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移動図書館は世界への「窓」になっている件

▼NHKは政治報道以外に素晴らしい番組が多い。「ドキュメント72時間」の名作の一つ「島へ 山へ 走る図書館」の再放送をつい見てしまった。(2019年3月22日放送)

本を詰め込んだ車が海を渡り、山を登るのだ。

2019年3月24日、松山市立図書館で、移動図書館「つばさ号」の、新車両のお披露目会が行われたそうだ。

▼以下は松山市立図書館のお知らせ。

〈松山市立図書館 3月20日 12:30【新しい「つばき号」をお披露目します!】/図書館では、4台ある移動図書館車「つばき号」のうち1台を更新するために準備をすすめてきましたが、このたび新車両が完成し、お披露目式を行うこととなりました。/3月24日(日)11時から、コミセン正面玄関前で行います。/お披露目式では、車両の外観をデザインしてくれた大学生と中学生の表彰式や、新玉小学校金管バンドによる「松山市の歌」の演奏なども行います。また、新しいつばき号の見学会も予定しています。
どなたもぜひ、ご参加ください。〉

▼松山市は「俳句ポスト」が有名で、市内に90箇所以上も設置されている。なんと県外にも10カ所以上設置されていて、誰でも俳句を投稿できる。子規も喜んでいることだろう。

▼「72時間」を観た時、移動図書館には文字通り老若男女が集まることを知った。「知」が、移動図書館という血管をたどって、人々の生活にーー夫を亡くして一人暮らしをしているおばあちゃんにも、家が火事に遭って蔵書が全焼し、脳梗塞になって以来読書熱が復活したおじさんにも、2011年に福島から避難した時に4歳だった、今は中学生の野球少年にも、娘に絵本を読み聞かせる、東京で夢破れたお母さんにもーー生き生きと脈打っている様子が浮き彫りになっていく。

ちなみに、「72時間」は、とくに「選」と銘打たれたアンコール放映が評判の高いものなので、未見の方にはオススメ。

▼さて、前回もマンゲルの『図書館』を引用したが、今回も「72時間」の移動図書館篇を観て思い出した箇所があるので、図書館の効用について考えさせられるくだりを紹介しておく。

▼南米はコロンビアでの話。適宜改行。

〈図書館の新しい形態には、新しいテクノロジーを用いない(あるいは、用いることのできない)ものもある。1990年、コロンビア文化省は、国内の各地にくまなく本を届ける巡回図書館の制度を作った。

政府は、1982年から首都ボゴタの周辺地域に図書館バスを走らせてはいたが、もっと遠くの農村部に住む人びとにも本を届けることが重要だと考えた。

そこで、大きなポケットがついた折りたたみ式の緑色の袋に本を詰めてロバの背に乗せ、ジャングルや山岳地方へ運ぶことにした。届け先では学校教師や村の長老に数週間、これらの本を預けておき、事実上の司書として管理してもらう。緑色の袋は広げて支柱や樹木に吊り下げ、人びとが自由に本を物色し、選べるようにする。

ときには、字を読めない人びとに司書が本を読み聞かせることもある。また、家庭では、学校で字を教わった者がほかの家族に読んでやることもある。村人の一人はこう話している。「これのおかげで、私たちは知らなかったことを知り、ほかの者たちに話してやることができるのです」。

一定の期間が過ぎると、新しい本のセットが届けられ、それまであった本は回収される。本は、専門的な技術に関するものがほとんどで、農作業の手引や、水の濾過(ろか)法の解説や、刺繍の図案や、家畜の病気治療法の紹介などだが、小説をはじめとする文学作品も含まれている。ある司書によれば、本はいつも無事に回収できるという。

「本が返ってこなかったのは、私の知るかぎりでは一度だけです」と彼女は話してくれた。

「いつもの実用書のほかに、『イリアス』のスペイン語訳が入っていたんです。本が交換される期日になると、村人たちは返却を拒みました。私たちはその本を差しあげることにしましたが、なぜ『イリアス』を手元に置きたいのか、わけを尋ねてみました。

すると、ホメロスの書いたその作品が、自分たちの境遇に重なるからだという返事でした。戦火に見舞われたある国で、身勝手な神々によって運命をもてあそばれた人びとが、戦いの意味も、いつ殺されるかもわからずにいるという物語です」〉(209-210頁)

▼白水社刊『図書館 愛書家の楽園』の211頁には、コロンビアの農村部を悠々と進む「BIBLIOBURRO」(ロバ図書館)の写真が載っている。

(2019年3月25日)

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