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ロシアの武術・システマはなぜ世の中に出てきたのだろう

システマのストライク(パンチみたいなもの)に関する本を読みました。

北川さんの翻訳じゃないので、他の訳本と少し毛色が違うように感じました。北川さんの訳本は、日本の読者を意識して、武術に慣れ親しんでいない人向けにわかりやすく解説するものが多いですが、この本は結構武術的要素が強いです。あと、「海外あるある」的な例え表現が多いので、キリスト教などに例えられてもピンと来ないことも。でも、ストライクについての重要な要素は学べます。

この本を読んで、改めてシステマは武術なんだな、と思いました。普段のトレーニングや、日本向けのセミナー、書籍、YouTubeなんかを見ていると、「ストレスコントロール」「心身の健康」など、どちらかといえば会社員や学生、主婦・主夫などあらゆる人が現代社会をサバイブするためのもの、という印象が強いです。ごりごり武術、だと間口が狭すぎますし、もっといろんな人の役に立つよね、ということで今の形に収まっているのでしょうか。

システマは、なぜ世に出たのだろうか

で、何を言いたいのかというと、旧ソ連軍やロシア軍の格闘術がなぜ世の中に公開されることになったのだろう、と不思議に思ったからです。旧ソ連軍の格闘術なんて門外不出で墓場まで持っていってもおかしくないなと。

システマは、ロシア軍の特殊部隊員でもあった故ミカエル・リャブコによって公開されたものですが、なぜミカエルはシステマを世に出そうと思ったのか。軍人として、いろいろな修羅場をくぐってきて、そこでの経験は軍人だけでなく、あらゆる人々が生きていくために有効なヒントになる、と思ったのでしょうか。

システマの根底には、「破壊の否定」という考えがあります。実際の戦場に赴いていた人が言うと重みが違いますが、人を壊すための武術じゃないんだよ、それを間違えないで、というメッセージがあるように感じます。となると、やはり「平和な世の中であってほしい」という祈り・願いみたいなものを込めてシステマを公開したのかなぁと。だとすると、ロシアのウクライナ侵攻で、現代で戦争が始まってしまったことはとても複雑な気持ちだったのではないかなと思いました。

ミカエルの息子であるダニールに初めて会った時のことも印象的でした。システマの技術について話すのかとおもったら、開口一番、「自分にとって大切なものを見つけてください」と言われたからです。「家族でも友達でも、ペットでも、花でも、なんでもいいから、自分にとって大切にできるものを見つけて、それを大事にしてください」みたいな内容でした。愛という言葉は使ってないけど、愛の話をしてるんだなと。「自分を守って、大切なものも守ろう」みたいなことなのかなと解釈しました。ミカエルは会ったことがないですが、ダニールは独特の空気感があります。

というわけで、システマを公開してくれたミカエルには感謝していますし、その背景に想像を巡らせると、トレーニングの一つ一つにも戦争の片鱗があるんだなというか、想像力が働く余地があるなと。そんなことを考えました。


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