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公序良俗が行き過ぎると息が詰まる話 ピエール瀧氏の逮捕余聞

▼美術手帖のサイトで、いい話が報道されていた。2021年6月21日配信の記事。適宜太字。

〈映画『宮本から君へ』助成金不交付で原告が勝訴。芸術文化振興会に不交付取り消し命じる〉

〈文化庁所管の芸術文化振興会が映画『宮本から君へ』に対する助成金1000万円を不交付とし、この行政処分の取り消しを求めた訴訟で、原告側が勝訴した。

独立行政法人日本芸術文化振興会(芸文振)が映画『宮本から君へ』に対する助成金1000万円を不交付とし、映画制作会社・スターサンズが不交付決定の取り消しを求めた訴訟の判決が東京地方裁判所で21日、行われた。原告の訴えが認められ、芸文振に決定の取り消しが命じられた。

本件は、文化庁が所管する芸文振によって内定が出されていた同作への助成金の交付が、出演者のひとりであるピエール瀧がコカインの使用・所持で有罪判決を受けたことを理由に、「公益性の観点から」不交付とされたもの。

この不交付決定に対して、原告は、憲法第21条で規定されている「表現の自由」の侵害などとし、補助金適正化法6条1項違反として、助成金不交付決定の取り消しを求める訴訟を起こしていた。〉

▼芸文振とは、文化庁所管の独立行政法人。つまり、行政の無知を、司法が裁いた格好だ。

▼そもそも、交付しないという決定が、正気の沙汰(さた)ではないので、当たり前の判決なのだが、裁判所も、正気の沙汰とは思えない判決を出すことがあるので、ひと安心できるいいニュースだ。

▼芸文振という団体の、意思決定をした人々は、この問題について、ひとりになる時間をとって、薬物依存が犯罪である前に病気であることや、芸術と自由の関係について、そもそも、リスクを避けるための大義名分に使った「公益性」とは何かについて、おいしいお茶でも飲みながら、じっくり考えたことがあるだろうか。

他人の顔色ばかりをうかがい、一時的な世論の趨勢(すうせい)に右往左往して、助成金を無しにしたのだろうか。

▼今回の判決は、芸文振という団体が、「表現の自由」について無知であることをさらけ出したニュースであり、かつ、彼らの無知を、司法が認定したニュースである。

▼公序良俗は、いいかげんなものだが、便利でもある。このいいかげんで便利なものを、行政の裁量権に簡単に利用すると、ときに痛い目に遭う、という教訓でもある。

(2021年6月23日)

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