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亡き祖母が言った「こんなはずじゃなかった」


祖母が亡くなったと連絡が入ったのは先週のこと。突然のことであっという間に1週間が過ぎた。

10年前に祖父が亡くなった時と違い、
狭い部屋に追いやられ、こぢんまりとした家族葬。




父方の祖父母は昔の考えが強く、
長男・次男への差別がひどかった。

私の伯父が長男、私の父が次男。
自ずと孫にまで影響した。

私の姉は初孫だったのである程度可愛がられていたが、
長男の娘、つまりは私の従姉妹と
次男の次女である私への祖父母の対応は違った。

小さい頃に祖父母の家に行くと、
従姉妹にはかわいいキャラクターの茶碗、お箸、スリッパが準備されていた。
もちろん私と姉にはなかった。
「欲しい」という言葉まで言わせてもらえなかった。
お小遣いやお年玉の中身もそう。


昔からそうだったのでいつしか気にならなくなった。
祖父母が元気ならそれでいいと思っていた。




歳の離れた姉は
高校卒業後から多忙で帰省しないようになった。

私より年下の従姉妹は薄情なもので、
都会にある母方の祖父母の家に帰り、
田舎の祖父母のもとへは帰らないようになった。


私は看護の道を進むようになってから余計に祖父母の様子が気になり、毎年帰省していた。


唯一会ってくれる孫が、次男の次女。
だからといって私が特別待遇されるわけでもなかった。



私は子どもながらに自分の立場はきちんとわきまえていた。



祖父母と親戚で旅館に泊まったとき、
階段に飾ってあるかわいい虎の置物に目が止まった。

「かわいい」と呟くと、
「欲しいのかね」と祖母が言った。

どうせ買ってもらえないとわかりつつ、「欲しい」と言った。

すると祖母が店員に声をかけ、私に小さな箱を手渡した。
中には虎の置物が入っていた。


いつも姉のお古や
従姉妹がいらないといったものをもらっていた私は、
祖母に初めて欲しいものを買ってもらえた。

嬉しかった。



それから祖母は私のことも大切にしてくれた。
だが、あくまでも次男の次女という扱いだった。

数々の指輪やネックレスを整理していたときも、これは姉に、これは従姉妹に、と私の前で、その場に居ない2人にあげる準備をしていた。






祖父が亡くなったのは10年前。

当たり前のように、
実家や山の所有権は全て長男に
と遺言状に書かれていた。


父は寂しい顔をしていた。
お金が欲しいのではない、
大事にしていた親から何も与えられないことがどんなに悲しいことなのか、
今ならわかる。



長男家族に全財産を託した。

それは祖父が亡くなってからも
祖母の面倒をみてくれると思っていたからだ。

しかし、違った。



祖母はすぐに施設に入れられた。

長男の嫁は専業主婦だったが、
絶対に祖母の面倒をみることはなかった。

決して義母をみるのが
長男嫁の役割というわけではないが、
そういう約束を交わしていたようだった。

だが、財産を手に入れたらあとは知らん顔。


「こんなはずじゃなかった」と
施設で祖母は言っていたらしい。


それから次第に認知機能の低下があり、
祖母は伯父のことも、父のこともわからなくなった。

そして先週亡くなった。



誰よりも泣いていたのは父だった。

暑いなか墓の中に入り、泥だらけになり、足を負傷しながらも、納骨したのは父。

愛されていないと分かりながらも、誰よりも祖父母のことを愛していたのは父。


そして伯父は一円たりとも、父に遺産を渡さなかった。お前は次男だから、と。



伯父がそういう人、というのはわかっていた。

おかしいだろうと、言ってしまえばいいのに。
父はそんな兄でさえ愛している。
大事な家族だと思っている。

だから私たちは何も言えない。


父は鍵を渡されていないので
もう二度と実家に帰ることはできない。





私は今、天井を見つめながら思う。



長男、次男
長女、次女

そんなに大事なことか。



大好きな祖父母。

こんな結末ですよ。
これが、あなた達が大事にしてきた長男家族ですよ。
従姉妹はお通夜も葬式も来ませんでした。

伯父は一番安い葬式プランを選びましたよ。
お通夜は私の父母が間に合わない時間にさっさと終わらせましたよ。


「こんなはずじゃなかった」
その言葉が全てでしょう。



大好きな祖父母。

私が今生きていられるのも
祖父母のおかげです。
本当にありがとうございます。


ただ、一つ、
たった一つでいいので
後悔してください。


私の父を大事にしなかったことを。

父はあなたたちが大好きだったんです。
大切にしていたんです。


父が何か悪いことをしましたか?
あなたたちを苦しめましたか?


ただ二番目に生まれてきただけなのです。
こんなにもそっくりなのですから、
あなたたちの子に違いはありません。

でもあなたたちが差別していたことで
長男にまで伝染し、
死に目に会うことも許されなかったのです。

亡くなった祖父母に
こんな思いをぶつけるなんて最低な孫でごめんなさい。

でも父を思うと心が苦しいのです。


父はあなたたちの悪口なんて一言も言いません。
だからどうか、
いつか天国で父に会えたら愛してあげてください。






p.s.

コロナで面会制限があったので会わせることができなかったけど、
去年寅年の女の子を産みました。
虎を予期していたかのようですね。

あれから12年経っていたんですね。
私は指輪やネックレスなんて与えられなかったけど、虎の置物を買ってもらえたあの時、初めてあなたの孫になれた気がして嬉しかったです。


今までありがとう。



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