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ファイナンス(企業財務)の基本㊲:「取締役会での議論に使える会計・ファイナンス」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

取締役会での議論に使える会計・ファイナンス(尾中直也 著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。

この本では、若干踏み込んだ(難しめの)内容についても書いてありますが、各章のはじめに「取締役会の一場面(ストーリー)」が描かれていて、とても読みやすかったです。

今回、この本で特に面白いなと感じたところや、自分にとって大切なところをメモしてみました。もし、自分のまとめ(メモ)をみて「この本を読んでみようかな」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。


はじめに

本書には、上場会社のマネジメント層に知っておいてほしい会計やファイナンスの実践的な知識を記載した。そして、本書でピックアップした6項目(第1〜6章)の内容は、取締役会で会社の意思決定をするにあたって、特に重要なことであると考える。

また、マネジメント層に会計・ファイナンスのスキルが必要な理由を大きく分類すると、下記3点となる。

  1. 不正会計の防止
    不正会計の根本原因の多くは、業績を上げることに重きを置きすぎる企業文化にある。業績を上げることはもちろん大切であるが、健全な活動を支えるリスク管理体制は必要であり、その体制構築の責任の所在はマネジメント層にある。(会計・ファイナンスのスキルがなければ、適切なリスク管理はできない)

  2. 経済事象の会計的インパクトの把握
    例えば、自社に大きな買収案件が巡ってきた場合、マネジメント層はその合理的な判断尺度を持ち、意思決定する必要がある。(会計・ファイナンスのスキルがなければ、適切な意思決定はできない)

  3. 企業価値の向上
    収益力を高める、財務基盤を安定させるなどの企業価値向上策はわかりやすい。一方、ファイナンス的な尺度から企業価値を毀損させているものが何かを明らかにして、それを解消するといった「ネガティブ要素の排除」は、会計・ファイナンスのスキルがなければ、それを実行するのはなかなか難しい。

第1章 ROEと資本コスト

資本コストについて

WACCとは
資本コストは、WACC(Weighted Average Cost of Capital)で表現されるのが一般的である。WACCは、株主資本コストと負債コストの加重平均により算出される。
(WACCの計算方法等については、もしよければ下記の記事もご参照ください)

WACCの利用場面
WACCは、実務において例えば下記のような場面で利用されることが想定される。

  • M&Aを行う場合の企業価値の算出

  • 設備投資の意思決定をするための現在価値の算出

  • 減損測定における現在価値の算出

自社の資本コストは、WACCで機械的に決めるものなのか?
資本コストは将来キャッシュフローの割引率として用いられるものであり、過去データに過ぎないβ値や株式リスクプレミアムをいくら精緻に計算したところで、そこで算出された資本コストは一定の目安にしかならない。

このような事実を鑑みると、自社の株主からの負託に応えられる資本コストや自社の事業推進に用いるべき資本コストを、(思考停止したような状態で)機械的に算出されるWACCのみで表現するのは、必ずしもベストであるとは言えないと考える。

すなわち、自社の株主の要求を満たす資本コストや、事業の良し悪しを判断するための資本コストは、公式に当てはめれば単純計算されるといった代物ではなく、経営陣が全力で模索して導き出すものであると考えてもよいかもしれない。

企業価値を毀損させる要因

資本コスト(割引率)を考慮した場合、多くの会社において保有している手元キャッシュが5年後には8掛け以下という計算になる。
(5年後に今の手元キャッシュがあるとして、そのキャッシュを割引率で現在価値に換算した場合の計算)

これは、過去から配当をせずに内部留保によってため込んだ過剰なキャッシュで、設備投資などに使用することもなく余剰資金として放置した場合、5年間の間にそのキャッシュの2割以上相当の企業価値を毀損させていることを意味する

また、企業が保有する政策保有株式(持ち合い株式)も同様に、政策保有することで資本コストを上回る収益を期待できないのであれば、それは経済合理性に反するため、企業価値の毀損要因となる。この場合は、政策保有株を売却して、その資金で自社株買いをした方が株主利益への貢献につながる。

以上のように、運転資金でもない過剰な現金を保有していることや、政策保有株式を持っていること(物言わぬ株主が存在すること)は、ファイナンス理論の観点で企業価値を毀損していることになる。

買収対象の企業価値算定の実際

自社にとって興味深い、「総額20億円での全株式譲渡のM&A案件の話」があったと仮定して、その株式取得の是非について、取締役会で検討することを想定する。

M&A案件の話の前提
・持ちかけられた話としては、企業価値20億円
・自社が独自に対象会社の企業価値を算出したところ、15億円
 (取締役会の開催前に、その対象会社の企業価値をDCF法によって算出)
・対象会社は、自社が欲しいと技術やノウハウ、販売網を保有している

上記前提の場合、このまま20億円で買収しようとすると「割高なM&A」となってしまう。

しかしながら、この買収を成就させたいと考えている自社のM&A担当役員を筆頭に、売り手側(対象会社の株主)やM&Aアドバイリーの方々は、対象会社の事業計画の数値を上方修正するなど、何とか企業価値が20億円に届くように数値調整したいと考えるのが、現実である。

すなわち、上記のように買収が事実上決定している場合、理論上の買収価格を吊り上げるなどの目的で、数字的裏付けの乏しい楽観的事業計画となっている可能性があるため、注意が必要である。

これに加えて、買収後事業計画のシナジーを過度に信仰していないか、という点も要注意である。企業価値15億円を20億円にバリューアップさせる魔法の杖がシナジー効果というマジックワードであるが、M&Aが行われた多くの実例において、シナジー効果がしっかりと発揮されたという例はほとんどない、というのが現実である。

このように、取締役会で検討される前に、買収価格も決まっている(買い手側の経営者含む)ケースが実際には多い。取締役会では、買収価格の判断材料として第三者評価機関によるバリュエーションレポートが事前配布されるが、そのレポートにおいても算定結果はおそらく20億円(すり合わせ済みの数値)となっている。
よって、取締役会においてM&Aの可否について議論する際には、第三者評価機関によるバリュエーションレポートに対して、下記2点を行う必要がある

  1. 資本コストが適正かどうか、計算に用いた数式・数値を確認する

  2. 対象企業の損益計画の合理性・実現可能性について、担当者に詳細な説明を求めて確認する

ROICの活用

VUCAといわれる今の時代に、収益性イマイチで成長性も期待が薄い事業をダラダラとやっているのであれば、そういった事業はさっさと撤退して、企業価値に貢献するような「儲かる事業」を推進することが重要である。その儲かる/儲からないの尺度としての資本生産性指標がROE、RIOCである。

ROE = 当期純利益 / 自己資本
   = 売上高利益率 x 総資産回転率 x 財務レバレッジ

ROIC = 税引後営業利益(NOPAT)/ 投下資本(自己資本 + 有利子負債) 

ROEは財務レバレッジを利かせる(負債比率を大きくする)ことで、収益性を高めなくても引き上げることができるが、ROICはそれができない。

また、ROICは「事業部別に効率性管理ができる」という特徴もある。
ROEは、事業別に純資産を分解するということは非現実的であるため、各事業部別の経営指標として落とし込むのは困難である。一方、ROICは事業で使う原資が自己資本(株主資本)と他人資本(有利子負債)であるため、これが運転資本と固定資産に形を変えていると考えれば、それを事業部別に分解するだけで投下資本を計算することができる(下図)。

ROICの分母の考え方

上記より、ROICは事業ポートフォリオの管理に適していると考えられ、ROICは社内での共通言語として使われる場合が多い。資本コストであるWACCを上回るROICを各事業ユニットで達成できるかを目標として、各事業ユニットではROICに結び付くKPI にブレイクダンして運用するのである。なお、資本コストと言っても現場の従業員にとってはピンとこないのが正直なところであるため、ROICの構成要素に分解したものをKPIとすることで、結果的に重要員に資本コストへの意識づけができるというわけである。オムロンのROIC経営は有名であるため、具体例として参考にすると良い。

※ メモした内容以外にも、本章にはROE・WACCの詳細な説明、自社の資本コストをどう考えるか等が書いてありました。

第2章 会計上の見積り

会計上の見積もりとは

会計上の見積もりとは、「資産及び負債、収益及び費用などの金額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいてその合理的な金額を見積もって算出すること」である。会計上の見積もりを行うことは、マネジメントの役割である。

また、この会計上の見積もりの特徴は「その将来予測や仮定の設定などは、マネジメントの偏向の可能性が伴う」という点である。あくまでも見積もり行為であるため、見積もり対象となった事象が確定した場合には、過去に行った見積額との間で乖離が生じることの方がむしろ一般的である。

ここで重要なのは、見積もり時点で最善と言える入念な対応をしておく必要がある、ということである。具体的には、下記のようなことはあってはならない。

  • 見積もりをするにあたって当然必要となる情報入手を怠っていた

  • 将来予測を過度に楽観的に行っていた

上記のようなことがあった場合、それは実務上、見積もり時点における「見積もりの誤謬」という扱いとなり、その重要性によっては修正再表示(かこの財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映すること)の検討も必要となってしまう。そして、「会計上の見積もり」が財務諸表に大きな影響を与える項目は、下記2点である。

  1. 固定資産の減損

  2. 繰延税金資産の回収可能性

上記2点については、マネジメントがその考え方、計上プロセスを理解しておく必要がある。

固定資産の減損

「減損」とは、資産の収益性の低下により回収が見込めなくなった状態のことである。そして「減損処理」とは、減損の場合に一定の条件下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理のことである。

すなわち、減損処置とは「お金を投資した固定資産からきちんと回収されているいるかをチェックして、回収可能性がないと判断された固定資産については、その帳簿価額を回収可能価額まで減額することにより、将来の損失を先送りしない」という考え方・対応となる。

ではここで、「なぜ、土地などの非減価償却資産のみならず、毎期減価償却している固定資産についても減損処理を強いられるのか?」ということについて考えてみる。そもそも、固定資産の資産計上というのは、その固定資産から利益が生じるという前提があることで認められている。一方、その前提が崩れてしまったら、当該固定資産については(簿価相当の)資産価値が毀損している。そのため、その固定資産の価値は資産性が認められるところまで落とすこと(減損という形で減額すること)が求められる、ということになる。

また、減損会計は下記5ステップで行う。
(書籍には、各ステップの詳細が記載してあります)

  1. 資産のグルーピング

  2. 減損兆候の把握

  3. 減損損失の認識の判定

  4. 減損損失の額の測定

  5. 会計処理

繰延税金資産の回収可能性

まず「繰延税金資産」とは、税効果会計に関連する勘定科目の1つである。
将来の税負担が軽減される額を資産として計上するもので、実質的に法人税等の先払いを意味する。「税負担を軽減する効果に資産価値がある」と考えられるため、貸借対照表の資産の部に計上する。

ここで、上述の「税効果会計」とは、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の帰属年度の違いを調整するために行われる会計処理方法のことで、主に上場会社に適用される。法人税等の額を適切に期間配分し、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることが、税効果会計の目的である。

そして、「繰延税金資産の回収可能性」とは、繰延税金資産を将来回収できるかを判断することである。繰延税金資産は、将来の税負担を軽減する効果を資産として計上するが、将来業績が悪化して課税所得が発生しなければ、税負担を軽減する効果を得られない。つまり、繰延税金資産に資産価値がないため、計上することができないということになる。

※ 本章には減損、繰延税金資産の回収可能性について、メモ内容よりも詳細な説明が書いてありました。また、繰延税金資産の回収可能性については、下記サイトも参考になりました。


第3章 新株予約権

インセンティブ制度や資金調達、買収防衛策に利用される新株予約権

新株予約権(ストック・オプション含む)については、その発行に関して取締役会の決議事項となっている。

新株予約権とは、新株を予め決められた価格で取得する権利のことをいう。
新株予約権は、いわゆるコールオプション(特定の原資産について、一定の行使期間内に、予め定められた権利行使価格で買う権利のこと)であり、具体的には下記3つを指す。

  • ストックオプション
    インセンティブ制度として活用される。

  • ワラント(新株引受権)
    資金調達目的で活用される。

  • 転換社債型新株予約権付社債(CB)における転換権部分
    資金調達目的で活用される。

また、新株予約権は買収防衛策として使われることもある。

※ 本章には、ストックオプション制度などについて、基礎的なところから企業価値・会計に与える影響まで、丁寧に説明が書いてありました。

第4章 連結会計

連結は不正会計の温床

子会社を有する会社であれば、基本的には連結財務諸表を作成・公表する必要があり、それとは別に親会社単体の個別財務諸表についても公表する必要がある。

そのような中、連結外の子会社を用いた(連結範囲を恣意的に操作した)「連結外し」や「隠れ子会社」と呼ばれる粉飾が散見される。

連結の範囲

連結の範囲は、下記ルールに従う。

親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含める。
ここでいう「親会社」とは、「他の企業」の財務及び営業または事業の方針を決定する機関(意思決定機関)を支配している企業をいう。「子会社」とは、前述の「他の企業」のことを指す。

すなわち、他の企業の意思決定機関を支配しているかどうかで、連結の範囲に含める子会社かどうかを判断するのである。

ただし、補足事項として「重要性の乏しい会社は連結の範囲から外しても良い」というルールが存在する。そのため、取締役会では不正会計防止の観点で、連結対象外としている子会社については「本当に重要性が乏しいのか?」というチェックをしておく必要がある。

関連会社に適用する持分法

50%以上株式を保有されているのが子会社であれば、20%以上株式を保有されているのを「関連会社」と呼び、連結財務諸表の作成において持分法を適用する必要がある

例えば、関連会社への持分が30%あって、その関連会社が100の利益をあげたとすると、連結財務表には30計上するという、シンプルな処理となる。

※ メモした内容以外にも、本章には不正会計の具体例や、連結会計処理の説明などが詳細に書いてありました。

第5章 組織再編

組織再編の手法

主な組織再編の手法は、下記5つある。

  • 合併
    2つ以上の会社が1つになること。

  • 全社分割
    会社で運営している既存事業の一部を切り出すこと。

  • 株式交換
    ある会社が他の会社(対象会社)を完全子会社化しようとするとき、対象会社の株主に対して自社の株式を交付することで、100%親子関係になること。

  • 株式移転
    1つまたは2つ以上の会社が、その発行する全ての株式を新たに新設する会社(持株会社)に移転させることで、完全親会社が新設されること。

  • 事業譲渡
    会社がその事業活動を行うために有している組織的財産の一部または全部を譲渡すること。

※ メモした内容以外にも、本章には組織再編の具体的な活用事例や、組織再編において、会計・ファイナンス観点で考慮すべき点などが書いてありました。

第6章 IFRS

IFRS導入の注意事項

IFRS(イファース / アイファース)とは「International Financial Reporting Standards」の略で、国際会計基準である。

日本企業においてもIFRS導入検討が散見されるが、その際に注意した方が良いのが「経理・財務部員の業務量増加」である。

※ メモした内容以外にも、本章にはIFRSの会計処理詳細などが書いてありました。
 また、IFRSと日本基準との違いについては、下記サイトも参考になりました。

以上です。

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