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【書籍紹介】「竜とみつばち -中国海域のオランダ人400年史-」 レオナルド・ブリュッセイ/著 深見純生/藤田加代子/小池誠/訳 (発行所/株式会社 晃洋書房 2008年3月10日 初版第1刷発行)

◎主に1600年代~2000年頃までのオランダと中国との関わりについて書かれた本。
◎1989年に予定されたオランダのベアトリクス女王と夫君クラウス殿下訪中に先駆けて書かれたが、天安門事件によりこの訪中は中止。書籍のみが中国当局に届けられ、1998年の女王訪中時にこの内容に言及されたとある。


【概要】

オランダ史のうち、交易から始まり、さらなる交易の発展・深化のため相互理解と文化の融合に至るまでの400年にわたる中国との関係に主眼を置いた書籍。オランダと中国の四世紀あまりの関係は交易に始まり、現代もなお交易によって規定されている。とまとめられている。


【各章紹介】

以下はこの書籍の各章でどのような内容に触れられているかをごく簡略的に、あるいは内容にまつわるキーワードなどを並べています。
「タイトルと目次だけでは知り得ない、知りたい・学びたい内容がこの書籍に書かれているかどうか」の確認のためにご利用ください。
著作権に触れないようそれぞれの内容詳細については書いておりません。


☆第1章 中国と世界

〇 中国の伝統的な世界観について
〇 シルクロードの時代から明代までの交易、陸上ルートと海上ルートそれぞれの発展について
〇 中国の海外交易と”あるべき世界秩序”について


☆第2章 ヨーロッパの海外発展

〇 オスマン帝国の勢力拡大が引き起こした影響について
〇 スペインとポルトガルの海外領土征服と支配の性質の違いについて
〇 低地諸国(ネーデルラント)の商業中心地域の変遷について
〇 ヤン・ハイヘン・ファン・リンスホーテンとデュルク・ヘリッツゾーン・ポンプの功績について


☆第3章 中国への道

〇 オランダとポルトガルとの東アジア地域における紛争に至る経緯について
〇 「連合東インド会社(VOC:Verenigde Oost-Indische Compagnie)」の誕生について


☆第4章 武断政策の挫折

〇 12年休戦時のVOCの躍進について
〇 4代目VOC総督ヤン・ピーテルスゾーン・クーンの目的とその手段について
〇 中国海上商人が躍進してゆく経緯について


☆第5章 イリャ・フォルモサ -美麗なる島-

〇 1624~1662年のオランダのフォルモサ支配と、残した文化について
〇 李旦および鄭芝龍と鄭成功父子について


☆第6章 中国文化の発見

〇 17世紀頃の中国沿岸部とバタヴィアにおける中国人とオランダ人との関係性の違いについて
〇 17世紀にオランダが西ヨーロッパにもたらした中国観について


☆第7章 中国のヨーロッパ制覇

〇 中国市場における主要商品の変遷とヨーロッパにもたらした文化について
〇 18世紀から19世紀にかけてオランダが中国市場を失ってゆく経緯について


☆第8章 東インド諸島における中国人の発展

〇 VOCの東インド諸島支配拡大と中国人移民について
〇 サトウキビ栽培と製糖業の功罪について
〇 「オランダ人は中国人を手先としてジャワ人を搾取した」という見方は、実は非常に単純化されすぎたものであるということについての解説


☆第9章 中国の科学的発展

〇 19世紀、東インド諸島への中国人移民の増加および中国人通訳や助言者の必要性が高まった経緯について
〇オランダが養成した中国学者・中国語通訳の大家について


☆第10章 外交関係の樹立

〇 19世紀の中国に対する諸外国の対応の変化と、オランダの姿勢について
〇 20世紀初頭のバタヴィアの中国人の状況とオランダの政策の変化について


☆第11章 媒介者と開拓者

〇オランダと中国の相互関係の展開に貢献した人々について
〇 インドネシアのプラナカンについて


☆第12章 新たな出発

〇 中華人民共和国とオランダの現在に至るまでの関係について
〇 オランダ社会を担うプラナカンについて


【感想】

こちら翻訳本ということで一種独特の読みにくさはありますが、
非常に面白い。非常に学べる。
という点だけは間違いありません。

この時代のオランダ・中国・台湾・インドネシア関連についてを知りたい学びたいと思う人にとっては、必携の一冊であると思います。

(※ただし台湾についてはオランダ統治期およびその前後がメイン。インドネシアについてはインドネシア在住の中国人とオランダ人との間の関係に主なスポットライトが当てられています)

内容については「オランダ女王夫妻(当時)の訪中に合わせて、鄧小平主席(当時)に捧げられるために書かれた」と序文にある通り、双方の国にとって耳に優しい…と言うか、ややオランダ側を下げて中国側を持ち上げているような印象はありますが、事実は事実として取り上げられ、それにまつわる背景や解説が詳細に述べられています。

内容については完全な編年体の構成ではなく、章によっては多少の時系列の行きつ戻りつの内容がありますが、内容がきちんと綴られており関連個所が判別しやすいため、問題なく読めることでしょう。

それにしても。

中国と継続的な交易をするためにオランダ側は非常に頑張ったんだなぁ(しかもあまり報われてない…)とか、インドネシア、当時の東インド諸島における中国人商人や移民の歴史とか、時代によっては日本や日本人にも関わってくる内容ではあるのに、知らなかった事実も多く、非常に目が開かされる思いです。

作中でも多少取り上げられておりますが、日本とオランダの400年史と引き比べてみての、中国とオランダの400年史。その違いについて秋の夜長に思いをはせてみるのもよろしいのではないでしょうか。

歴史好きの皆様にも、ヘタリア好きの皆様にも、
はたまた比較文化論好きな皆様にも、どちら方面にもお薦めできる良書でした。

ここまでお読み頂きありがとうございました。 今後も色々と精進してゆきたいと思っております。