見出し画像

「楽しい工場をつくる」溶接工場に飛び込んだ元日本語教師の挑戦ーートンホンサー寛子さん

人々の生活に欠かせないものづくりの楽しさを伝えようと、アクションを起こしはじめた人がいます。

今回お話をうかがったのは、福井県在住のトンホンサー寛子(ひろこ)さん。

トンホンサーさんはパートタイムで溶接のお仕事をしながら、楽しいイメージの新たな工場をつくる挑戦をはじめています。理想の工場を実現するための取り組みがどのように動き出していったのか、そのきっかけ・現在、みつめている未来についてうかがいました。

※この記事は、NPO法人ETIC.(エティック)のアントレプレナーシップ・トレーニングプログラム「PLAY!」の修了メンバーの皆さんのインタビューシリーズ、第2回目となります。
今回は、PLAY!事務局で情報発信やメンバーコミュニティづくりを担当しているシェリー(遠藤さくら)がお届けします。

1.きっかけは溶接の需要と職業イメージのギャップ

画像1

シェリー:トンホンサーさんの自己紹介をお願いします!

トンホンサー:トンホンサー寛子と申します。名字は結婚したタイ人の夫のものです。私はこれまで日本語教師や子供向けの英語教室の教師をしていました。夫は溶接の仕事をしていて、今は日本で働いています。

今まで自分が工場で働いた経験はなかったのですが、夫の仕事をきっかけに工場の仕事に興味を持つようになりました。正直、これまで工場で働いている人は嫌々仕事をやっているイメージがあったのですが、夫は「溶接以外の他の仕事はしたくない」と言うほどやりがいを感じています。そのギャップに課題意識を持ちました。

製造業は社会において欠かせない仕事です。悪いイメージを変え、多くの人が興味を持つ職業にするためにも、溶接の楽しさを伝えられる理想の工場をつくろうとしています。

シェリー:トンホンサーさんは海外にいらっしゃったとPLAY!のコーチから聞きました。どうして海外に興味を持ったのですか?

トンホンサー:私は就職氷河期の時代に大学を卒業しました。就職が難しく、一旦福井で契約社員になりました。その頃から日本で就職できなくても海外に行けばかっこよく見られるのではないかと、外国での生活に憧れを抱くようになりました。

留学は金銭的に無理だったので、海外で働く方法を探しました。未経験でもできる仕事を調べ続けて見つけたのが、寿司職人と日本語教師の二つです。どちらかというと寿司職人の方が習得するまでに時間がかかりそうだったので、日本語教師になることを決めました。その後、資格勉強やミャンマーでのインターンシップなど経て無事日本語教師になり、タイやロシアで働きましたね。

人からは行動力があると言ってもらえるのですが、私としては逃げているだけの感覚です。逃げるための努力はできるんです(笑)。海外で結婚と出産をしたあと、2018年に日本に戻ってきました。

シェリー:トンホンサーさんのテーマが見つかるまでのきっかけや心の変化を教えていただきたいです!

トンホンサー:日本に戻ってきて夫の仕事探しをしているときに、溶接ができる技術者の需要に驚いたことがきっかけです。実は溶接の求人は山ほどあります。でも上達するのに時間がかかる上、離職率が高いので、工場が働き手を見つけるのが難しいのです。溶接の経験があるだけで、求人企業から食いついてくるような状況です。

このように社会から必要とされている仕事であるにも関わらず、工場労働には悪いイメージが先行しています。その証拠に夫が溶接の仕事していると言うと、頼みもしないのに別の仕事を探してきてくれる人がいるのです。私の親も夫がやめたいと言っている訳でもないのに、こっちの仕事のほうがいいのではないかと求人誌を持ってきたことがあります。

しかし、私も夫に聞いてみたことがあるのですが、本人は溶接しかやるつもりはないと言っていました。

本人が仕事にやりがいを感じているのに、周りの人が「嫌々やっている」と決めつけているところに課題、違和感を感じました。工場に対する周りの人のイメージを変え、職人さんがもっと誇りを持って働くにはどうすればいいのだろうと考えるようになり、自分で理想の工場をつくる発想につながりました。

現在は、全くの未経験の状態から溶接工場で働かせてもらうようになり、自分の理想の工場立ち上げに向けた準備をしています。

画像2

2.「あるかもしれないアンテナ」で見つけた溶接のチャンス

シェリー:PLAY!に参加するきっかけや経緯を教えてください!

トンホンサー:きっかけは偶然見つけたFacebookの広告です。ウェブ広告は大抵パッと見て次の瞬間には忘れているのですが、PLAY!は記憶に残りました。広告に書いてあった「やりたいことがあるけれど、どこに相談したらいいかわからない」という言葉が心に突き刺さり、まさに私だと思いました。よくある創業セミナーにも行ったことがあるのですが、結局のところ大勢の人に向けて話される内容は自分にとって欲しい情報でないことが多く、個別に話を聞いてもらえる機会がほしいと思っていました。そんなタイミングでコーチが伴走してくれるPLAY!のプログラムを知り、「これは!」と勢いで応募しました(笑)

スクリーンショット 2021-10-22 17.50.34

シェリー:PLAY!に参加して、日々のリズムはどんな風に変わりましたか?

トンホンサー:PLAY!のコーチングは月1回と決まっています。そのため1ヶ月後に「全く話すことがない!」とならないように、何かしら進んでいる報告をしようと行動していました。最初は正直義務的に頑張っていましたが、だんだん進めるのがくせになってきました。気づいたら自分から動く習慣が出来たのが素晴らしいと思っています(笑)

普段はやりたいことがあっても聞いてくれる人がいないので、結局後回しになってしまいます。コーチングがあることで、アクションを起こすリズムができるようになりました。

シェリー:具体的にどんなアクションをされたんですか?

トンホンサー:コーチング期間にパートタイムの仕事を始めることになり、関根コーチに相談したときのことです。「どんな仕事を探しているんですか?」と言われたので、主婦で子育て中だと長い時間の労働は難しいので飲食店のランチタイムなどに働きたいという話をしました。そうすると「せっかくだったら工場関係はどうでしょうか?」と聞かれました。それを言われるまで、私には工場で働くと言う発想がありませんでした。自分の工場をつくったとしても自分は受付や事務方を請け負い、実際に教えるのは夫やほかの職人さんに頼むつもりだったのです。
(▶︎関根コーチの紹介はこちら

でも、溶接の仕事では基本的にはフルタイムで残業もできる人が好まれるのを知っていたので、「さすがに私が働ける鉄工所はないと思う」と関根コーチに伝えました。それでもコーチは知り合いに聞いてみたらどうかなど、働くためのアイデアをだしてくださいました。

私は正直「ないだろう」と思いながらも、「あるかもしれない」という発想に切り替えてアンテナを張ってみることにしました。すると鉄工所ではないのですが、なんと溶接を未経験OKのパートで募集している求人を発見したのです!

しかし、すぐにうまくいったわけではありません。問い合わせると、今は非常に忙しいので技術のある人が欲しいと言われました。ただ、溶接以外の組み立てや梱包のお仕事も募集しているので、とりあえずそっちで入って機会があれば溶接もやってみるのはどうですかと提案してくださいました。少しでも溶接への道が開けるならと思って面接を受けに行き、働くことになりました。

その後、何ヶ月も溶接をやるチャンスはなく、ずっと組み立てをしていました。そんな中、この夏に溶接を担当していた人が退職されることになったのです。溶接台が空くのでやらないかと私にお声がかかり、溶接担当になれました。溶接はすぐにできるわけではないのでまだまだ練習中なのですが、失敗しながらも毎日一生懸命取り組んでいます。時給が高い訳でもないし、家から近い訳でもないので、「あるかもしれない」とアンテナを立てないとたどり着かなかったと思いますね。

画像4
(溶接をするトンホンサーさん)

シェリー:他にコーチングで印象に残っていることはありますか?

トンホンサー:関根コーチはいつも一つ一つの言葉が優しいです。貶すようなことは絶対に言わないし、言ったことを必ず受け止めてくれます。その上で「でも、こういう方法もありますよね」と言ってくださるので、なんでも話してみようという気持ちになります。つまり私の見方や意見を聞いてから、それと違う観点をわざと出してくれるということです。自分では思いつかなかったような気づきをくれるコーチでした。

シェリー:具体的にどんなエピソードがありますか?

トンホンサー:溶接体験教室をやるための場所探しをコーチに相談しました。溶接は大きな電力を使うので、どんな建物でもいいわけではありません。また将来的にトラックが1台くらい入れる道があったほうがいいんじゃないかとか、周りに住宅がないほうがいいんじゃないかとか、色々なことを気にして全く進まない状態でした。そのときコーチは、「最初から完璧な建物を探すのではなく、最低限譲れないことを明確にするやり方」を教えてくれました。「壁と屋根はいりますよね?」「いや、壁はなくてもいいかも」というような会話をしました(笑)

私は全ての条件が揃うまで物件を探さなければいけないと思い込んでいたのですが、最低限譲れない条件を明確にすると案外物件はでてくるものです。今は候補が見つかり、数件の物件で検討しています。選択する上で、優先順位を決める大切さに気づかされました。完璧を目指さないことで、前よりも確実に進めることができていると思います。

シェリー:PLAY!のコーチング以外のサービスはどうでしたか?

トンホンサー:クエストというイベントがとても参考になりました。ゲストの方のやりたいことや、その裏にある経歴や思いを聞くことができて、人それぞれ色々でいいんだなと思いました。特に酒屋『酒うらら』を開業された堂前さんがゲストの会では、「好きすぎて仕事にしちゃった〜」という言葉に勇気をもらいました。また「3割固まったらやる」という行動力も印象的でした。
(▶︎堂前さんゲストのイベントレポートはこちら

あとはPLAY!メンバーとの交流会で、良いアイデアをもらえたことがありました。ちょうどコロナが全国的に広がっている時期に、鉄工所へのヒアリングを考えていました。色々なことを聞いて回りたいけれども人に会いづらい情勢だったので、どうすればいいかを相談しました。そうしたら、対面で会話をするのを避けるとしたら、タダでいいから現場で一日働かせてくれと言うのはどうかと言われました。一日話を聞くのと同じくらいのことが学べるのではないかと。

ほかにも「私はこれからやりたいことの経験も知識もほとんどない。そんな状態でできることはあるのか」という疑問を投げかけたところ、「最初から橋渡しという立場を目指すのも良い」と言われたのがとても参考になりました。プロの職人さんと、全然縁のない人を結ぶ役目です。素人だからこそ気が付くことがあるはず、素人のほうが橋渡しになりやすい、というのは私にとってそれまで全く考えもしなかった発想でした。

シェリー:PLAY!はどんな方におすすめですか?

トンホンサー:一対一で話す場を求めている方におすすめです。私は大勢の人に自分の考えを話すのが苦手で、集団の中でやりたいと思っていることを本音で話すことができません。着飾ってしまって、結局言いたいことを言えないまま終わってしまいます。私がPLAY!でこんなにもやりたいことを話せたのは、一対一のコミュニケーションだったからだと思います。講演会やセミナーなど多くの人に向けた場では、私の場合は違うんだけど…となりがちです。自分に対してだけ助言をくれるというのは、非常に重要だと思います。

また背中を押されないと一歩踏み出せない人にもおすすめです。私も押されないと進めないタイプなので、専属コーチがいるPLAY!はリズムづくりにぴったりでした。

画像5

(トンホンサーさんがアーク溶接の講習を修了した際の「修了証」)

3.「溶接を楽しむ」体験教室をつくりたい

シェリー:トンホンサーさんの活動が今後どういう風に展開されていくのかお伺いしたいです!

トンホンサー:これからも私自身が溶接の経験を積むことを続けていきながら、溶接体験ができる場をつくりたいと考えています。スペースを見つけて工場に変え、知り合いの人に「ちょっと体験してみませんか?」と声をかけるところから始める予定です。最初から完璧なかたちを求めるのでなく、少しずつ理想に近づけていきたいと思っています。

以前、数少ない溶接体験ができる鉄工所に行ったとき、楽しい体験が一瞬で終わってしまい「これがもっと続けばいいのに」と思いました。そのため私の体験教室はスクールのような形態で、長期的に作品をつくり上げたいというニーズにも答えられるようにしようと考えています。小物を一回つくるだけでなく、私のように大作をつくってみたい人がきっといると思います。

ただし、私は本当の溶接の仕事が見えない体験教室にはしたくないと思っています。やはり現場のリアリティも知ってほしいので、お客さんからお仕事をいただいてで部品を溶接するような本来の仕事が切り離されないようにしたいです。そういう意味では、最初は体験教室をメインに始めますが、最終的には溶接の仕事の受注ができる工場の規模まで広げたいと思っています。

画像6

(トンホンサーさんはロボット溶接にも挑戦中!)

シェリー:私もトンホンサーさんの教室で溶接を体験してみたいと思いました!

トンホンサー:本当に面白いんですよ。5,000〜10,000度の高温でジュワジュワっと鉄を溶かします。それを見るのはとても気持ちがよく、ヒーリング効果があると思います(笑)

自分でものをつくると、持ち手やフックを好きなところにつけられるのも最高ですね。実際にやるとすんなりいかないこともあり、はたから見るよりも奥深いです。例えば、溶接するときに熱で曲がってしまったり、電流が強すぎて穴が開いてしまったりもします。私も最初はパニックになったのですが、それも全部溶接で直せてしまいます。そういった技を習得していくのが面白いです。

溶接というのは認知度が低いので、求人があっても手を出しにくいということがあります。またどんな仕事かわからないまま就職すると、イメージの違いでやめてしまうことも多いのです。もし体験教室や習い事の一つとして溶接が普及すれば、溶接の認知度を上げ、技術力を身につけることもできます。この活動が高い離職度と技術者不足の解決にもつながるかもしれません。とはいえまずは、ものをつくるのがとても楽しく、生活にも役立つということを多くの人に知ってもらえればいいなと思っています!

画像7

インタビューまとめ

トンホンサーさんのお話はいかがでしたか?

溶接やものづくりの面白さをいろんな人に知ってほしい思いが伝わってくるインタビューでした!全くの未経験からチャレンジし、現在はご自身が溶接のお仕事をしているトンホンサーさんの行動力には本当に驚きです。確実に前に進んでいる様子がうかがえて、PLAY!事務局としても嬉しいかぎりです。このままどんどん ”「いつかやりたい!」を、「今やっている」に。”というマインドで、理想の工場をつくりあげていってほしいなと思います!

トンホンサー寛子さんのブログ
こんにちは、おいしいものと楽しいことをさがしが大好きなアラフォーです。夢が膨らむ、ジャズが流れる、明るい鉄工所を作るのが夢です!タイ人夫の仕事に触発されて溶接に興味を持ちました。いい手仕事は絶対に消えない!もっと誇りをもって仕事をしてほしい!
▶︎詳しくはこちら

今後もPLAY!では、自分らしい挑戦スタイルでアクションしつづけたい方々をサポートしていきます。PLAY!に少しでも興味を持ってくださった方は、ぜひお気軽にコーチング無料体験にご参加ください!

==============
【コーチング無料体験&プログラム説明会 実施中!】
PLAY!では、コーチング無料体験&プログラム説明会を開催しています!
お気軽にご参加ください♪
▶︎詳細・予約はこちら
※各日定員1名となりますので、ご検討中の方はお早めに!
==============

【WHAT'S PLAY!】
NPO法人ETIC.が主催する”個人のプロジェクト推進を支援するコーチングプログラム”です。約6ヶ月のパーソナルプログラムでアントレプレナーシップに火をつけ、あなたのチャレンジに伴走します。「実は前から頭にある『妄想』を現実にしてみたい」「本業とは別に自分の好きなことでプロジェクトを立ち上げたい」など、『アイデアを何かカタチにしたい!』という想いを持つ方をお待ちしています!
▶︎公式ウェブサイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?