見出し画像

国立新美術館の「テート美術館展」を完全解説!!  光をコンセプトにして絵画、写真、インスタレーションなど多様なアート!!

こんにちは。
先日、六本木にある国立新美術館の企画展「テート美術館展〜光 ターナー、印象派から現代へ」の最終日に行ってきました。
前から行こう行こうと思いながら、気づいたら最終日!ということで、激混みを予想していましたが、平日だったこともあり、まあまあの混み具合で観ることができました。

まず、私も知らなかった「テート美術館とは」から調べてみます。
「テート美術館」という名称はロンドンにある「旧テート・ギャラリー」、「現テート・ブリテン」のことと思われます。

「テート・ギャラリー」は1897年に実業家ヘンリー・テート(Henry Tate)卿により、彼の所有する65点の近代英国絵画のコレクションをもとにナショナルギャラリーの分館として開館しました。その後、1916年に外国部門のギャラリーを新設して、独立した機関となりました。

所蔵アートの中心はイギリス最大の風景画家「ターナー」が寄贈した180点の油彩画と1900点の素描・水彩画が含まれています。それ以外でもイギリスの著名な画家であるホガース、レノルズ、ゲーンズバラ、コンスタブルの代表作を揃えています。

今回の展覧会は、「テート・ギャラリー」、現在の「テート・ブリテン」の所蔵品から「光」をテーマにした作品を厳選し、18世紀末から現代までの約200年間におよぶイギリスを中心とした様々なアーティストたちの絵画、写真、素描、キネティックアート、そしてインスタレーション、映像等の多様な作品を「光の美術史」として展示するものとなります。

このように「テート美術館」から、ということで、まず、注目すべきは「ターナー」に代表されるイギリスのアーティストの作品を多く観ることができるということです。そして、200年間という長期間における「光」を題材にしたイギリス以外の国のアーティストも含めたアート作品を一同に観ることができるというのも面白い企画と思います。

それでは美術館の展示室に入ってみましょう。本展覧会は基本的に全体で7つのテーマに分かれているようです。
1. 精神的で崇高な光
2. 自然の光
3 室内の光
4. 光の効果
5. 色と光
6 光の再構成
7. 広大な光

そして <ROOM>から<ROOM7>の7つの部屋で、このテーマにほぼ沿ってアート作品が展示されています。

それではひとつひとつのROOMをまわっているように説明したいと思います。

<ROOM1>
まず最初の部屋で現れるのが18世紀から19世紀にかけて製作された「1. 精神的で崇高な光」という、聖書など物語をテーマにした作品と「2. 自然の光」としての自然をテーマにした作品群です。
最初に観ることができるのが自然界の神秘的な光として、
ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー
「噴火するヴェスヴィオ山とナポリ湾の島々を臨む眺め」
「トスカーナの海岸の灯台と月光」


があります。

続いて「旧約聖書」から「アダム」や「大洪水」をテーマにした作品です。
ジェイコブ・モーア 
「大洪水」
ウィリアム・ブレイク
「善の天使と悪の天使」
「アダムを裁く神」


などをみることができます。

そして、大きく圧倒される自然の神秘的で雄大な光を描いた大きな絵画として
ジョン・マーティン
「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」


そして「パンデモニウムへ入る堕天使」
を観ることができした。

次に「旧約聖書」を題材にした
ジョージ・リッチモンド 「光の創造」
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「陽光の中に立つ天使」

そして、この場所にイギリスを代表する著名画家ターナーの作品も何点か観ることができました。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
「湖に沈む夕日」


「陰と闇 大洪水の夕べ」
「光と色彩 大洪水の翌朝」

<ROOM2>
次のスペースに行くと聖書をテーマにした
ウィリアム・ホルマン・ハント 「無垢なる幼児たちの勝利」
があります。
この絵画は「新約聖書」から、キリストが生まれる際にユダヤのヘロデ王が殺したたくさんの赤子の霊を描いたもので幻想的で不思議な光景を感じることができます。



次に14世紀の「薔薇物語」を題材とした
エドワード・コーリー・バーンジョーンズ 「愛と巡礼者」
があります。

その次にジョン・ヤングハンター 「私の妻の庭」
そしてイギリスを代表する風景画家の一人、ジョン・コンスタブルの作品群がありました。

まず海岸を描いた「ハリッジ灯台」


そして「ハムステッド・ヒースのブランチヒルポンド、土手に腰掛ける少年」も素晴らしい作品ですね。



さらに、ジョン・コンスタブルは1829年から亡くなる37年まで、多大な時間と労力を版画製作に捧げたとのことです。そのうち22点の版画が次に展示されていました。

そして、その後、同じイギリスの風景画家
ジョン・リネル 「風景(風車)」
を観ることができます。

アメリカ人として生まれ、イギリス・ロンドンに定住した画家
ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー 「ペールオレンジと緑の黄昏」

その後に、今回の展覧会で私が唯一コピーを購入した
ジョン・ブレット 「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」の美しい海の絵が現れました。


ジョンブレットは、自身も船で何度も航海に出たため、海の風景や海岸の景色などの作品が多いそうです。この作品も見えない太陽からの柔らかな光とその反射がすごく素敵ですよね。

次に、印象派の画家でモネやルノワールとも親交が深かったアルフレッド・シスレーの作品が2点あります。
アルフレッド・シスレー 「春の小さな草地」「ビィの古い船着場へ至る小道」
自然の緑が多く優しい作品ですね。

その後には、同じく印象派の技法に強い影響を受けたイギリス人画家、フィリップ・ウィルソン・スティーアの作品が2点ありました。
私も非常に気に入った「ヨットの行列」


そして「浜辺の人々」です。色合いがとても美しいですね。

次にジョン・エヴァレット・ミレイが、晩年、彼が愛したスコットランドの
風景を描いた作品「露に濡れたハリエニシダ」がありました。
森の樹々が光るもやに包まれた幻想的な作品です。



次に登場するのが、おなじみフランス人画家、クロード・モネの作品2点です。モネも光とその変化が風景に与える影響を探究したといいます。
クロード・モネ 「エブト川のポプラ並木」「ポールヴィレのセーヌ川」

モネと同じくフランスの印象派画家の一人、アルマン・ギヨマンの作品を続けて観ることができます。
アルマン・ギヨマン 「モレシュルロワン」
ギヨマンも光と天候によってさまざまに変化する美しい風景に魅了された一人でした。

さらに同じ印象派のカミーユ・ピサロの作品
カミーユ・ピサロ 「水先案内人がいる桟橋、ルアーヴル、朝、霞がかかった曇天」
この絵では、水面に映るどんよりした朝の光が描かれています。

そして、何故かこの<ROOM2>の最後には草間彌生さんの不思議な鏡とガラスのキューブ作品が置かれていました。
草間彌生 「去ってゆく冬」

<ROOM3>
このエリアは「3 室内の光」をテーマにした作品が展示されています。ここでは、まずコペンハーゲンに住んでいたヴィルヘルム・ハマスホイの作品2点
ヴィルヘルム・ハマスホイ 
「室内」
「室内、床に映る陽光」


を観ることができます。
特に「室内、床に映る陽光」は本当に格子ガラスからの日差しが完璧に優しい色合いで描写されていて好きな作品です。室内を描かせたらこの画家の作品が一番ですね!

そして、もう一枚がロンドンのローゼンスタイン家の室内を描いた作品です。
ウィリアム・ローゼンスタイン 「母と子」です。
ちなみに豆情報ですが、この「母と子」の絵の中の子供が成長して後にテート美術館の館長になったらしいです。

<ROOM4>
さて、この美術展ですが、<ROOM4>から少し趣が変わってきています。
ここでは「4. 光の効果」ということで、19世紀の様々な絵画の新たな表現手法と写真による光の特質や効果を探究している実験的作品を展示しています。

まず最初は、今回の展示会を代表するジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの光の反射と屈折、リフレクシーの研究に基づく素描作品群を紹介しています。彼は1802年にロンドンのロイヤルアカデミー会員となり、会員たちにこうした光の状態をどう描くかを説明したようです。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「講義のための図解」(11点)

次に、もともと建築学を学んでいたエトムント・コラインの実験的な写真
エトムント・コライン 「無題」(2点)

そして、同じく建築を学んだ後、実験的な写真や映画製作をしたステファン・テマーソンの写真がいくつか展示されています。
ステファン・テマーソン 「無題」(3点)

ここから写真作品が続きます。

日本人写真家のの山脇巌さんの光を様々な方法で室内を移した写真
山脇巌 「無題」(2点)「重なったボウル」

日本人写真家、ハナヤ勘兵衛の光の実験作品
ハナヤ勘兵衛 「光A」「光B」「光C」

イタリアの写真家ルイジ・ヴェロネージの作品群です。
ルイジ・ヴェロネージ
「構造」「無題」「写真n152」「写真n145」


「運動の習作」

そして、ハンガリーの写真家、ケベシュ・ジェルジの作品
ケベシュ・ジェルジ
「構造のフォトグラム」「光の反射」「枝」「しずく3」「円と点」
「光の反射」

このエリアにはアメリカ生まれのリリアン・レインのモーターで動くターンテーブル上の球体作品もあります。
リリアン・レイン 「液体の反射」

<ROOM4>の最後には、次のテーマである「5. 色と光」に分類されているハンガリーの先駆的アーティスト、モホイナジ・ラースローの現代アート作品 も展示されていました。
モホイナジ・ラースロー 「K VII」

そしてドイツのアーティスト、ヨーゼフ・アルバースの現代アート作品
ヨーゼフ・アルバース 「正方形讃歌のための習作」シリーズ
青、緑、黄色の四角形模様で印象深かったですね。

<ROOM5>
この後半エリアから、展示はモダンアートの色彩が強くなってきます。ロシア生まれでドイツで暮らしたワシリー・カンディンスキーの前衛的作品
ワシリー・カンディンスキー 「スウィング」

アメリカ人画家のバーネット・ニューマンの現代画
バーネット・ニューマン 「アダム」

ニューヨークの抽象表現画家、マーク・ロスコの抽象画
マーク・ロスコ 「黒の上の薄い赤」


「無題」

コンセプチュアルアートの先駆者、スティーヴン・ヴラッツの造形作品
スティーヴン・ヴラッツ 「ヴィジュアルフィールドオートマティックNO1」

抽象絵画を描く世界でも有名なあのゲハルト・リヒターの作品も展示されていました。
ゲハルト・リヒター 「アブストラクトペインティング」

続いては幾何学的パターンに基づく抽象絵画を得意とするブリジット・ライリーの作品がありました。
ブリジット・ライリー
「ナタラージャ」


その隣にはスケールの大きいインスタレーション作品が得意なペー・ホワイトの造形作品が結構なスペースを取っていました。
ペー・ホワイト 「ぶら下がったかけら」


<ROOM6>
最後のスペースは「6 光の再構成」というテーマに分類される作品群です。現代アーティスト、ピーター・セッシリーのプログラミングによって、一定の時間で円が変化するインスタレーション作品
ピーター・セッシリー 「カラーサイクルⅢ」


観るものを惹きつける作品です。これはミュージアムショップでお土産としてモチーフが販売されていました。

続いて、長い壁に挟まれた細い隙間を覗くインスタレーションアートは現代アーティスト、ブルース・ナウマンの作品です。
ブルース・ナウマン 「鏡と白色光の廊下」

写真家キャサリン・ヤースの光溢れる作品
キャサリン・ヤース 「廊下」シリーズ

同じく現代写真家、ジュリアン・オビーの連作
ジュリアン・オビー 「雨、足跡、サイレン」「トラック、鳥、風」「声、足跡、電話」

そして、このスペースで最も場所をとっていた作品が、スコットランド出身のアーティスト、デイヴィッド・バチェラーのものです。
デイヴィッド・バチェラー 「ブリックレーンのスペクトル2」は天井まで届くほどの高さの電飾の塔です。
「私が愛するキングスクロス駅」は色付きの台車を並べた作品です。


そして、さらに展示作品は現代アート色が強くなり、このスペースの最後は現代アーティスト、ジェームズ・タレルの幻想的な作品でした。
ジェームズ・タレル 「レイマーブルー」
これは暗い部屋に青色の電飾の巨大な四角が光っている、とても未来的なアートとなります。このジェームズ・タレルは展覧会では「7. 広大な光」テーマに分類されています。



<ROOM7>
現代芸術家ダン・フレイヴィンの作品は蛍光灯を使った巨大な摩天楼のようです。
ダン・フレイヴィン 「ウラジミールタトリンのためのモニュメント」

そして、ロンドンの映像アーティスト、リズ・ローズの作品は小さな部屋の両端に機械音とともに動くモノクロの映像作品でした。
リズ・ローズ 「光の音楽」

そして、この展示会の最後を締めるのが、オラファー・エリアソンの巨大な球体作品でした。
オラファー・エリアソン 「星くずの素粒子」



このように、前半は18世紀からの古典絵画を中心に、いかに自然の光をアートとして描くかの作品が展示されていました。
そして、後半はうって変わって現代アートの中での光と色の絵画、光を使って新たな感覚を呼び覚ますようなインスタレーションや造形アートの作品を観せてくれました。

この展覧会では、多様なアートジャンルのものを「光」というひとつのテーマで経験できる大変面白い試みの展覧会でした。
この企画展覧会は、すでに中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各国の各都市で開催され、各地で好評を得ていたと聞いています。
東京でも、さる9月15日に来場20万人を突破して、まずまずの評価を得ているのではないかと思われます。

一般的な展覧会は、ある一定の時代や決まったアーティストを特集することが多いと思いますが、この展覧会は印象派の絵画から写真や現代アートまでと非常に幅広い芸術を経験できます。これは、例えば、有名どころのレジェンド絵画だけが好きな人にとっては、まとまりがなく、お気に召さないかもしれませんが、それなりにアート全般のジャンルが好きなファンには1箇所で色々なジャンルの作品が見れて非常に面白いではないかと思います。

残念ながら、私が最終日に訪問したこともあり、六本木の国立新美術館での展覧会は終わってしまいましたが、関西の方には朗報です。大阪中之島美術館にて10月26日から開催されます。

是非、足を運んでみてください。
それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?