_i}$$が連続性、厳密な凸性、強単調性を持つ時、$${z}$$が満たす性質を明らかにする
◆超過需要関数が上記の性質を満たす時、角谷の不動点定理を用いてWalras均衡が少なくとも一つ存在すること(Walras均衡の存在定理)を証明する

参考文献


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