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黒影紳士season6-X 「cross point 交差点」〜蒼の訪問者〜🎩第二十章 娘

20娘

……ビルは何故、過去へ逃げた?過去に干渉出来るのは少しだけだった筈。
 ならば、未来へ逃げた方が逃げ幅だって広がった筈だ。
 ……逃げたんじゃないんだ。
「……過去の本の少しにしか……移動出来ないんだな?」
 黒影は其れに気付いて、確かめる為にビルに聞く。
 ビルは、ああと頷き話し出す。
「俺はもう自分の意志で時を行き来出来ない。娘の事を思い出そうとしただけで、どんどん少しずつ過去に言ってしまう。未来に行っても、直ぐに少し前の過去に引き込まれる。予知夢は見れたが、過去には少し干渉出来た。過去へ引っ張る力の方が強かったんだ。死んでから時の中を彷徨って、徐々にこの世界の過去へ向かった。自分が死んだあの日を見たくなくて、未来へ行った筈が……気付けば逃れようも無く、家族毎死んだあの日に戻された。
 そこで初めて……娘と死後の再会をしたが、一瞬だったんだよ。」
 と、ビルは時の中が如何なる物か、黒影に教える様に語った。
「一瞬?……何故だ。」
 黒影は勿論、其れを気に掛ける。
「娘の方が強かったんだ。……過去干渉の力がっ!生きていた日々に……時間に全く気付いてやれなかった。死んでから気付くなんてよぉ!……俺がこんな能力を持ってしまったが為にっ!」
 と、ビルは両手を握りしめ力を込めて震わせた。
 其の如何しようも無い遣る瀬無さと悔しさからか、目頭に今にも溢れそうな涙を溜め、充血した様に真っ赤にさせる。
 そして……その涙が落ちる寸前に、其処にいる者に見せたく無かったからか下を向き、顔を見せずに涙だけを地に落として行く。赤い炎の光が涙をキラキラと光らせては、暗い地面に吸い込まれて行く様でもあった。
「頼むっ!頼むよ、相棒!……さっきは相棒がいなきゃ、主人公不在の自体で、この世界を壊せる……そう思った。だから、勝手な話しだって事は分かっている。重々承知の上で聞いて欲しいんだ!この世界を壊して、時も失えば……そう思っていた。娘も俺も行き場も無くなるが、何処か成仏出来るような場所に時から解放され行けると思ったからだ。だけど、まさか相棒が、この時間軸の閉じ込められた空間を自由に行き来出来るとは考えもつかなかった。まさか、時夢来の時間を直そうとする力と、場所を特定し移動する「景星鳳凰」を組み合わせて使うだなんて、思いもよらなかったんだ。刺した事は謝る!大事な相棒だったって言うのに……俺は如何かしちまっていたんだ。」
 と、ビルは後悔を嘆き己の横髪をぐしゃぐしゃにし、言うのだ。
 随分時に逆らおうと、何度も足掻いては諦めたのだろう。
 余裕の欠片も無い、黒影の知っているビルとは異なるビルが話している様でもあった。
「話してくれないか。……娘さんの事。」
 黒影はそんなむしゃくしゃしている様にしか窺えないビルを刺激しない様に、単調且つゆっくりと聞く。
 誰だって家族がずっと苦しんでいる、彷徨い辛い想いをしていると知ったら、ビルじゃなくてもこんな風に、普通ではいられなくなるのも無理は無いと思った。
「先輩!……何を言ってるんですか?!幾ら昔の相棒だか、親友だか知りませんけどねぇ!い、ま……刺されたばっかりなんですよ!?人が良いのも程がある。今度はトドメを刺しに来るかも知れないじゃないですかっ。少し過去に戻ったから傷が無いからって調子に乗り過ぎですぅ〜。後で時が戻ったら、傷が開いていたら如何するんですか!」
 と、サダノブはさっき迄敵みたいなものだったのに、何を協力しようとしているのかと、黒影に言うのだ。
「調子に乗り過ぎとは失敬なっ!剰(あまつさ)えお前より先輩何だぞ!?そのビルが困っているんだ。其れとも僕が海外のFBIにいた時の恩人の様な親友を、信じられないとでも言うのかっ?!幾らサダノブでも、言って良い事と悪い事があるだろう!ビルに謝れっ!」
 黒影は片眉を上げて、不機嫌そうに言った。
「謝りませんよっ!俺は間違った事はひとっ言も言っていませんから!良いですか〜?此処に白雪さんと、風柳さんがいたって、俺と同じ事言いますよ。」
 などと、サダノブは言い返すのだ。
「はぁ?……勝手に此処にいない人の意見まで決めるなよ。大体、白雪は僕の妻なのだから僕が言った事は信じるし、風柳さんは篦棒(べらぼう。当て字。)に弟の僕には弱いから、説得したら丸め込まれる。分かってないのはサダノブの方だ!」
 黒影は如何にも味方が多いのは、結局自分のほうだと見栄
を貼り言う。
「……あの……其れよりも、ちゃんと話しを聞いた方が良く無いですか?」
 と、割って入って良いのかも分からず、勲は謙遜して言った。その言い辛そうな表情と、如何にもな正論を言われ、二人共大人気なさに気付いて押し黙る。
「サダノブは無視として、僕は親友のビルが困っているのなら、勿論話しを詳しく聞きたい。其の娘さんとは少しの時間は一緒にいた。其の娘さんがビルよりも過去へ干渉する力が強く、更に過去の時空から逃げ出せないのではないかとビルは推測した。だが、ビルは少ししか過去へ干渉出来ない。……つまり、一生……否、死んでいるから一生と言うのかすら分からないが、追い掛け様にもどんどん娘さんは、この「黒影紳士」の過去へ飛び追い付けない。……だから、こう考えた。主人公である僕を殺せば、この「黒影紳士」の世界も崩壊し、娘さんが時空から出られる。……上手く行けば再会出来るかも知れないと。
 ……ただ、ビル……さっきこの現場で僕が刺された時、20年前に僕らは来ていると確認出来た筈だ。
 其の時に既に過去に僕らは移動する手段があると知った上で、この僕を刺したのは如何言った風の吹き回しだろうか。……既にあの時、今の様に信じて助けを求めても良かったじゃないか。……違う怨みでもあるのか?其れとも、そんな事も言えぬ程、僕らは希薄な親友関係であったのか。その答えによっては、手を貸すか貸さないかが別れる。
 今、嘘を取り繕うとしたところで、僕はあれから長く探偵をして来た。見破られる嘘ならば、始めから聞きたくはないよ。」
 そう、黒影は言って真実のみを、きちんと話す様にとビルに釘を刺した訳だ。
「ああ、相棒は嘘が苦手だし嫌いでもある。逆に其れは、見破るのも得意だから。簡単に分かる嘘など、詰まらん話しだな。
 ……正直に言う。既に未来で相棒が死んだのだと思った。最近は娘の事が気掛かりで、過去にばかり飛んでしまっていたんだよ。けれど、この20年も前の「season1短編集」にいる。相棒が時の中を死んでも尚、彷徨ったとしたら……もしや此れは「創世神」が使えると言う「レクイエム格好(鎮魂歌)」と呼ばれる保存処置で、再び現実に戻る事も有り得る。ならば今のうちに……そう思って、家事が苦手だが気になって来ると確信した俺は、態と其処で目立つ様に時計の針にぶら下がり今か今かと待っていたんだよ。……此れでさっきの一件は納得してくれたか?」
 ビルは黒影を刺した理由をそう答えた。
「……あぁ、納得はした。僕がビルの状況であれば、殺そうとはしないが、足止めか邪魔はしただろうな。……で、ビルの娘さんは、今何処にいる?此処は既に一番始めの、「season1短編集」だぞ。此れ以上前の「黒影紳士」は存在しない筈だが……。」
 サダノブは二人の会話を聞いていたが、一人納得が行かず、何処かむしゃくしゃしていた。
 狛犬の守護の本能だろうか。……主の黒影を危険にばかり誘うビルが気に食わない。
「……存在している。分かるんだ。同じ時空の片隅で、娘が泣いている様な気さえする。親子だからか、同じ時空を漂っているかなんて分からない。
「season1短編集を」隅々まで探した。だが、見当たらない。あるんだよ……此処より前が……。」
 と、ビルは言うのだ。
「……そんな筈は……。」
「season1短編集」が「黒影紳士」最古の物で、其れ以前は聞いた事も見た事も無い黒影は、存在する筈はないとそう言った。
「ある。……確かに在るんだ。否、無ければこの「黒影紳士」を書き始められないだろう。創世神が書い物で、「黒影紳士」に関連する一番古い物……其れは物語ではない。「設定」だ。」
 ビルは確かに「設定」と言った。
「まさか、そんな物に?だって、創世神は元々、設定や構成を頭に浮かべてから書くのだから、大概がメモ程度だぞ。その落書きの様なメモに娘さんがいるって?」
 正気か?とでも聞きたい雰囲気で黒影は言った。
 確かに其れも創世神が書いた物には間違いないが、そんな紙切れの様な物にと驚く。
「他に行ける場所は無い筈なんだ。確かに落書きの様なメモかも知れない。だけど、その一行一行が何れだけの長さになる?基準なんだ。忘れてはいけない、ルールだ。存在しない筈が無いよ。」
 と、ビルは必ずあると、一歩も譲らない。
「……分かった。行くだけ行ってみよう。そうしたら、ビルも納得するんだな?何かをきっかけに、既に成仏したかも知れないが、其れでも構わないな?……もう「世界」を壊そうとなんて思わないと、約束してくれ。」
 黒影はビルを娘に合わせる為に、交換条件を出す。
「俺が過去や未来、時空を彷徨う事が既に世界を壊しているのは分かっている。……元々、どの時にも存在してはならないんだ。だが、娘が成仏してこの時空から逃れられたなら、少しは大人しくするよ。」
 ビルは何処か虚しそうな瞳をする。
 好きでバグを起こして無い部分も大きいだろう。
 この時空から抜け出したいと、出来れば娘を連れて……そう、誰よりも願っていたのはビルだったと黒影は気付いた。
「……時空から出る方法……僕も考えるよ。何れ訪れる、僕の死後の未来かも知れないからね。」
 と、同じ予知夢能力者である黒影は、とても他人事に思えず、答えた。
「有難う、相棒……。」
 ビルは手を差し出す。
 ……今度こそ、真っ直ぐに……迷いなく……手を取るよ。
 その人生は余りにも僕にも起こったかも知れない、近しい人生。
 僕等は、数多の能力者でも少ない予知夢能力者。
 知り得る事を互いに話すだけでも、楽しかった。
 悩み聞く日も、合った。
 折角、もう会えないと思っていたのが……ビルにとっては不運で此処にいても、会えて嬉しかった。
 だから、今度はしかとこの手を握り救う。最後まで、ビルが親しく話し笑い合った「相棒」でいてやりたい。
「……構いやしない。だって、僕等は「相棒」だろう?……全てが終わったらビルの好きなビールで乾杯でもしよう。僕は黒ビールが良いな。」
 と、黒影はビルの娘を助けに行く事を約束した。
 ビルはやっと、昔の様にくしゃっと笑顔を見せ、
「流石……分かっているな、相棒は。」
 と、やっと素直に喜んでくれた。
 其処には、昔と変わらないビルがいた。
 ――――――――――

「景星鳳凰……世界名「20年前の黒影紳士season1短編集以前、設定」……解放!」
 時夢来を持って黒影は景星鳳凰を開いた。
 ……そして、先程の様に景星鳳凰を出る。
 その直後、黒影はその景色に一歩も足を動かせないでいた。
 轟々と炎蠢く視界。
 床を見れば、其処が何処だか直ぐに分かった。
 黒影と風柳、そして父と母で暮らしていた画廊。
 床がフェリメールの絵画の様に、チェス柄であったので、容易に分かるのだ。
 そしてきっと……これは、放火が起きた日。
「……相棒?大丈夫か?」
 ビルが不安そうに聞いた。黒影が火が苦手な事は既に知っている。
 だからこそ、先程も判断を鈍らす為に、屋敷に火を放ったのだから。
 黒影にとっては最悪の日だったかも知れない。行く先々で火災を見ているのだから。
「先輩!……此処は俺がっ!」
 サダノブは氷で火の勢いを止めようと提案する。
 余りの景色に呆然と立ち尽くしていた黒影は、其の言葉に反応し、止まり掛かった思考を再度動かした。
「駄目だ!余り変えてしまったら……「黒影紳士」全体が変わってしまう。此処は何よりも重要地点、設定の領域だ。設定は即ち、根本的な理。出来るだけ変えずに、ビルの娘さんを救出するしかない。……仕方ない……使うしかないか。」
 黒影はそう最後に悔しがったかと思うと、景星鳳凰を作りまだ弱っている筈の肩の鳳に、
「すまんな……無理ばかりをさせてしまって。此れが終わったら甘水を沢山飲ませてやるからな。」
 と、鳳を優しく撫でる。
 鳳は黒影の言う事は理解出来ているだろうが、かなり弱っているのか首を項垂れて、黒影に頬擦りをする。
「ごめんな……。もう一頑張りだ。……朱雀炎翼臨(すざくえんよくりん)……朱雀剣!」
 鳳を返さなくても、朱雀炎翼臨(すざくえんよくりん)は鳳凰より強く大きい威力のある炎の翼を黒影に与えるが、既に鳳が技を使った時点で、黒影には鳳凰の翼が生えていたので、段階的に上げなくてはならなかった。
 そして手には炎の渦を巻いた剣が、火の小さな竜巻を黒影の腕を巻き付く様に現れる。
 唯一攻撃らしい剣に見えるが、用途は違う。
 この剣は人を殺める為にある物では無い。
 朱雀の強い生命の炎を放ち、道を切り開く為に在る。
「鳳……後は影の朱雀が何とかする。……また帰り道が入り用だ。少し休んでおいで。」
 そう、黒影は微笑み、鳳を労う様に撫でると、鳳は七色の鳴き声を上げ、光の中へと消えて行く。
「サダノブ!凍らすのでは無い。冷風で行くぞ!」
 と、黒影はニヤりと笑って言った。
「……其れが影の最終形態ですか。……一体何をするつもりです?」
 勲は黒影に聞く。
「僕は火が苦手でね。鳳凰になっても、朱雀になっても……苦手な物を克服すると、影は神獣や近しい物を与えますが、僕は今だに自分で放つ以外の炎は苦手なのですよ。克服したのは一時の事です。……ですから、景色を変えてやれば良いと思いましてね。……僕等で探します。勲さんは影が得意だから、娘さんを見つけたら、保護をお願いします。」
 と、黒影は勲の説明に答え、保護を指示する。
「了承した。私がやりましょう。」
 勲もその指示は的確であると、納得した。


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(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。