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ふたりごと

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ふらりと立ち寄った場所で拾ったものがたりをイラストとテキストで不定期更新(2019.4〜)‬‪それぞれが見る景色は二人でいるのにぽつねんとして、‬
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2021.05 お酒

2021.05 お酒

七時間の立ち仕事を終え、さてハイボールを飲もうと安物のボトルを開けたのだが、誤ってスマートフォンにストレートを飲ませてしまった。彼女は突然の事態に状況が飲み込めないような顔をして、しかし次第に焦点が合わなくなっていった。たったの一口で酔っ払ってしまったようだ。私は大変疲れていたので、こんな女を介抱するのは面倒であった。望んでもいないのに眠った彼女を米びつにぶち込み、やっと一人でハイボールを飲んだ。

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2021.4.30(fri)花かんむり

2021.4.30(fri)花かんむり

花かんむりを完成させたことがない。

きらいな物も、きらいな人もいなかった五つの頃、自分がオンナノコであることだけが仄かなユウウツだった。
足の遅いのは仕方がない。力で敵わない存在がいることを知って、悪あがきに武道を習った。髪を短く切ってもらうのがうれしかった。だって翼くんとワタルも短かった。

ただ私として揺られている。毎日化粧をすることは嫌ではなくて、まぶたにオレンジを引けば、素顔よりもすてき

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2021.03 みなとみらい

2021.03 みなとみらい

馬車道から歩いた
まだすこし寒いねと言って
どんどん夜に近づいていくと
観覧車が透けた夜の空にでしゃばっていた
わたしはすこし浮かれて
船の前でポーズを取って見せた
iPhone8の画質
わたしのSEではとうてい敵わない
閉園した小さな遊園地で
汚れた遊具がじっと押し黙っている
それを横目に見ながら
饅頭のような月へ向かって走った
たぶん
近づいてもiPhone8では写せなかったので
わたしはすこ

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2021.02 小鳥

2021.02 小鳥

悲しいことにいまだ、

自分のことを持ち上げる腕力はあっても重力には逆らえなかった。
あれは東京タワーではなく電波塔だし、

悲しいことにいまだ、

人をかき分けてでないとまっすぐ歩くこともおぼつかない。
二本の脚だけではどうしても不十分で、

悲しいことにいまだ、

徒競走ではこの世のすべてに追い抜かれていくばかりだ。
それなのに他のなにかを飼い慣らそうとして、

それなのにいまだ、

あの小さ

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2021.01.31(sun)新宿

2021.01.31(sun)新宿

すこしずつ捨てていく
消耗してすりきれたもの
ともだちがくれた古いアイエイチや
いらないと言ったのに持たされた寝袋
もう似合わなくなったスカートに
いつかフラッグスで買ったバッグすらも
変なシミひとつでいらなくなってしまった

ああここまで来ても結局言えずじまいだったな
もういいけど
だってどうせ後悔する
ちょっとの旅行から帰るみたいに
昔のように手を振ってくれますように

まだあちこちに停留所が

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2020.12.31(thu)交換ノート

2020.12.31(thu)交換ノート

ねえ明日は元気にしていますか
今日はそれなり 新しい靴を買いました
きっとあなたも気に入ると思います
朝と夜に野菜のスープを食べたけど
あなたも明日 同じものを食べるのでしょうね
昨日のあなたが作ってくれた味のうすいスープ
おかげで酩酊した体の調子は戻りました
ところでどうしてあんなに泣いたのですか

あなたは私のただひとりだけの友達
そして恋人 そして私のひとり娘
ただひとり 私だけのわたし

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2020.11.30(mon)金山駅

2020.11.30(mon)金山駅

中央本線でひたすらゆられた25分
19歳とハタチの若者ふたりで

赤い鉄格子におおわれた駅構内はだだっ広く
どんなに広くても欲しいものは見つからない
この先にドンキがあると言って
好きだった人と歩いた一駅がとんでもなく長かった
結局なにが欲しかったのかは思い出せないままだけど
それもチャチな思い出にすぎない
もうずっと大人になってしまってから
好きだったんですよねと伝えた語尾には「笑」がついている

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2020.10.28(wed)喫茶店

2020.10.28(wed)喫茶店

アルコールをしこたま摂取したあとはカフェインに限る。
ラーメン屋へ向かう集団に、わたしはじゃあねと手を振り先をゆく。

駅の向こう側、遅くまでやっている普通のチェーン店で普通のコーヒーを一杯だけ。
豆の違いなんて大人になっても分からないままだから、この二百円のやつが一番美味しい。

中年の男女が色恋沙汰に声を潜めている。一緒になろうよとささやく男の声の本心を探るようにしながら、そんなつもりはないの

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2020.08.17(mon)お盆

2020.08.17(mon)お盆

現実の対岸でブザーの音を三回聞いた。
頭痛の夜は大概ななめになって寝るので、きっとそれがよくなかった。

あの人とあの人は別々の場所に立って、たぶんわたしたちを見ていて、
わたしはぼんやりとしながら、彼女たちの唯一の共通点は、わたしと弟だけなのかもしれない、などと考えていた。

あのふたりの関係についてはほとんど知らない。

そのどちらからも、わたしは自分と同じ血の濃い匂いを感じていたけれど、

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2020.07.25(sut)動物

2020.07.25(sut)動物

すれ違っていく生物たちを嫌悪している訳ではないけれど、
わたしたちは別々の種族として干渉せず暮らしていきたい。

たとえばそのやわらかそうな毛並みも、
ときに従順で、ときに挑発的な瞳も、
薄桃色のてのひらや、実用的な牙も、

ヒトのそれ以上に愛らしいと到底思えない。
そもそもその手触りをよく知らない。

それなのに昨日、猫を飼う夢をみた。
痩せこけて汚れたちいさな猫だった。
餌をやり忘れていたから

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《ふたりごと》2020.06.19(fri)雨

《ふたりごと》2020.06.19(fri)雨

飽和状態のアレが空気をつきやぶって肌にまとわりつく、
そのつめたさになんとか呼吸を再開できる。
だけどあたしはマスクの中でまだ身を潜めてる。

通り過ぎていく軽自動車が道路にすてきなイルミネーションを灯したので、
あたしは知らない中年に笑って見せた。
ひとり笑う女は不気味だったかもしれない、
けれど誰も気づかなかった。

十九時五分、もう眠りの針に引っかかってしまった。
この水槽の外側はこの地球上

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《ふたりごと》2020.05.13(wed)こども

《ふたりごと》2020.05.13(wed)こども

今日夢に出てきてまで叱ってくれたあなたは、一人きりで山に登っていた。
その痩せた猫背とバレッタで留めた髪に触れたいと思った。
名を呼ばなくても振り返る、眉をひそめて口を結んだその顔を、
わたしはよく知っている。
けれどそれは太陽の光がまぶしすぎたせいかもしれない。

たったひとり、
ひとりきりで目を覚まし、バナナと小松菜をミキサーにかけた。
ひとりきりでランドリーへ向かい、回転する衣類を眺める。

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《ふたりごと》2020.04.12(sun) 『1年』

《ふたりごと》2020.04.12(sun) 『1年』

うるんだ空気が彼の頬を濡らしていませんように
そんなふうに祈るのはこれが初めてかもしれない

太陽のまわりをぐるりと回りきり
信仰の対象がひとまわり若がえる
あれに守られていた実感を終えて
これをやさしく温めたいと願った

永遠なんてないと絶望したはずの
一周前にわらわれるかも知れない

ーー偶像について