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図書館が存在する意味とは

図書館は誰のために何のために存在するのか。

フレデリック・ワイズマン監督による「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」には、そのことについて考えるヒントがたくさん詰まっている。

図書館は単なる書庫ではない。人々がより良く生き、暮らすしていくための機会を得られる場である。

といったメッセージが映画を通して語られる。

特にニューヨーク公共図書館には、ションバーク黒人文化研究センターという、黒人の歴史に関する専門的な研究を蓄積した施設も有しいることが特徴的だ。

人種の坩堝の象徴ともいえるニューヨーク市において、黒人差別の問題は未だに根深いようだ。

黒人差別の背景には、様々な思想的、歴史的問題が絡んでおり、容易には解きほぐすことができない。

ただ、ションバーク黒人文化研究センターのような場所があることによって、黒人の社会的地位の向上に向けた機会が広がってきたことが分かるし、相互理解の装置として一定程度成果を上げてきたことも伝えられている。

映画の中で直接語られているわけではないが、図書館とは、一部の人達のためのものではなく、特にマイノリティや社会的立場の弱い人達にこそあるのではないかと思えてくる。

ただ、ニューヨーク市としても大きな問題となっているホームレスの利用について、図書館の役員会では議論になっていたりする。

居眠りをしているだけのような人に対しては利用を制限すべきではないか、といった意見も出るなど、委員会内でも考えが割れる。

最終的には市と連携しながら問題に対処していくという結論になるのだが、この図書館のすごいところは、行政も含め多様な機関と連携している所にあるのだろう。

資金の約半分を市から、残り半分を民間からの寄付等によって成り立たせているニューヨーク公共図書館では、常に財政状況を安定化させることに苦慮している。
この意味で、この映画は非営利組織のマネジメントを考える上でも非常に参考になる。

行政からの援助と民間からの支援の割合はどうあるべきか。行政のやりたいことと、自分達のやりたいことのバランスをどう取っていけばいいのか。例えば図書の選定にあたって、読者からのベストセラー本の収集を行うことは貸出増に繋がることから、市に対しても実績として示しやすい。ただ、ベストセラー本ばかり集めていても、本来残すべき貴重な書籍を残すことができない。これは図書館のパーパスを曲げることになってしまうのではないか。

といった議論が図書館幹部の間で交わされる。

こうした論点は多くの非営利組織が日常的に抱えているものであり、考え方を整理するにも大変参考になるだろう。

さらに、映画の中では、図書館に招かれる各界の著名人達とのトークイベントの模様が紹介され、彼らの口から語られる話から、言葉や文学、そしてアートの持つ価値と可能性についても深く考えさせられる内容となっている。

全編を通して、同図書館の日常が淡々と描かれているのだが、だからこそ図書館の持つ意義と可能性について、そして言葉の持つ力について深く考えさせられる、そんな力強さを持った作品だった。

ニューヨーク公共図書館については、こちらの本も是非合わせて読みたい。
数年前に他界され、仕事でも大変お世話になった「せんだい・みやぎNPOセンター」の加藤哲夫さんから薦められて読んだ一冊。

この本を読んで自分の仕事に対する見方、価値観が大きく変わったように思います。


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