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●散文、雑記、詩っぽいの。

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日記 2024.4.29

 数値がリアルタイムでグラフ化され、数秒おきに更新される。
 それは実体世界の何かの観測結果を示しているのだけど、表示されるのは数学Iのテストの問題用紙みたいな、シンプルな白と黒の画面。繰り広げられる微妙な変化に、規則性や意味を見出そうとしたけど、ほんの1日見ただけでは全く何もわからない。
 そのまま新しい1日が終わった。
 無力さを感じた。

 池の鯉を眺めているのとほとんど変わらなかったなぁ、

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夜を
信頼している
気を許してる

夜が来ると
「悲しい」とか「寂しい」とか
つい好きに吐いてしまう

夜なら
受け止めてくれると
信じきってるから

けど夜のほうは
僕に
何も教えたりはしない

夜は
広い世界を見渡していて

もっとも信頼できる人たちにだけ
大切な話をしている

「こんなに廃墟や空き家があるんだから、1つくらい秘密基地にしてみたいもんだよな」

「そんな余裕があるなら離れなよ。こんな……」

「大切な人がまだ残ってる」

「……せめて、いつまで探すか決めない?」

「いつまでも」

「死ぬ気?」

「いや。これこそ生きる気というやつさ」

2024.4.4

 きのう。
 やる事がなかった。
 家にも居られない日だった。
 映画館へ『52ヘルツのクジラたち』を観にいった。
 原作が小説なのは知っていたけど読んだことはなく、あらすじも知らずに行った。

 これは映画の感想や評価を述べるものではない。
 日記で、ちょっと虚構も混じっている。

 上映館はよく行くにぎやかなシネコンではなく、行き慣れない古い映画館のほうだった。
 電車に乗って、駅で降りた。

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言いたかったことは言えないまま、書きたかったことは書けないまま。

2016.2〜2024.4

 言いたかったことは言えないまま。
 書きたかったことは書けないまま。

 好きでもないものを「好きです」と言ってみたり。
 つらくもない仕事を「もう毎日大変ですよ」と言ってみたり。
 適当な資料ひっぱって文字数稼いで、書き連ねて、ふと俯瞰して虚しくなって。

 「ああここに"伝えたいこと"なんか何1つないな」

 それでも"伝えたいこと"を太字にする作業をやめない。

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平行する2本の飛行機雲は
色眼鏡を通せば春めいて見える

はじまりが違うだけで
同じ目的地へ飛んでゆく

それを
「寄り添っている」と表現するには

まだ少し勇気がたりない

よるクッキー。

よるクッキー。

夜になって
冷えてきて

何時間も
ぼうっとしてしまった

ひとりきりの夜は
子供のころの「夜」と
ずっとひとつづきの
ひとつの「夜」な気がする

実感や 時間の感覚は
昼の世界の舞台装置

暗転したら
ただ暗闇への親しみと
毛布のような自己憐憫
そればかりになる

それで
スタンドライトをつけた

クッキーがあった

昔いた工場のプレス機みたいに
口を縦に大きく動かして
なるべくざくざくと
音が

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そんなことはわかっている、そんなことはわかっている。

そんなことはわかっている、そんなことはわかっている。

そんなことはわかっている
そんなことはわかっている

ぼくが
心からこの世に馴染めず
いやな顔をして歩いていたら

あの人は
きっとぼくを見て
だまって悲しい顔をするのだ

悲しい顔を
させてしまう
それが憂鬱で

まったくよくなかった
あの人が
悲しい顔をするのはまったくよくなかった

でも
何のイメージもつかめない

窓ガラスにもメガネにも
水滴がまとわりついてよく曇る

駅前のぼこぼこした歩

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他人の欺瞞を許さない者が
自己の欺瞞に耐えられるはずもない

スカイツリーの下の人為的なシタマチ
落ちつける椅子ひとつ見つけられない

遊離目的自動航行
無意識にエスカレーターを次々と乗り継ぐ

なぜ自分の無意識は
上へ 上へむかうのでしょう

紅色のさざんか。

紅色のさざんか。

遠いひとり旅をしていた
おばあさんが

帰ってきた年に
植えたのだそうです

小道の脇の垣根
紅色のさざんか

北関東の台地は
毎年の西の風ふきっつぁらし

凍えて震える集落
広がる土煙り

色枯れた夕暮れ
遠い峰を雪雲がふさいでいる

雪は積もんねえから
死ぬほどじゃねえけど

菜の花やハイビスカスは
ねえから
やさしくはなれない

ほんと
半端な土地だぃねって

笑いかける
さざんかと根を下ろ

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おおきな夜。

おおきな夜。

2023.12.31

除夜の鐘
白い息ゆれる
火の粉 舞い上がって溶け落ちる
人がわらう

腕時計ちらちら
スマホのロック画面つけたり消したり
日付変わるまでの何十秒は
毎年やたら長いもの

住宅地はみんな電気がついていたし
普段さみしい参道に屋台が並んでいるし
へんな夜
みんな ひとつのできごとを待っている

人というものが
人というものが
一年に一度
おなじ ひとつの
おおきなできごとの 到

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記憶には
何が残って
何が残らないのだろう

日記帳の重みの分
捨てたらぼくは軽くなるのか

西の風強く
情動は疼く

抱えた秘密は、まだ嫌な色で光っていた。

 そのまま家に帰って、鏡で自分を見て、自己嫌悪でひどく嘔吐した時は心底ほっとした。

 ……抱えた秘密は、まだ嫌な色で光っていた。
 人の心の甘く棘々しい部位で。
 こういう種類の秘密って、たった1つ抱えただけで、まるでこの世の大事な知識ぜんぶを手に入れたかのような良い心地にさせてくるんだなと思った。
 自分だけが裏の状況を理解している。それに対して周りの人たちは、まるでみんなアホ面下げた無知の集

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言葉という重荷をおろしきった先の。

言葉という重荷をおろしきった先の。

ひとりで行ったカラオケの帰り
変電所の脇をとぼとぼ歩いた
歌で精魂を出しきってしまって
少し汗をかいたシャツが
風で冷えた

ひとりで行ったカラオケボックス
ひとりで居るはずなのに
「比較」から逃れられない場所

自分ひとりで歌っていても
曲と曲の合間の沈黙
壁越し
誰かの歌声が聞こえて
心の中で採点している自分がいる

だから
喉を潰してしまうのだ
ひとりの部屋なのに少し格好つけて
声を張るから

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