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「成長」を描く魔法の7ステップ/物語の中盤の進め方

はーい、こんにちは。渡柏きなこです。

前回の記事で、物語とは主人公が持つ「不足」が「成長」によって「満たされる」ものだと書きましたが、その「成長」の部分ってどう描いたらいいの? 何が書けたらお話に厚みが出るの? という方向けに、誰でも「キャラの成長」が簡単に描けてしまう7つのステップをご紹介します。

最初に書いてしまうとその7つのステップとは、
○固執:主人公が未熟な考えに固執する。
○失敗:固執したが故の失敗。間違いだと突きつけられる。
○指摘:失敗の理由は固執にあると他者から指摘される。
○反発:指摘に頷けず、一度は反発する主人公。
○黙考:一人になり冷静に考えた結果、指摘に納得。
○改心:考えを改めた主人公は行動を変化させる。
○結果:変化させた行動に結果が伴い、正しいと証明される。
です。

これらのステップの面白さを理解していただくために、まずはあえてこのステップを踏まないでストーリーをひとつ作ってみましょう。
では手始めに、『運命の人を見つけたい村娘』の話を考えたので聞いてみて下さい。

実例:『運命の人を見つけたい村娘』の話

『中世ヨーロッパ風の世界。とある村に、きらびやかな城下町に憧れを抱く女の子がいました。彼女の夢は城下町でかっこいい王子様のような人と恋に落ち、結ばれること。真面目で努力家な彼女は自分磨きを欠かしません。身近な材料で質の良い化粧道具を自作し、毎日メイクを勉強。運動と食事制限でスタイルを保ち、早寝早起き健康に。大人になった彼女は村で一番オシャレな商人になり、仕事ぶりも真面目だったために、城下町へ出稼ぎに行く許可をもらいました。うきうきしながら彼女は出かけます。果たして運命の人と出会えるでしょうか……?』

ここまでがお話の冒頭。ヒロインは「運命の人と出会えていない」という不足を抱えています。成長の余地は「外見が全てだと思っている」ところ。ヒロインが「中身も大事」と思い直し「運命の人と出会う」ことができれば、お話は終わります。
しかしここで以下のようにしてしまうと、どうなるでしょう? 続きをどうぞご覧ください。

『ヒロインは行きの馬車で父親に『恋愛というのは外見だけじゃなく、内面も大事なんだぞ』と諭されます。その通りだなと思ったヒロインは見た目だけでなく礼儀や思いやりにも気を使うぞという気持ちに成長。そして城下町でかっこよく紳士な性格の男性と偶然出会い、無事に恋人関係になることができたのでした。めでたしめでたし』

いかがでしょう? 「お話」には確かになっていますね。しかし大半の人は面白くないと感じると思います。お話に「厚み」がないのです。ものごとがすんなり進みすぎているせいで、気持ちが入っていきません。

詳しくはまた別の記事で解説しますが、物語作りに欠かせない要素として「遅延」という技術があります。色んな方法があるので説明が大変なのですが、ざっくり言うと「なかなかうまくいかない方がお話は面白い」ということです。

では具体的にどのように物語を「うまくいかなく」していくのかというと……?

ここからは7つのステップを意識して、物語の続きを考えていきましょう。さっきの『めでたしめでたし』から少し時間を戻して、商人になったヒロインが、馬車に乗って城下町を目指しているところから始めます。

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○固執:主人公が未熟な考えに固執する。

『城下町を目指すヒロインは、行きの馬車で父親から『恋愛というのは外見だけじゃなく、中身も大事なんだぞ』と諭されます。しかしヒロインはどこ吹く風。美しければ人はついてくる。村では皆私のことをおしゃれで綺麗だと褒めてくれた。だからきっと城下町でも同じよ。ため息をつく父親を尻目に、ヒロインは自信たっぷりに城下町を目指します』

※この段階ではヒロインは、自分の「美しささえあれば運命の人に出会える」という考えに固執しています。これがあるお陰で、この真面目で努力家なヒロインはこの後手痛い失敗をするのではないか……という予感が生まれ、どうなっちゃうんだろう、と読者は引き込まれることになります。

○失敗:固執したが故の失敗。間違いだと突きつけられる。

『城下町へとたどり着いたヒロインは道行く素敵な男性たちを眺めます。あの立派な服装の男性はどんな立派な仕事をしてるのだろう。あの背筋の伸びた男性は騎士だろうか。商売相手の殿方に片端から声をかけてみるヒロインですが、何故か誰もヒロインを相手にしてくれません』

※固執で作った前振りを生かし、ヒロインに失敗を経験してもらいます。結果が伴わないことで、何かが間違っているということをヒロインに示すわけです。ここで自力で思い直してはいけません。更なる『遅延』のため、もう少しだけ彼女には自分の考えに固執してもらいます。

○指摘:失敗の理由は固執にあると他者から指摘される。

どうして自分は相手にされないのだろう? と思って周囲を見てみると、城下町の女性たちはみんな美しい宝石を持っています。なるほど! と思ったヒロインは宝石を買おうと考えます。毎日毎日城下町へとやってきて、真面目に商品を売り、帰りに宝石屋に寄って、あといくらで買える……と宝石を眺めるのが彼女の習慣になってきたある日、宝石屋の店主をしている青年に聞かれます。

『いつも店の前で宝石を眺めていくよね? どうしてこれが気に入ったんだい?』

『これがあれば運命の人に出会えると思って。私がもっと綺麗になれば、きっと……』

『そうかな? あそこの奥さんは宝石なんか持っていないけど旦那さんと幸せそうに暮らしてるし、向かいの家の娘さんなんてメイクすらしてないけど隣の店の男の子と付き合ってるみたいだ。君が運命の人と出会うのに、本当にこの宝石が必要かな?』

○反発:指摘に頷けず、一度は反発する主人公。

さて、指摘の段階でかなり核心に近いことを言われたヒロインですが、まだここでは思い直しません。

『私が田舎娘だからってバカにして! と思ったヒロインは、怒って宝石屋を後にします。ぷんすかしながら馬車に戻り、今日の売り上げを数えるのですが、腹が立ってしまって身が入りません。んもう! なんなのよあいつ! 宝石屋の癖に客にケチつけるなんて!』

○黙考:一人になり冷静に考えた結果、指摘に納得。

『しかしそのときふと、ヒロインはあることに気が付きます。そうだ、おかしい。なんであいつ、宝石屋なのに私にあんなこと言ったんだろう? あんなことを言われたら、私が宝石を買わなくなるかもしれないのに……? もしかしたら、と思ったヒロインは再び宝石屋へと向かいます』

※ここでやっと、ヒロインが成長する準備が整います。冷静になって考えてみることで、以前受けた父親のアドバイスや青年の言葉に信憑性が生まれ始めるのです。

○改心:考えを改めた主人公は行動を変化させる。

再び宝石屋へとヒロインが戻ってくると、青年が看板を片付けているところでした。彼に声をかけるヒロイン。

『聞きたいことがあるの。私が宝石を買わなくなっちゃうかもしれないのに、どうしてあんなこと言ったの?』

 すると青年は照れくさそうに答えます。

『宝石を買った君が、落ち込むところを見たくなかったんだ』

 話を聞くと、青年は街で何度か、ヒロインの姿を見かけていたのだそうでした。熱心に街で働いては宝石店にやって来るヒロインが、いつのまにか気になってしまっていたのです。

『宝石さえあれば運命の人に出会えるって君は言ったけれど、宝石なんかなくても、君は充分魅力的な人だと思うよ。真面目で、努力家で、情熱がある。素敵な人だ』

 ヒロインはハッとします。そうか、私が色んな人から相手にされなかったのは、私がどんな人かわからなかったからだ。そして私も、相手の外見ばかりを見て、どんな人なのか知ろうとしなかったからだ。そう気づいたヒロインは深く反省します。

※この場合、変化したヒロインの行動とは『宝石店の青年の内面を考え、確認しにいったこと』が該当します。

○結果:変化させた行動に結果が伴い、正しいと証明される。

『どうかな、僕なんかじゃ釣り合わないかもしれないけれど、今度一緒に食事でも……?』

『ええ、その……私なんかでよければ……』

 こうしてヒロインは城下町に住むとある青年と一緒に食事をすることになりました。青年はまだ若く、どこか垢抜けない印象もあるけれど、内面も見るようになったヒロインにとっては関係ありません。彼らはだんだんと仲を深め、やがて男女の仲となり、ふたりで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

※最後はヒロインが冒頭で持っていた不足が満たされ、エンディングへ向かいます。成長したことによって青年と一緒になる流れになっていますね。
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 いかがでしょう? 元のお話と比べるとだいぶ物語に厚みが出たような気がしませんか? 今回の実例はいま適当に考えたものですが、同じ型をしたお話は本っっっ当に多いです。それくらいこれが王道のパターンだということで、非常に納得感の強い「成長」の流れになります。

物語はデフォルメされた現実

 現実世界でも私たちは、ひとつの考え方に固執し、視野が狭くなって、間違った手段をとり続けてしまうことがよくあります。どうしてうまくいかないんだろう? もっと頑張らなきゃダメなのか? そう思っている時ふと、誰かから思わぬ指摘を受けることがあります。

 最初は「えーっ!? そんなことないと思うけどな……」と反発心が芽生えるものの、よくよく考えると言われた通りな気もしてきて反省。行動を改めてみると、なんだかスッキリ。みたいなこと、ありますね?

 今回紹介した7つのステップは、実はその時の心の動きを分解して、ひとつひとつ描いているだけなのです。物語はデフォルメされた現実。普段の生活で拾った経験や自分の心の動きに、耳を澄ませてみるのもありかもしれません。

 さて、今回の記事が気に入ってくれたという読者の方、もし時間があるようでしたら、ディズニー映画『ベイマックス』をご覧いただいて、今回の実例を参考に、それぞれのステップに分解してみてください。多分かなり納得行くはず!

 そしてよかったらハートマークとフォローをしていただけますと次の記事を書くモチベが上がります笑。小説作品も随時更新しておりますので、そちらもよしなに。

 それではまた来週会いましょう! あなたのより良い創作ライフを願って。

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