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「オンライン園長会」に「スマート保育園」──。テクノロジーが変える保育と社会

突然やってきた、全国の小中学校「臨時休校」の要請。

一部では授業を再開したところもありますが、いまだに99%の公立小中学校は、休校のままです。

参考:小中高は休校延長、大学は授業開始延期 正常化遠く

そんななか、幼稚園や保育所などは通常運転を続けています。

この国の対応には賛否両論あったものの、それとはまた別で「幼稚園や保育所が社会にとっての止められない重要な機能、つまり社会インフラの一部」であることを示唆する、ひとつの象徴的なできごとにもなったのではないでしょうか。


今回お話を伺ったのは「テクノロジーで保育と社会を変える」を標榜する、ユニファ株式会社の代表取締役CEO・土岐 泰之(とき やすゆき)さん。

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社会にとっての重要な役割を担っているにもかかわらず、いま保育士不足は深刻な状況で、特に深刻な東京都では有効求人倍率が6倍を超えるような状況です。

参考:厚生労働省

土岐さんは、この現状をテクノロジーの力を駆使して、どのように変えていくのか。

対談相手は、日本で唯一のベビーテック専門メディア「Baby Tech」の運営や、育児系IT商品サービス総合コンサルティング事業などを行う、パパスマイル代表の永田です。


2児のお父さんでもある土岐さんに、まずはご自身の「仕事と育児の両立」、そして事業として展開されている「オンライン園長会」や「スマート保育園」などの取り組みについて、話していただきました。

インタビュアー:パパスマイルBLOG 編集長・藤本けんたろう


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土岐 泰之(とき やすゆき)さん。ユニファ代表取締役 CEO
1980年生まれ。九州大学経済学部卒。2003年に、住友商事へ入社。リテール・ネット領域における、スタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、外資系戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーやデロイトトーマツにて、経営戦略・組織戦略の策定及び実行支援に関与。2013年にユニファを創業。全世界から1万社以上が参加したスタートアップ・ワールドカップにて優勝したことに加え、採用率が全世界で2.5%未満であるEndeavor(エンデバー)起業家に満場一致で選出される。


家事や子育ては「逃げ場がない」

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──まずは土岐さんご自身の「仕事と育児の両立」について、普段からなにか意識されていることはありますか?

土岐
土日は基本的に、子どもと一緒にいることが多いですね。平日も週に少なくとも1日は、早く帰って子どもと一緒に食事をとるようにしています。そこは本当に、強く意識してますね。そうしないと、なかなか時間を確保するのが難しいので。

子どもたちが中学生くらいになると、どんどん自立していくものだと思うんですよね。それまでのいまの時期に、どれだけ一緒に過ごせるかが家族の土台をつくるので、子どもとの時間は極力つくるようにしています。

永田
よく、周囲の方から「経営者って、時間の融通が利くんじゃないですか?」と言われることがあるんですけど、意外とそうでもなくて...…(笑)。日中はやらなきゃいけない業務がたくさんあるし、夜は会食の予定ですぐに埋まるので。経営者って、一見自由なようで案外自由じゃないなと思います。

土岐
そうですね。我々の夫婦も「使えるものは全部使う」というスタンスです。妻との予定の共有は「タイムツリー」というアプリを活用したり、あとは小学生の息子の宿題を見るために、家にスキャナーを買ったりもしました。

息子に宿題をスキャンさせて、それをぼく宛にLINEで送ってもらうんですね。そうやって遠隔で勉強を教えるといったこともやりました。

──デジタルのツールも使いながら、いろいろと試行錯誤の連続だったんですね。

土岐
やっぱり、夫婦2人だけの力でやろうとすると、どうしても難しいかなと思うので。ただ、家事や育児って「逃げ場がない」ですよね。最終的には誰かが絶対にやらなきゃいけないものなので、私も子育てに前のめりな姿勢で関わっています。


保育士の定着率UPを図る「スマート保育園」構想とは?

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──次は土岐さんが経営されている、ユニファ社の事業について伺っていきたいんですが、まず「スマート保育園」とはどういったものですか?

土岐
そもそもの前提として、我々が感じている保育業界の課題は「若手の保育士の離職率が、非常に高い」ということなんですね。それで、なんで辞めてしまうのかというと「煩雑な事務作業」や「事故への不安」、あとは「職場の人間関係」などがあります。

「スマート保育園」は、これらの問題をまるごと解決して、且つそれを理解しやすいメッセージとして打ち出すためのものです。

【ユニファ】スマート保育園

「スマート保育園」のイメージ図。(画像:次世代型保育園の「スマート保育園」本格始動へ!モデル園の募集を全国で開始します より)


土岐
若手の保育士さんのなかには、保育や子どものこと自体は相変わらず大好きなんだけど、それ以外の先ほど挙げたような問題が原因で、辞めてしまう方も多いんですね。

そこでたとえば「煩雑な事務作業」という問題を解決するために、我々の開発した「キッズリー」というサービスで連絡帳のデジタル化を進めたり、「事故への不安」に対しては「ルクミー午睡チェック」を活用していただくことによって、安心・安全を促進したりします。

そういった形で、保育現場の問題を解決する手段をトータルで提供することによって、保育士の定着率を上げていきたいと思っています。

──先日は「スマート保育園」のモデル園募集のリリースもされていたと思うんですけど、実現に向けての進捗はいかがですか?

土岐
今年の1月20日にプレスリリースを出したところ、想定以上に反響が大きく、短期間で100施設近くの園から応募をいただきました。導入段階に関しては、もう少し数を絞らせていただいて、まずは1件1件丁寧に効果検証を行っていきたいなと思っています。そして近い将来は「スマート保育園」だからと、保育士さんにも価値を感じていただける形にしたいなと。

というのも「スマート保育園」となることが、園側からすると保育士の募集などにつなげられるという声をいただいているんですね。いまは保育園や保育士の方がどれだけ頑張っていても、周りから称賛されにくい状況になっていると思います。

永田
保育士さんの採用的な話だけではなくて、いま少子高齢社会で子どもの数がどんどん減ってなっていくなかで、今度2025年以降くらいからは「保育園の生き残り」という話も出てくると思います。

そうなったときに「園児を集められる保育園は?」という観点や、なにかしらの中立的な判断軸は必要ですよね。そういったことを念頭に置いて、我々パパスマイルも「ベビーテックアワードジャパン」を開催しています。


緊急リリースされた「オンライン園長会」開発の背景

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──では次に、今年の3月2日にリリースされたばかりの「オンライン園長会」について伺いたいです。いまの新型コロナウイルスによる社会状況を見て、全国の園長や施設長などがオンライン上で情報交換をできるサイトを、緊急で立ち上げられたとのことですが、開発の経緯はどういうものだったんですか?

土岐
やはり一番大きかったのは、今回の政府の新型コロナウイルス対策において、小学校以上は休校を要請されたけれども、保育園は対象外になったことです。

改めて保育園が「社会インフラ」だなと感じましたが、それと同時に現場で働かれている保育士や園長先生の苦労は、想像を絶するものだなと思いました。

そういった状況にある人々を、少しでも支えられる方法はないかと、社内で土日も含めて入念な議論をした結果、「オンライン園長会」というサイトを開設することになりました。

──2月27日に休校要請の報道が出てから、サイトがリリースされたのが4日後の3月2日って、ものすごく早いですよね。

土岐
かなりタイトな開発スケジュールだったんですけど、エンジニアは週末を含めて、もう不眠不休に近いような形で動いてくれたかなと思っています。日頃から、多くのメンバーが「世の中のためになりたい!」という思いで、働いてくれていて。

今回の件でも、我々の無理なお願いに不平不満を漏らすのではなく、熱量高く前のめりにやってくれたことが、とてもうれしかったですね。

永田
実際にリリースされて、反響はいかがですか?

土岐
早速、大学の名誉教授など保育分野の有識者の方にも入ってもらいながら、合計で100名弱ほどの方に登録していただいてる状況です。いまはやっぱり、感染症に関する情報交換が一番活発に行われていますね。

永田
「他の園はどうしているんだろう」っていうのは、いま現場で働かれている方たちの、一番気になるところだと思います。ぼくの娘がちょうどこの3月に卒園式があるんですけど、両親と同居家族以外は無観客状態になりました。

1人の園児につき、入れる保護者は2名。在園生の年中さんクラスの参加もなくなりました。卒園までに予定されていた、電車に乗っての遠足をはじめ、大人数になる交流系のプログラムもほとんどがなくなって、娘はがっかりした様子ですね。

こういった感じで、卒園関連行事ひとつとっても「他の園はなにをどこまでやっているんだろう」という情報は、とても貴重だと思います。しかも有識者や現場の園長先生だけというクローズドな環境なので、安心して議論ができるのもいいですよね。


子育てを、社会全体で応援していけるように

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──では最後に、ユニファ社の今後の事業構想を聴かせてもらえますか?

土岐
子育てを、社会全体で応援していけるようにしたいですね。日本の子育て環境は、まだまだ改善の余地があると思っていて。まず保育の現場は「スマート保育園」を中心として、保育士さんの業務負担を下げつつ、離職率を下げていくことを目指していきます。

また、家庭での子育てに関しても、親御さんが本来頑張るべきではないところで、頑張ってしまっている場面もまだまだ多いと思っていて。たとえば液体ミルクが解禁されましたけど、何が良いのか分からないということで、粉ミルクだけを使い続けている方も多いはずです。

そういった状況の改善にも、貢献したいなと思っています。

──保育園だけじゃなくて、家庭での育児など、どんどんカバーする領域を広めていくということですね。

土岐
子どもが生まれることって、社会にとって本当に素晴らしいことです。ただ、いまは「子どもが3人いるんです」と言うと「大変ですねー」と返されてしまったり、新しく保育園を作るとなっても、近隣の方に騒音の問題などで反対されてしまったりする状況もあって。。

AIやICTなどテクノロジーで解決できる保育の問題は、我々がすべて引き受けます。そしてその先で、子育てを世の中の人たちみんなで応援していけるような社会を、作っていきたいですね。

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今回記事に登場してくださった土岐さんの経営する、ユニファ株式会社のHPはこちら!


記事中でも話していただいた、全国の園長や施設長などがオンライン上で情報交換をできるサイト「オンライン園長会」は、こちらから見ることができます。


また、永田が代表を務めるパパスマイル主催の「ベビーテックアワードジャパン2020」は、アワードへのエントリー商品を受付中です。ご興味ある方は、ぜひサイトをチェックしてみてください!


そしてパパスマイルが運営中の、日本で唯一のベビーテック専門メディア「Baby Tech」のサイトはコチラ。ぜひご覧ください!


▼これまでの対談記事一覧

第1回 【パパ兼経営者の二刀流ライフ】子育てして、親育てされて。父親になって、経営者としても成長できた

第2回 ロボット世界大会最年少出場で入賞、孫正義育英財団3期生の息子を育てたパパ経営者が、社会に描くビジョン

第3回 ベトナムで2人のお手伝いさんと共に3人の子育てをするパパ経営者からみた「ここがヘンだよ日本の子育て」

第4回 キャリアの専門家は、子育てもプロなのか?返ってきた答えは「たぶん上手くいかない(苦笑)」

第5回 みんなの魅力を発見し「プロデュース」!人の魅力を届けるため、YouTuberやECサイトを手がけるパパ経営者

第6回 「仕事と育児のバランスは9:1くらい」なパパ経営者が、社員とその家族の分まで健康診断の費用を全額負担する理由

第7回 「2人だけのLINEグループ、何個もあります。」夫婦間のコミュニケーションを円滑にする、LINE活用術とは

第8回 42歳の女装モデル兼2児のパパ。多様性のひとつの形は、オチのないアンジャッシュ?


文/写真:藤本 けんたろう

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