少年たちの星月夜【3】


ゴッホの絵に、「鑑賞」とまじめに向き合ったことのない俺がとやかく言うなんて百年早い。

だからこれは、単純に俺個人としての意見だと思って聞いてほしい。

俺は、ゴッホの描く絵は写実的だと思う。

有名な「ひまわり」は、随分リアルに描いており、下手をすれば、現実に食い込もうとするような意思を感じてしまうほど。

けれど、あの「星月夜」という絵は、どちらかというと「不気味」だ。

大きく誇張された星と、相反して暗く小さな街並み。

ユーモラスだけど、不気味。

好きとか嫌いなんて子供じみた判断とは縁遠い、もはや何かの極致に達した絵画。

こいつは、それを文章にしたいといつも言う。

口癖か、または誓いのように。

その気持ちが「なんとなく」わかってしまうのは、俺も同じ感覚に取りつかれているせいだ。


【俺は俺の世界を、世界に見せつけたい】


誰にも評価されなくていい。自己満足でもいい。

ただ、内側にその世界があることを、一枚の写真で知ってしまった。

気が付いたなら、知ってしまったなら、もう前には戻れなかった。

きっと、こいつもそうなんだ。

こいつは【ゴッホの星月夜】を通して、自分の内側に眠っていた世界を知ってしまった。

それが、表現したくてたまらなくなってしまった。もう戻れないほどに。

ただ、俺たちはまだ悩んでしまう。

それに人生をかけていいのか、そのために高校も大学も決めていいのか悩んでいる。

そんな俺たちを見て、周囲は言う。

「そんな夢物語を語ってないで、堅実な道を行きなさい」と。

でも、堅実な道って何なんだ。

写真家になることを、文筆家になることを、俺たちは真正面から否定されて途方に暮れる。

だから今日も、俺たちは混沌で守ってくれる美術準備室に、ケガをした子犬のように逃げ込むんだ。





【少年たちの星月夜】第一話はこちら


読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポートは、より人に届く物語を書くための糧にさせていただきます(*´▽`*)