黒影紳士season6-X 「cross point 交差点」〜蒼の訪問者〜🎩第二十一章 崩壊
21 崩壊
「行くぞ、サダノブ――ッ!!」
黒影は漆黒のコートを広げ、勢い良くサダノブに言うと炎へ向い、走り出した。
「りょ――かいっ!!」
サダノブはニヤリと犬歯を見せ笑うと、腕を前方へ突き出し、手を広げ黒影の横に付き、走り出す。
朱雀剣からは炎の竜巻が前方へ放たれ、火災の火を強い朱雀の剣の竜巻の風圧で相殺して行く。
何度も苦難を切り開いてきた……炎と氷の風圧が作ってきた道……。炎が割れた間に二人は、娘を探し乍ら走る。
その後を勲が続いた。
これならば、強い風圧だけなので、飛ばされる事は若干あれども、建物自体を壊す事も、誰かを斬り捨てるなどと言う事も無い。
……僕が選んだのは……守ると言う道。
……俺が先輩から学んだのは、武器しか持てなくても、戦う意外の使い方があると言う事。
……誰かの為に……必死になる。
……そんな奴が偶にはいたって良いじゃないか。
……ありふれた人間になるより、あり得ないを証明する人間になりたい。
……どんなに社会に要らないと言われようとも、生きていると叫んで良い
……僕等は何よりも自由な「探偵」なのだから。
「……サダノブ!!」
黒影が突然読んで剣を下ろした。
「……これは……。」
二人の視線の先にあったのは……紐で後ろ手に縛られ、座っている少女。
恐怖に震え、涙は枯れ果てたのか、煤だらけの頬に涙の跡だけがくっきりと見える。
「……父さん?……母さんは?!」
黒影はその少女を見て、何故かそんな事を言い出すのだ。
「如何したんです?早く助けましょうよ!」
サダノブは娘に違いないのに、何故其れよりも変な事を言い出したのか分からず言った。
「兎に角、影に保護する。」
勲は影を広げ、娘を影に取り込んだ。
振り向くと、割った筈の炎が戻っている。
「早く、道をっ!」
勲は、こんな火災現場で茫然としている黒影に言った。
黒影は其れでも、床を見たまま立ち尽くし、
「此処には本来僕がいた。だから、もうバグは直らない。娘さんを助けたところで意味が……ない。」
黒影はそんな絶望的な言葉を、こんな時に言うのだ。
「先輩!しっかりして下さい!……先輩は現場でそんな言葉は言わない。こう言う時こそ、冷静に何時も指示を出すじゃないですか?……急がないと火が回ってしまうんですよ!?」
と、サダノブは黒影に正気に早く戻って欲しくて、語尾を強めに言い放った。
「今だからだ!今なら間に合うかも知れないんだ!父も母も二階にいる!もし此れ設定だとしても、今崩せばっ!」
黒影はそう言って2階へ続く階段へ走り出そうとする。
しかも、朱雀剣も使わず、ただ火に突っ込もうとするのだ。
「死んじゃいますよ!」
サダノブは黒影の腕を持ち引っ張り止める。
「五月蝿い!だったら守護のお前が守れば良い話しだ。このまま両親が火の渦に焼け爛れて死んで行くのを、黙って待っていろと言うのか!?……世界が?「黒影紳士」のバグ?……そんなの如何だって良いんだよ!!家族を守りたいだけの、何がいけないんだ!何の権利があってお前は僕を止めている?……もし、穂(※みのる。サダノブの新妻)さんが2階で此れから焼かれるって言う時に、サダノブは黙っていられるのか?!娘さんだって助けたんだ、僕の両親が救われたって良いだろ!」
と、黒影はサダノブの強く握った手を、何度も振り落とそうとし乍ら、怒りを打つける様に言ったのだ。
『黒影!!其れは違う!……娘さんが此処にいるのがイレギュラーだ。だが、黒影の両親が此処で亡くなるのは運命だ。
死の冒涜だぞ!終わった筈の人生を私は書かない!』
そう言ったのは、戦闘時用の大きな嘴の様な対ペスト用マスクと、裏から黒く塗りたくったゴーグルと、フード付きの黒いマントを来た、烏の翼を持つ創世神であった。
「何を今更!そもそも貴方がこんな設定にしなければ、僕には平凡な暮らしが待っていた筈です!人並みの幸せ、人並みの生活、其れで十分だった!」
黒影は創世神にそう言った。
創世神はこう答える。
『黒影……頼むから落ち着いて聞いてくれないか。何方にせよ、黒影の両親は亡くなる運命にあった。本来ならば、此処でお前を風柳が助けに来る。……僕はその代わりに来ただけだ。』
と。
「貴方じゃない……。違う……。貴方は僕の知っている創世神では無い。僕が知っている創世神は、惜しみなくその知識を僕に与えてくれる。そんな中途半端な答えで、僕を納得させようとはしない。……其れに、貴方が創世神であるならば、今……この「黒影紳士」を書いているのは誰です?……音声録音だとまた言いますか?そう答えても、僕は貴方を信じない。」
黒影は創世神に不信感を持ち打つけた。
『半分……合っている。だが、半分不正解だ、黒影。其奴は20年前の僕だ。何せseason1短編集より前の話しだ。僕が覚えているかさえ定かではないからな。分離させた。……運命を此れ以上変えてはならぬ、黒影。……家族を失った辛さは他の誰かも、持っているだろう?だから、黒影には新しい家族が今いる。過去は変えられぬが、今ある物を大切にしなさい。』
そう言って現れたのは、紳士風情だが、山折りに臙脂のコサージュを付けた帽子が特長的な、黒影も良く知る創世神である。
その手にはノートと万年筆があり、すらすらと今、現在の黒影紳士を書いている。
「でもっ!」
『黒影……。人は蘇らない……』
黒影の言葉を遮る様に、現在の創世神は優しく諭す様に言った。
『行こう……。苦しい思いは一度で良い。そう思うだろう?このままいても、何かしらの理由で運命には逆らえず、ご両親は亡くなる。僕は黒影に苦しんで欲しくは無い。もう、娘さんを助けた時点で、この「黒影紳士」は崩壊し始めている。
バグは此処から、「season1短編集」にまで及んでしまった。幾ら僕でも、最初から総てを書き直すのは不可能だ。書き直せば、また別の違う物語になってしまうだろう。創世神と言え、万能ではない。僕は君達を記録する者でしかない。すまない……黒影。』
創世神はそう言うと、手を止め黒影を強く抱き締めた。
『大丈夫……これから、大丈夫になるんだ。』
あの大切な言葉を繰り返し、静かに黒影の肩に涙を落とす。
……一体、何が出来るだろう。
ずっと考えてきた。
全てを失ってしまった、「黒影」と言う、主人公の為に。
僕が出来る事など多寡が知れている。
書いて……只管に書いて……見守る事だけだ。
『設定が狂ってしまった。……全てを書き換える大惨事だよ。
……だ、け、ど、ぉ〜。黒影、ちゃんと策を練って準備していたじゃないか。
君が用意周到で本当に良かったよ。』
と、現創世神は今まで泣いていたのに、クククッと笑うのだ。
「あのねぇ、僕は今悲しみに……」
『浸っている暇などないよ。忙しいのも、時には役に立つな。悲しむ時間を奪ってくれるのだから。……複製コピーデータがあるじゃないか、黒影。つべこべ言わずに、此処にいる設定以外の物を全員、僕が愛しつくしてやるっ!』
現創世神はそんな事を言い出すのだ。
「ぅわっ!今日もドン引きする程、見事に愛情歪みまくってますね。」
サダノブはが、半歩引いて恐ろしい物でも見るかの様に言った。
「その点で言えば、20年前から全く変わらないと思いますが。」
と、言った勲を見れば、20年前の創世神が既に足にしがみ付き号泣している。
『んっ、今日も皆、仲良しで実に宜しい♪……さあ、複製データの「season1短編集」へ参るぞ!……一筆入魂!!……8時じゃないけど全員集合――っ!!』
現創世神は宙に万年筆を翳し、創世神の一筆入魂を繰り出す。技名は……えっとぉ……。
「ギリどころじゃないですよ!何其の技名は――っ!嗚呼――!!」
サダノブは、創世神にツッコミを入れながら飛んで消えた。そして次々と、勲と影に保護したビルの娘、20年前の創世神、黒影、ビル、そして現創世神は、壊れ始めたデータから抜け出した。
その後、設定と本来のseason1短編集は少しずつ地面から、重力が逆転し宙へと崩れ吸い込まれて行く。
其れは皮肉にも、まるであの正義崩壊域が逆さまになったかのように。
――――――――――――
「此処は……。ううっ……。」
黒影は起きたと同時に痛みに気付いた。
時空から抜け出し事は確かな様だ。
辺りを見渡すと、小鳥が平和そうに鳴いている。
見たことのある道を真っ直ぐ脇腹を抱え乍らも進んだ。
行く当てなど分かりはしなかった。
けれど、あの約束の地へ……行きたいと感じたのだ。
トンネルに、少し引き摺った黒影の足音が響き渡る。
何故か願ってしまう。
このトンネルを抜けたら……光……輝いています様にと。
始めて見た、正義崩壊のオリジナルの姿は、物寂しいが……其れでも少しずつ、ビルには苔は蔦が生え……人間の欲や醜さに負けない生命力が在った。
何が正しいのか……そんな事も未だ僕には分からない。
大人になればなる程、はっきり白黒つける事が難しい物事も、感情も増えた。
……変わらないものが在っても良いじゃないか。
そう笑って言う創世神の何時もの口癖。
変わりすぎた自分も……変わらなくて成長出来ない自分も、何処か許される気がした。
……これから待つものに……恐怖心はあるか?
不安はあるか?
勇気はあるか?
立ち向かう自信はあるか?
何れも……探偵なのに、明確には表現し難い。
其れら総てが揃って、何れかが小さくなったり大きくなったりして、自分なのだと思う。
……トンネルの先は真っ白な程、輝きに満ちた光で溢れていた。
暗い所から急に出たのだから、余計にそう見えるのは当たり前では無いか。
そう言いたいんだろう?
だけど、この時の僕は思ったんだ。
まるで、天国の様な所に繋がっているんじゃないかって。
夢見たいな事を言うと思われるかも知れない。
だけどさ、偶にはそう思っても良いかなって。
だって……その先にあったものは……
僕にとっては紛れもない光だったと思えるのだから。
「良かった……。心配したのよ。創世神さんがね……。」
白雪が駆け寄って、出迎えてくれた。
直ぐに僕の手を取りずらすと、傷の様子をみている。
白雪が傷を看てくれている間に、風柳さんが近寄って心配そうに僕を見た。
「只今戻りました。」
「心配を掛けよって。」
と、何時もと変わらない会話をする。
白雪が傷を看てから手を一度離すと、サダノブが駆け寄って来た。
「先輩!……何処までぶっ飛んだか、心配しましたよ。創世神さんだら、着地点決めていなかったから、皆んなバラバラで。」
と、其れでやっと何で中途半端な所にいたのだろうと思ったが合点がいった。
サダノブは肩を貸してくれて、二人で正義崩壊域の中央交差点へ向かった。
其処には、二人の時代の違う創世神と、勲、ビルとその娘さんが待っていたからだ。
「なぁ、ビル?僕は今、幽霊を見ていると言う事で合っているのだろうか?」
黒影は思わずビルに聞いた。
『此処の磁場が正義崩壊域だから、他と少しちがうのだよ。』
と、20年前の創世神が黒影に教えた。
「はぁ……磁場の関係?……って、全然納得いきませんけど!」
と、サダノブは其れで理解しろと言うのが無理だと伝える。
黒影は勲をふと見た。
自分の欠片と別れるようなそんな不思議な気持ち。
此処が複製コピーデータ先だとするならば、season1短編集の正義崩壊域と言う事になる。
黒影は徐に懐中時計のボタンを押し、カチャツと蓋を開く。
「……時は……正常に動き始めた……。」
そう呟き、右回りに動き始めた時計を惜しむ様に、見詰めた。
「……ビル……。」
黒影がビルを呼ぶ。
「……ああ、もう大丈夫だ。娘もいる。もう……迷わない。有難うな……相棒……。」
二人は手を繋ぎ、仲睦まじく語らい乍ら青く深い空へ消えて行く。
……これで本当に……「相棒」と、呼ばれるのも最後か。
……ビール……飲みたかったな。
何れ僕の命が尽きて、予知夢能力者として時を彷徨う事になったら、今度は迎えに来てくれよ。……
――――――――――――
『さあ……此処でお別れだ。其々の道へ……いざゆかん。』
現創世神はそう言って、交差点の真ん中で手を前に出した。
『スタートを守らねばならんからな。』
20年前の創世神は、現創世神の手の甲に手を伸ばす。
「この人は私がいないと本当に駄目ですからね。私も新しい人生をやり直してみますよ。白雪をあね村の人々にも紹介したい。」
そう言って勲も手を重ねる。
「じゃあ……偶には遊びに行きますよ。お二人共……お元気で。」
黒影は最後に、一番上に手を乗せた。
「其々の未来に……」
黒影はそう言って微笑む。
「祝福を!」
四人は声を合わせてそう言った。
……さよならなんかじゃない。
……終わりなんかでもない。
これが……其々の始まりなんだ。
勲と20年前の創世神は未だ見ぬ未来へ……。
現創世神と僕らも別の未来へと……。
未来を向き合う者達が今日も交差する。
もし、迷ったら……この場所でまた会おう……。
此処からまた……永遠は動き始める。
――――――――――――――
永遠は誰かが用意してくれるものでもなく
自分から諦めてしまうものではない
……自分で作り……信じるものだ……
時の経過などではない
限られた時を
如何に命を全うする事かと、果てなく思えた時
無限を感じ
其処に永遠を得るのだ
―――「黒影紳士season 6-X」終
だが、「黒影紳士」は著者が書ける限り永遠に続く♾️
次の↓season6-X連鎖『黒影紳士season1 短編集複製コピー版』(通称6-XX)第一章へ↓
(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。