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【オススメの一冊】『水中の哲学者たち』

永井玲衣さんによるエッセイ
『水中の哲学者たち』の感想文です。

世界は水面のようにゆらゆらと揺れて
はっきりとした姿を表さない。

哲学は波打つ水面に飛び込んで
水中を覗き込むような営為だ。

厳密な学問としての哲学は
水中を、正しい世界を捉えようとする。
しかし実は
哲学は水面で戯れているくらいが
1番面白かったりする。
そんな気がする。

不安定でゆらゆら移りゆく世界を
プカプカゆれる波を楽しむ。
子供のように泳いだり
水をパシャパシャ飛ばしたりせず
ただぼんやりとゆれる水面を眺めて
夢想に浸水する。
そんな趣きが哲学にはある。

ナルシスが
水面に映る自分の姿に惚れたように
哲学する"私"は
なんかいつもよりかっこよく見える。
ちょっと背伸びした
姿勢の良い"私"が水面には映っている。

この本は哲学について語っていながら
海に深く潜っていくことはしない。
むしろ
非常に軽やかで
すいすい読めるように書かれている。
クスッと笑えるようなところもある。
いわゆる「哲学」とは正反対の哲学書だ。

読者はシーラカンスではなくアメンボになる。
水を照りつける陽光を浴びて
悠々自適に水面を踊り回る。
哲学を水面で戯れる楽しみを
この本は教えてくれる。

哲学の水面は
日常の色んなところに浮かんでいる。
水は透明だから見えにくいけれど
それでも水は生活に溢れている。
われわれの体内にだって。

筆者は
日常に潜む哲学をわれわれに気付かせ
ときに水に足を浸してみせる。
ひょいと現れた自明の理が疑わしくなってくる。
すると好奇心がくすぐられてくる。
こんな勝手で哲学の面白さを伝える。

そういう哲学の水面での戯れを
哲学ファシリテーターたる筆者は
ディベートという形で実践する。

ディベートを行き来する
人の頭の中で冬眠していた思いは
筆者を刺激し、そして、読者を刺激する。

本書では
それが軽やかに正直に語られている。
それは私たちの中でいつか生まれて
いつの間にか眠りこくっていた考えに照応して
頭の中に朝陽が射すように感じられる。

シンプルに読みやすく面白かった!
心から人に勧めたい一冊🥰📖

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